魔女の愛した永遠。

椿英-syun_ei-

文字の大きさ
5 / 14

第5話

しおりを挟む
 ディナーを楽しんだ彼は出会った余韻に浸るようにそのまま家路に着いてしまった。

 もっと側にいたい、私の試練にどこまで耐え得るのか確かめたい。後ろから矢を射りたくなる衝動を覚え、そのような非礼を働くことによって明日はもうここに来てくださらないのではないかという不安が正面衝突する。

 これでいいのだ。耐え難い時を過ごす方が、これから始まる二人にしか分からぬ苦しみの中にある快感がより激しく燃え上がるではないか。

 火照った体を沈めに行くかのように私は寝室にあるベランダへと足を運ぶ。手すりに体重を預け、夜風にこの高まる期待を落ち着かせてもらおう。

 それにしても、やっと、やっとこの時が来たのだ。何百年と経った。何千年かもしれない。何度風雨に晒してみても決して朽ち果てず、衰えることもないこの身体がようやっと崩れて形を失うのだ。そう思うと私は笑みをこぼさずにいられなかった。

 ふと横を向くと、まるでずっとそこにいたかのように手すりの上にあの日の魔女が隣に座っていた。

「おや?今日は随分機嫌が良さそうだね。東洋の魔女さん。」

 私はムッとする。

「その名前で呼ばないでと言っているでしょう。名無しの魔女。」

「じゃあ、なんて呼べばいいんだい?」

「その名前以外よ。私に愛を誓う者だけがその名を呼ぶに相応しい。」

 名無しの魔女が呆れたようにため息を吐いた。

「答えになってないじゃないか。本当の名前を教えな。」

 私はキッと睨みつける。

「魔女に本当の名前を教える愚か者がどこにいると言うの?」

「なら私は東洋の魔女と呼ぶよ。意義はなしだ。」

 そう言うと、手すりから降りた魔女は私の後ろに回り込むようにして歩きながら話し続けた。

「今日は面白い男が来たようじゃないか。」

「あなたには関係のないことだわ。」

「そんなことないさ。長年の友人を一人失うかもしれないっていう瀬戸際さ。」

「いつから友人になったのかしら。私は貴女の暇潰しに付き合っているだけ。約束を交わしただけで友達ではないわ。」

 すると、名無しの魔女が高笑いをあげた。

「そりゃ愉快な回答だね。」

「用はそれだけかしら。」

「いんや。」

 と言って名無しの魔女は首を振った。せっかく彼との時間を反芻しようと思っていたのに興が冷めてしまった。私は突き放すように言った。

「用があるなら早く済ませて頂けないかしら。お茶をするには遅すぎる時間よ。」

「それもそうだね。」

 また愉快そうに微笑み、だけど少しだけボリュームを下げて言った。

「お前は、死なないというだけで本当の恋に落ちると思うのかい?」

「え?」

 意表を突いた質問に思わず声を漏らしてしまう。

「お前は今、あいつの“不死かもしれない”という部分に惹かれているだけで、あいつの何も知りやしないじゃないか。」

「それは、悠久の時をかけて分かることだわ。」

「お前は本当の愛を知らない。垢の他人から受ける無償の愛を。いつが潮時なのか判断するのはお前さ。でも見誤れば男だけが死んでいくことだろう。」

「なんて卑劣な人なの。私に疑心の種を植え付けようと、そういう訳なのでしょう?」

「ちょっとゲームを面白くしてみただけだよ。」

 名無しの魔女は私の寝室の中へと消えていこうとする。

「貴女が判断してはくれないの?」

「さぁね。私は友人でもないのだろう?盟約にもないことは出来かねるよ。」

 そう言うと名無しの魔女は闇に溶けて消えてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...