【完】まいにちサバゲー!パンが命の最前線【SFオムニバスシリーズ】

国府知里

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まいにちサバゲー!パンが命の最前線

まいにちサバゲー!パンが命の最前線 〜もふもふ戦線異状ナシ〜

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「……パンがない? え、どういうこと?」

 ティータイム中隊のベースキャンプに響き渡ったエルーシアの困惑の声に、ゼルマは両手を腰に当てて仁王立ちした。

「聞いて驚け、エルーシア。我々の命より重い、今日のパン配給券が! 盗まれた!」

「こ、こんな非人道的な……!」
 エルーシアの目に涙がにじんだ。すかさず、ブルーナがタオルを投げる。

「泣くより追え。相手は"カロリーオフ中隊"だ。糖質絶対悪教の奴ら。今朝の任務でうちの補給箱を漁っていったって報告が入ってる」

 ゼルマがヘルメットをかぶり、威勢よく叫んだ。

「中隊、戦闘配置! これは――パンの報復戦だッ!」

 戦場《ヴァルト戦線》。それは架空の模擬戦場であり、日々繰り広げられるサバイバルゲームの舞台。
 しかし、そこには銃声の代わりにポップコーンが飛び、スモークの代わりにシナモンの香りが舞う、ちょっと変わったルールがあった。

「標的確認! カロリーオフ中隊の本陣、あそこだ!」

 ブルーナのスコープ越しに、敵の旗がゆらめいている。その横には、確かにティータイム中隊の「補給箱」が置かれていた。

「行くぞ!」ゼルマが叫んだ瞬間――。

「……ぱんっ♪」

 どこからか、柔らかい鳴き声が聞こえた。
 エルーシアが足元を見ると、そこには、クリーム色のもこもこした球体が。

「きゃっ、また来た……!」

 ころん、と転がるそれは、まんまるな毛玉。耳のような羽がぴこぴこと動き、つぶらな瞳でこちらを見ていた。

「パンゴモン、だ!」
 エルーシアが両手で抱き上げる。パンゴモンは小さく鳴いた。

「ぱんっ♪」

「……敵陣突入に連れていくのはどうかと思うぞ」
 ブルーナが眉をひそめる。

「でも、パンゴモンはこの戦場の癒しなんです。戦意をそぐ特技持ちですよ?」

「合法的精神兵器ってわけだな」ゼルマが頷いた。「よし、出陣。目標はパンと平和!」

 ティータイム中隊の突撃に、カロリーオフ中隊は慌てふためいた。

「またあいつらか! ゼルマの歌声に注意しろ!」
「耳栓用意、耳栓っ!」

 だが、今日の切り札はちがう。

「パンゴモン、出撃~!」

 エルーシアがそっと前に出すと、パンゴモンはもふもふと歩き出し、敵陣の真ん中で――ごろんと寝た。

 その瞬間、敵の兵士たちはなぜか全員、その毛並みを見て膝から崩れ落ちた。

「……あ、あったかそう……」
「ふわ……私、最近寝れてなくて……」
「なでたい……ちょっとだけでいいから……」

 そして、その場は「戦闘」から「もふもふタッチ会」に変わった。

「これが……もふもふの力……!」
 ブルーナは肩の力を抜いて呆れたように微笑む。

「奪還完了! パン券、確保!」

 ゼルマがパン配給券を掲げて叫ぶと、エルーシアが小さく拍手を送った。

「ありがとう、パンゴモン。きみがいてくれてよかった」

「ぱんっ♪」

 数時間後、ベースキャンプの食卓には、焼きたてのバゲットとクロワッサン、そしてホットティーが並んでいた。

「じゃあ、今日もお疲れさまでした!」

「「「かんぱーんっ!」」」

 全員が声を揃えてパンを掲げる。パンゴモンは中央にちょこんと座り、目を細めてパンの香りを楽しんでいた。

 その姿を見ながら、エルーシアはふとつぶやく。

「戦争って、こんなにふわふわしてていいのかなぁ……」

「よくない。でも、ここは特別だ」

 ブルーナの言葉に、ゼルマが笑ってのけた。

「いいじゃん! もふもふ戦線、異状ナシ!」

 パンゴモンが満足そうに鳴いた。

「ぱんっ♪」
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