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道ばたで遭遇するにはあまりにもおかしなモノクルをかけた初老と出会う
しおりを挟む学校が終わると河原の近くを通って家に帰る。
河原といっても街の間を半身になって通るような小さな川と、申し訳程度に整備された細い遊歩道があるだけだ。
そんな小さな空間だが、僕のように特別やることがない人間にとっては、そこが相応しい場所のように映る。誰からも利用されないにも関わらず、整備されている在り方はまさに僕そのものだ。
しかし今日に限りそれは少し違うらしい。僕はいつも僕が座る椅子を前に立ち止まった。
視線の先には、白い髭を蓄えた目つきの鋭い初老の男が座っていた。初老の男は、遊歩道の中央に配置された年輪模様の木のテーブルが優雅なレストランの一席であるかのように、品のある動作で立ち上がると、僕を見て一言呟いた。
「お嬢様、待っておりましたぞ」
僕は自分の格好を見た。
濡れた制服は授業を受けている間に一応乾いている。
しかし自分が着ているのは白いブラウスとスカートであり、携えているのはボロボロによれたスクールバッグだ。
どうみても僕はお嬢様ではないし、家柄が良い心当たりもない。
一般常識を照らし合わせればこの初老の男の行動は変質者に違いない。
だが男の着ているスーツはずいぶん上等に見えるし、目つきの鋭さを強調させるようにかけられたモノクルは、絵本の中の執事そのものだ。また、初老にそぐわないピンと伸びた姿勢が、変質者と判断する要素を削り取っていた。
(本物の変態紳士・・・・・・?)
モノクル(初老の男のこと)が、洗練された所作で腰をかがめ黙礼する。そしてそのままの姿勢で僕へと話しかける。
「探しましたぞ。あなたが無事でなによりでございます。この爺めは、あなたがいなくなってからどう館を修復するかと右往左往いたしました。しかし、今こうしてあなたを見つけた以上、その役目から離れられるということ。ぜひ館へとお帰りくださいませ」
「・・・・・・えと」
僕が戸惑うのも無理はない。この初老の男が喋った内容はすべて初耳である。そして僕の人生に館の文字はない。
「人違い・・・・・・じゃないですか?」
人間とは不思議で、この人間はいじめても大丈夫とか、変なことを言っても許されるとか、そういうことを無意識かで察知できるようで、僕には木に蜜を塗ったかのように変な虫がたくさん集まる。
えてして愛情不足の人間こそそうなりやすく、僕はまさに格好の餌食といえるだろう。
「否っ!! お嬢様で間違い在りません。この爺、下の気が老いることはあっても、大事なお嬢様を間違えることなどありえません!!」
なんだこいつ。こういうキャラか。この手のタイプは初めてだ。
僕は静かに踵を返し従来の帰路へとついた。こういう時は予定を変更して、素直に家に帰ると決めている。しかし、モノクルは僕のあとについて歩いてきた。
「ついてこないでください」
「そうはいきませぬ。お嬢様には館に帰ってもらわねば困りますゆえ」
「警察呼びますよ」
「結構でございます。警察には事情を話した後、正式にお館様に迎えにきてもらえばよいですので」
「・・・・・・筋金入りだぁ」
こうなると僕は弱い。
僕は基本変わっている人間であることを自負している。だからこそ人からひどい扱いを受けても、それは妥当であると思っている。
だから基本抵抗しないわけだが、自分より頭が変な人間を見ると、妙な保護意識が働いてしまうのだ。
僕は自分の境遇や立場を理解しているからいいが、このようなものは自分が虐げられていることもわからず、周囲から一方的に攻撃され続けるのだ。
僕のパンゲアどころではない。おそらくこの者はこの地域のコミュニティそのものから消されてしまっている。
河原の遊歩道から三十分ほど歩くと僕の家につく。
僕の家は古いながらも一戸建てであり、住んでいるのは僕だけではあるが、四人家族が住んでも充分な大きさをしている。結局、モノクルはついてきたが、古い門構えを見てひとつ頷き、得意げに口角をつり上げて見せた。
「無事館に帰って参りましたな!爺はこの時を心からお待ちしておりましたぞ!!」
「館、ここだったのかよ・・・・・・」
僕は極度のなで肩を更に落としながら、背を丸め家の中へと入っていった。
そしてなんの躇ないもなく、爺もまた、家の中へ入ってくるのだった。
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