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JK探偵・小野田怜奈の事件簿
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しおりを挟む月光が、書斎の障子を淡く照らしていた。
祖父――小野田主税は、薄い眼鏡を外し、机の上の一輪挿しに視線を落としていた。
花は、小さな白い桔梗。気品を保ちつつ、どこか儚げな存在。
「――すべて話してくれ、怜奈。おまえの目に映った“本当の姿”を」
私はゆっくりと座り直した。マルは私の隣で丸くなっている。
「事件は、たしかに“佐川さんの仕業”だった。でも、あの人だけじゃ無理だったはず。……細工に使われた溶剤や材料、“搬入経路の穴”まで把握していた。それって“館内の詳細情報”を事前に得てたってこと」
「つまり、共犯者がいる」
「うん。たぶん――美術館側の誰か」
祖父は黙って頷く。
「見事だったよ、怜奈。だが……おまえはその先まで見ている顔をしている。――言ってごらん、“真の狙い”は何だ?」
私は答えた。
「『月光の花』を盗むのが目的じゃなかった。“いったん”消すことに意味があった。そうすることで――“世の中の注目”を集めるために」
祖父の目が細くなる。
「……確かに、あの絵は今、世界中の美術関係者の関心を集めている。“消えた”ことで“価値”が跳ね上がった」
「しかも、“犯人が返した”という情報が公になれば、“道徳的にも美談”になる。市場価値だけでなく、“人の心を揺さぶる作品”として再評価される。つまり、“価値”の再構築が真の目的だった」
「それは、“絵の商人”の発想だな」
「だから――黒幕は、“表には出てこない”美術界のプロ。たぶん、既に動いてる。“次の手”を」
祖父は静かに目を閉じた。そして、ゆっくり口を開く。
「……その名前、心当たりはあるか?」
「……いえ。まだ。でも、“マルが嫌がってた人物”は佐川さんだけじゃなかった」
「ほう?」
「搬入スタッフの中にいた、ひとりの女性。彼女は一言もしゃべらなかったのに、マルが明らかに“逃げようとした”んです。きっと、あの子は覚えてる。何か、もっと大きな事件とつながってる気がする」
「怜奈」
祖父がゆっくりと立ち上がり、私の前に来た。
その手には、古びた手帳。
「これは……?」
「おまえの父親が遺したものだ」
私は手帳を受け取り、表紙をなぞる。微かにインクの匂いがした。
ページをめくると、父の文字がそこにあった。
『真実を暴くことは、誰かの心を守ることでもある。』
『けれど、時に真実は、人を傷つける。探偵はその覚悟を持たなければならない』
私は唇を引き結んだ。
祖父が続ける。
「怜奈。おまえが今日見せた推理と判断、そして“迷い”――それこそが、探偵の資質だ。……おまえの父親、剛も、おまえと同じだったよ。真実の先にある“人の心”まで、いつも見ていた」
私は小さくうなずいた。
マルが私の膝をふわりと踏みしめ、にゃあと鳴いた。
「――でも、怖いよ。私。もし次の事件が“もっと人を巻き込むもの”だったら……私なんかに、止められるかな」
祖父は微笑む。
「止める必要はない。見つめることが、おまえの役目だ。“真実”から目を逸らさないこと。そして、時に“優しくあること”」
私は手帳を抱きしめた。
その言葉が、心にじんわりと染みていった。
翌朝、雨あがり
「おーい、怜奈!」
傘を差しながら、海斗が大きく手を振っていた。
「朝から元気ね」
「そりゃね! 名探偵と事件解決したんだから! これからどうする? 校内新聞に載せる? “マルと天才JK探偵”特集とか」
「やめてよ、そういうの……」
「えー、いいじゃん!」
私は笑った。
マルが、私の肩の上でぐう、と伸びをした。
そのとき、スマホに一通のメールが届いた。
『“風の絵”がまた消えた。助けてほしい。――横浜、旧野澤邸にて』
差出人は、母の旧友――詩織・K・榊。
私はマルをそっと抱き直した。
「……ねえマル。どうやら、次の事件が始まるみたい」
マルは、青い瞳でまっすぐ私を見つめていた。
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