【完】こじらせ女子は乙女ゲームの中で人知れず感じてきた生きづらさから解き放たれる

国府知里

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#17、 ナナエの夢

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 夢の中でまた夢を見るとは奇妙極まりないが、現に奈々江はそういう状態に陥っていた。
 初めは消えないのではないかと思えた熱さだったが、時間と共に次第に過ぎ去り、それが遠のいていくと同時に、今度はぼんやりと白い天井が見えてきた。

(あれ……、ここどこ……?
 わたしの部屋でもないし、ゲームの中のベッドとも違う……)

 左側の窓からは日中の明るい光が差し込んでいて、白いカーテンが見えたが、それにも見覚えがない。
 しばらくうとうととその景色を眺めていると、その中にぱっとふたつの影が入り込んできた。

(お、お父さん……、お母さん……?)

 懐かしくて暖かい、でも心配そうな顔。
 奈々江に直感が走った。

(ここ、病院……?)

 だとすると、自分はバスの中で寝入ってしまった後、なんらかの事情があって病院に運ばれたのだ。
 そうわかると、奈々江の視界に別の映像がよぎった。
 バスの車内だった。
 視界は自分の足元を映している。
 突然の急ブレーキでバス全体がひどく揺れ、奈々江の体は前方につんのめるようにして投げ出された。
 すごい勢いで床が突進してきて、頭をしたたかに打ち付けた。

(……あ、そうだ……。
 わたし、バスの中で、頭を打ったんだ……)

 映像はそこでブラックアウトしていった。
 再び白い天井と両親の映像に戻った。

(そうか、よくはわからないけど事故かなにかがあって、わたしは頭を打ってそのまま倒れてしまったのね……。
 それで、病院に運ばれて、お父さんとお母さんが来てくれたんだ……。
 失敗したなあ……。
 心配かけちゃった……)

 きっと慌てて駆けつけてくれたんだろう。
 年々濃くなっていくふたりの顔のしわに、申し訳なさが募った。
 ふたりの顔を眺めていると、今度は別の人影が入ってきた。
 斎藤拓真だった。

(ああ……、社長も心配してきてくれたんだ……)

 そのとき、奈々江はようやく気がついた。
 今、ぼんやり見えているこれ、これこそが現実だと。
 戻ってきたのだ。
 ゲームの世界から、現実の世界に。

(……や、やった!
 戻れた、戻れたんだ!
 そうだ!
 社長にバグを知らせなきゃ)

 奈々江はまだはっきりとしない映像を確かなものにしようと、ぐっと目に力を込めた。
 手や足に力を込めて、目覚めようと意識してみた。
 しかし、うまくいかない。
 まだ夢のはざまを彷徨っているのだろうか。
 体と意識がうまく連携していないのがもどかしい。

(ああ……、せめてバグのことだけでも伝えられたら……。
 今ならまだリリース前に修正が間に合うはずなのに)

 奈々江は川の向こうにいる相手に呼びかけるように、声を上げてみた。

「社長~、社長~!
 太陽のエレスチャルにバグがありま~す!
 プログラムを確認してみて下さい~っ!」

 意識の中の奈々江は大声を上げているが、映像で見えている様子でははっきりと伝わっている様子ではなかった。
 それでも、にわかに斎藤拓真の表情に違いが見えた。
 もしかしたら、部分的にでも伝わったのかもしれない。

「社長~、社長~!
 太陽のエレスチャルです!
 バグです~っ!」

 それからもなんどか呼びかけ続けたが、次第に映像が見える範囲が狭くなっていくのがわかった。

(ああっ、もしかして、もう一度わたし眠ってしまうの?
 無理もないか……。
 あれだけ徹夜続きだったんだもん……)

 視界がどんどん狭くなっていく。
 もう閉じてしまうという間際に、別の誰かの影がちらっと見えたが、もはや誰だったのかはわからなかった。
 視界がふっつりと暗闇になると、奈々江は緩やかに意識が遠のいていく気がした。

(みんなに心配をかけてしまったけれど、とりあえずわたしの体は大丈夫……。
 病院なら点滴を打ってくれるし、倒れたときに怪我をしていたとしても治療してもらえているはず。
 完璧には伝わらなかったかもしれないけど、社長もなにか気がついた感じだったし、きっと”恋プレ”については気にかけてくれるはず。
 次に目覚めたとき、すぐ……社長に確認……しよう……)

 きっと次に目覚めるのに、そう時間はかからないはずだ。
 今はゆっくり休もう。
 奈々江は暗闇に体を任せて眠りの中に沈んでいった。



*お知らせ-1* アップロードした内容が間違っていました。前後で話がつながらず不思議に思われた読者様、申し訳ありませんでした。現在修正済みです。

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