魔女の愛した永遠。

椿英-syun_ei-

文字の大きさ
4 / 14

第4話

しおりを挟む
 私は男を食堂へと誘った。途中、カラスが私の肩に止まり、夕食のリクエストを催促する。私はカラスの足に括り付けられた紙を解き、指で文字を書いた。それは焦げ目となって浮かび上がり、数行のメモとなった。

 そのメモを丸め、カラスに差し出すと片足で掴んで飛び立った。カァカァと鳴き、離れていく黒い鳥を見て男は言った。

「君はなんてすごい人なんだ。愛しい魔女。私ではあんな風に飼い慣らせないよ。」

「飼いならしたわけではないわ。あれは私の魔法で作り出した人形なの。」

「素晴らしい人形だ。その手は全てを完璧に作り変えてしまうんだね。」

「いいえ、私は借り物の体を作ることしかできない。指示待ち人形を作るのが関の山よ。」

「謙遜してる貴女もとても綺麗だ。」

 男は握り直した私の手にキスをした。そして何事もなかったかのようにまた歩き始める。

 私は命を作り出すことはできない。だからもし、あの夜の呪いに従い、愛しい人が死んだとしても私が生き返らせることはできない。

 だが、本当に永遠を生きる無欠の人であるならば、私と同じく死を望んでいるに違いない。だから、私の呪いの秘密は彼に話すつもりはなかった。

 壁に飾られた絵画や、天井のシャンデリア、彫刻や小さな小物に至るまで、男は私の趣味を理解してくれたようだ。調度品の類まで一通り褒めると、私たちは向かい合って座った。十人ほどの人間が並んで食事を取れるテーブルに、私たちは二人だけだ。

 私は土人形たちが運んできた夕食について説明する。

「このソースやスープには全て毒を混ぜてあるの。およそどんな生き物であっても数分も生きることはできない猛毒よ。でも、私が口にした時には悪くない味がしたわ。貴方がもし不死であるのなら、きっと美味しく感じるはずよ。」

「もし私が不死でなかったら、どうするつもりなんだい?」

「その時は、私たちの愛も終わるわ。」

 もっとも、ここで食べるのを拒めば、私が貴方を焼いて食べることになるもの、結果は同じものだと確信していた。
しかし男は私の試すような視線にも動じず、肉を切り、ソースにつけ、口に運んだ。

「とても美味だ。舌先に広がる痺れにも似た刺激は今まで味わったどんな料理にもなかったものだ。君は本当に天才なんだね。」

 そう言って、食事をする彼はおよそ毒を口にしたようには見えなかった。

 まさか、オーダーを間違えたのだろうかとも思ったが、銀でできたスプーンとフォークは毒を感知して黒く変色していた。

 気付くと、彼は優しく気遣わしげな瞳で私を見つめていた。

「料理が冷めてしまうよ。」

「ええ、そうね。お口に合うか不安で、つい貴方を見てしまったわ。」

「それなら心配ない。私はきっと、これからずっとこの料理を気に入ると思います。」

「そう、それなら良かった。」

 私も彼と全く同じものを口にした。確かにこの中には指示した通りのものが入っていた。私がどのような顔をしていたのかは知らないが、男は私に微笑んで言った。

「私は君からの愛に応えられていますか?」

「ええ、今のところは期待以上だわ。」

「今のところは、か。」

 男は悲しそうに肩を落とした。完璧だと思っていた男の頬に今食べたばかりのソースが付いていた。私はナプキンを手に取り、それを拭き取った。

「そんなに気落ちすることはないわ。貴方が本当に私の望む運命の人なら、これから幾らでも時間があるのですから。」

「そうですね。少しずつ貴女に受け入れて頂きましょう。」

 得体の知れない男、だけど、今まで会った誰よりも心惹かれた。これは運命だ。そう本能が叫んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...