【完】まいにちサバゲー!パンが命の最前線【SFオムニバスシリーズ】

国府知里

文字の大きさ
20 / 86
まいにちサバゲー!パンが命の最前線

まいにちサバゲー!パンが命の最前線 〜もふもふ戦線異状ナシ〜

しおりを挟む
「……パンがない? え、どういうこと?」

 ティータイム中隊のベースキャンプに響き渡ったエルーシアの困惑の声に、ゼルマは両手を腰に当てて仁王立ちした。

「聞いて驚け、エルーシア。我々の命より重い、今日のパン配給券が! 盗まれた!」

「こ、こんな非人道的な……!」
 エルーシアの目に涙がにじんだ。すかさず、ブルーナがタオルを投げる。

「泣くより追え。相手は"カロリーオフ中隊"だ。糖質絶対悪教の奴ら。今朝の任務でうちの補給箱を漁っていったって報告が入ってる」

 ゼルマがヘルメットをかぶり、威勢よく叫んだ。

「中隊、戦闘配置! これは――パンの報復戦だッ!」

 戦場《ヴァルト戦線》。それは架空の模擬戦場であり、日々繰り広げられるサバイバルゲームの舞台。
 しかし、そこには銃声の代わりにポップコーンが飛び、スモークの代わりにシナモンの香りが舞う、ちょっと変わったルールがあった。

「標的確認! カロリーオフ中隊の本陣、あそこだ!」

 ブルーナのスコープ越しに、敵の旗がゆらめいている。その横には、確かにティータイム中隊の「補給箱」が置かれていた。

「行くぞ!」ゼルマが叫んだ瞬間――。

「……ぱんっ♪」

 どこからか、柔らかい鳴き声が聞こえた。
 エルーシアが足元を見ると、そこには、クリーム色のもこもこした球体が。

「きゃっ、また来た……!」

 ころん、と転がるそれは、まんまるな毛玉。耳のような羽がぴこぴこと動き、つぶらな瞳でこちらを見ていた。

「パンゴモン、だ!」
 エルーシアが両手で抱き上げる。パンゴモンは小さく鳴いた。

「ぱんっ♪」

「……敵陣突入に連れていくのはどうかと思うぞ」
 ブルーナが眉をひそめる。

「でも、パンゴモンはこの戦場の癒しなんです。戦意をそぐ特技持ちですよ?」

「合法的精神兵器ってわけだな」ゼルマが頷いた。「よし、出陣。目標はパンと平和!」

 ティータイム中隊の突撃に、カロリーオフ中隊は慌てふためいた。

「またあいつらか! ゼルマの歌声に注意しろ!」
「耳栓用意、耳栓っ!」

 だが、今日の切り札はちがう。

「パンゴモン、出撃~!」

 エルーシアがそっと前に出すと、パンゴモンはもふもふと歩き出し、敵陣の真ん中で――ごろんと寝た。

 その瞬間、敵の兵士たちはなぜか全員、その毛並みを見て膝から崩れ落ちた。

「……あ、あったかそう……」
「ふわ……私、最近寝れてなくて……」
「なでたい……ちょっとだけでいいから……」

 そして、その場は「戦闘」から「もふもふタッチ会」に変わった。

「これが……もふもふの力……!」
 ブルーナは肩の力を抜いて呆れたように微笑む。

「奪還完了! パン券、確保!」

 ゼルマがパン配給券を掲げて叫ぶと、エルーシアが小さく拍手を送った。

「ありがとう、パンゴモン。きみがいてくれてよかった」

「ぱんっ♪」

 数時間後、ベースキャンプの食卓には、焼きたてのバゲットとクロワッサン、そしてホットティーが並んでいた。

「じゃあ、今日もお疲れさまでした!」

「「「かんぱーんっ!」」」

 全員が声を揃えてパンを掲げる。パンゴモンは中央にちょこんと座り、目を細めてパンの香りを楽しんでいた。

 その姿を見ながら、エルーシアはふとつぶやく。

「戦争って、こんなにふわふわしてていいのかなぁ……」

「よくない。でも、ここは特別だ」

 ブルーナの言葉に、ゼルマが笑ってのけた。

「いいじゃん! もふもふ戦線、異状ナシ!」

 パンゴモンが満足そうに鳴いた。

「ぱんっ♪」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

処理中です...