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26 妬心
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大我が落ち着いてきたようなので、南方は先週キャンセルしていた友人と食事を決行し、やや遅くに帰宅した。
和室の電気がついているので踏み入ると、大我は毛布にくるまりテーブルに伏していた。
一瞬顔を上げて、すぐに体勢を戻す。
泣いていたようだ。
南方は全てを後回しにして鞄を置き、大我の横に座って彼の背中を撫でる。
「ぎゅっとしようか?」
少し照れながらも提案すると、大我は動かずにつぶやいた。
「みなちゃん今日、デートしてきたの?」
予想外の問いに、拍子抜けする。
先日起きた大きな災難に動揺しているわけではないようだ。
「違うよ。友達って、同性の同級生だよ」
昨日友達と食事をしてくるので遅くなるが大丈夫かと確認した際、大丈夫だと返事をしてきたが、大丈夫ではなかったようだ。
「男でも、デートはデートだし」
そうだ、大我にとっては同性も恋愛対象で、異性ではないからただの食事だとは言えなかった。
これがもし嫉妬しているのなら、どうにも腑に落ちない。
大我は過去に、自分から他人を嫉妬させる行動をとっている。
大我が頭を起こし、こちらを見る。
涙は今は、浮かんでいない。
「今日縁側で寝てたらさ、団地の人に集会所でお茶会してるからおいでって言われて、行ってきたんだよ」
「え? 若い子はそういうの、行きたがらないと思った」
自分と同年代の者でも、地域の集まりには参加したがらない者がいるというのに、相変わらず大我は意外なことをする。
「そしたらさ、みんなみなちゃんのことウチに婿に来て欲しいって言うんだよ。次男で優しくてしっかりしてるからって。みなちゃんやっぱり、人気者過ぎるだろ」
険しい表情でそう言う。
それは三十歳前後から様々な人間に時折言われてきたことであるが、それよりもどうしても、大我の態度に納得がいかない。
「あのさ、一つ聞かせて。なんで怒ってるの?」
「……怒ってないし」
顔をそむけ悲しそうな顔をすると、瞳にわずかに涙が浮かべる。
今の大我になにかを言うことは酷だろうか。
しかし悲しませて悪かったもう行かないと、気をつかうのもおかしな話だ。
「白石は恋人がたくさんいても構わないタイプの人なんでしょう。僕が誰とデートしようが、どこに婿入りしようが、気にしないんじゃないの?」
聞いた大我は唇を噛んで思いつめた表情になる。
しばらくして、口を開く。
「みなちゃん、俺に説教して」
唐突に、大我は自分を教師のように扱ってきた。
だが大我に考えを改める意思があるようで、南方は安堵する。
「前に説教したでしょう。恋人がたくさんいるのは不誠実だって。あの時反省したのかな?」
「しなかった。都合悪かったし。人を好きになるのは悪いことじゃないって、自分を正当化してた」
「そうか。今は反省してるの?」
「してる。ごめん。俺、最悪だね」
三年越しに自分の言葉が大我に届く。
またひとつ大我の問題が解け、気が晴れて小さく笑むと、大我はこちらに体を向け居住まいを正し、真剣な表情で言った。
「反省したから俺、みなちゃんだけにする、好きなの」
「え?」
「みなちゃんだけ好きになるから、みなちゃんにも、俺だけ好きになって欲しい」
素直すぎる言葉。
恋愛経験が豊富であろうに、なにも飾らず、相変わらず相手の気持ちを考慮しない、幼稚にも聞こえる告白。
なにかが胸にせまる。
自分の答えは。
「僕は、白石が好きになるかどうか、わからないよ」
現状は、自分が今とっている姿勢から言えば、そうだった。
だが、胸にせまったものはなにか。
感極まっているのか、申し訳なさがつのったのか、南方は自分でも判別できなかった。
感極まったのならすぐに態度に示したい。
だが言葉にできなかったから、きっと、そうではないのだ。
人を愛せないことが、つらく、もどかしい。
しかし、大我にとっては今の言葉で十分だったようである。
「でもそれ、可能性あるってことだ。すごい嬉しい」
ひどくおだやかな顔で、そう言った。
南方自身も大我の言葉で、大我を愛せる可能性があると、ゆっくりと自覚する。
一歩前へ進めたのではないか、そう思うと、どこか安らかな気持ちになった。
大我は畳に手をつき、やや身を乗り出して訊ねてきた。
「みなちゃんは、どういうヤツが好みなの」
可能性を取りこぼさないように、理想に近づきたいのだろうか。
南方はわずかに照れを隠しつつ答える。
「えぇ、それ時々聞かれるんだけど、頭のいい人、機転が利く人が好きかなって言ってたね」
「俺ダメだし。勉強できない」
大我がうなだれる。
だが、うなだれるようなことは言っていない。
「いや、白石は頭いいんだと思うよ。考えて会話してるようだし、僕のテストではいつも満点近くとってたでしょう」
「えっ、俺、みなちゃんの好みだったんだ!」
言うと大我は一転、おだやかを通り越してどうしようもない喜色の表情を見せる。
「そう、だね」
もう一歩、前へ進む。
戒めようとする意思が働かなかったことに、安心する。
「なんか今日は、さっきまでめちゃめちゃ悲しかったけど、超嬉しい日だなー」
自分の愛を手に入れる可能性だけでそこまで喜ぶ大我を微笑ましく思いながら、南方も同様、喜びを感じていた。
和室の電気がついているので踏み入ると、大我は毛布にくるまりテーブルに伏していた。
一瞬顔を上げて、すぐに体勢を戻す。
泣いていたようだ。
南方は全てを後回しにして鞄を置き、大我の横に座って彼の背中を撫でる。
「ぎゅっとしようか?」
少し照れながらも提案すると、大我は動かずにつぶやいた。
「みなちゃん今日、デートしてきたの?」
予想外の問いに、拍子抜けする。
先日起きた大きな災難に動揺しているわけではないようだ。
「違うよ。友達って、同性の同級生だよ」
昨日友達と食事をしてくるので遅くなるが大丈夫かと確認した際、大丈夫だと返事をしてきたが、大丈夫ではなかったようだ。
「男でも、デートはデートだし」
そうだ、大我にとっては同性も恋愛対象で、異性ではないからただの食事だとは言えなかった。
これがもし嫉妬しているのなら、どうにも腑に落ちない。
大我は過去に、自分から他人を嫉妬させる行動をとっている。
大我が頭を起こし、こちらを見る。
涙は今は、浮かんでいない。
「今日縁側で寝てたらさ、団地の人に集会所でお茶会してるからおいでって言われて、行ってきたんだよ」
「え? 若い子はそういうの、行きたがらないと思った」
自分と同年代の者でも、地域の集まりには参加したがらない者がいるというのに、相変わらず大我は意外なことをする。
「そしたらさ、みんなみなちゃんのことウチに婿に来て欲しいって言うんだよ。次男で優しくてしっかりしてるからって。みなちゃんやっぱり、人気者過ぎるだろ」
険しい表情でそう言う。
それは三十歳前後から様々な人間に時折言われてきたことであるが、それよりもどうしても、大我の態度に納得がいかない。
「あのさ、一つ聞かせて。なんで怒ってるの?」
「……怒ってないし」
顔をそむけ悲しそうな顔をすると、瞳にわずかに涙が浮かべる。
今の大我になにかを言うことは酷だろうか。
しかし悲しませて悪かったもう行かないと、気をつかうのもおかしな話だ。
「白石は恋人がたくさんいても構わないタイプの人なんでしょう。僕が誰とデートしようが、どこに婿入りしようが、気にしないんじゃないの?」
聞いた大我は唇を噛んで思いつめた表情になる。
しばらくして、口を開く。
「みなちゃん、俺に説教して」
唐突に、大我は自分を教師のように扱ってきた。
だが大我に考えを改める意思があるようで、南方は安堵する。
「前に説教したでしょう。恋人がたくさんいるのは不誠実だって。あの時反省したのかな?」
「しなかった。都合悪かったし。人を好きになるのは悪いことじゃないって、自分を正当化してた」
「そうか。今は反省してるの?」
「してる。ごめん。俺、最悪だね」
三年越しに自分の言葉が大我に届く。
またひとつ大我の問題が解け、気が晴れて小さく笑むと、大我はこちらに体を向け居住まいを正し、真剣な表情で言った。
「反省したから俺、みなちゃんだけにする、好きなの」
「え?」
「みなちゃんだけ好きになるから、みなちゃんにも、俺だけ好きになって欲しい」
素直すぎる言葉。
恋愛経験が豊富であろうに、なにも飾らず、相変わらず相手の気持ちを考慮しない、幼稚にも聞こえる告白。
なにかが胸にせまる。
自分の答えは。
「僕は、白石が好きになるかどうか、わからないよ」
現状は、自分が今とっている姿勢から言えば、そうだった。
だが、胸にせまったものはなにか。
感極まっているのか、申し訳なさがつのったのか、南方は自分でも判別できなかった。
感極まったのならすぐに態度に示したい。
だが言葉にできなかったから、きっと、そうではないのだ。
人を愛せないことが、つらく、もどかしい。
しかし、大我にとっては今の言葉で十分だったようである。
「でもそれ、可能性あるってことだ。すごい嬉しい」
ひどくおだやかな顔で、そう言った。
南方自身も大我の言葉で、大我を愛せる可能性があると、ゆっくりと自覚する。
一歩前へ進めたのではないか、そう思うと、どこか安らかな気持ちになった。
大我は畳に手をつき、やや身を乗り出して訊ねてきた。
「みなちゃんは、どういうヤツが好みなの」
可能性を取りこぼさないように、理想に近づきたいのだろうか。
南方はわずかに照れを隠しつつ答える。
「えぇ、それ時々聞かれるんだけど、頭のいい人、機転が利く人が好きかなって言ってたね」
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大我がうなだれる。
だが、うなだれるようなことは言っていない。
「いや、白石は頭いいんだと思うよ。考えて会話してるようだし、僕のテストではいつも満点近くとってたでしょう」
「えっ、俺、みなちゃんの好みだったんだ!」
言うと大我は一転、おだやかを通り越してどうしようもない喜色の表情を見せる。
「そう、だね」
もう一歩、前へ進む。
戒めようとする意思が働かなかったことに、安心する。
「なんか今日は、さっきまでめちゃめちゃ悲しかったけど、超嬉しい日だなー」
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