【完】姪と僕とのグルメ事件簿【ミステリーオムニバスシリーズ1~4】

国府知里

文字の大きさ
19 / 45
JK探偵・小野田怜奈の事件簿

第2話「風の絵と沈黙の館」--1--

しおりを挟む


 放課後の静かな教室。窓の外では、春一番が校庭の桜を揺らしていた。

 小野田怜奈は、ノートパソコンの画面に浮かぶメールを無言で見つめていた。

 差出人は、詩織・K・榊。母の大学時代の親友で、美術修復士として名の知れた人物だ。その彼女から、たった一文だけのメッセージが届いていた。

《“風の絵”が、また消えた》

 その文字に、怜奈の胸がざわめいた。"また"という言葉が意味するもの。それは一度だけではない、という事実。

 「あの絵、また……?」

 マルが机の上に跳ね乗り、彼女の手元を覗き込んだ。

 「マル、横浜に行くわ。山手の旧野澤邸。行かなくちゃ」

 パタン、とパソコンを閉じた怜奈の顔には、既に探偵の仮面が戻っていた。

 その夜、祖父に話すと、彼は珍しく表情を曇らせた。

 「……“あの館”に足を踏み入れるなら、心を強く持て」

 祖父が語らなかった何か。それを感じながらも、怜奈は翌朝の列車に乗った。



***



 横浜・山手の高台。海を見下ろす位置に立つ洋館、旧野澤邸。

 築百年を超えるその西洋館は、元外交官・野澤家の私邸だった。今は文化財として保存され、一般公開はされていない。今回は詩織の手によって特別展示が組まれていた。

 怜奈が館に到着したのは午前十時過ぎ。迎えに現れたのは、詩織の助手だという少女――如月凛音。

 「……こちらへどうぞ」

 怜奈とほぼ同じ年頃のその少女は、まるでこの館に溶け込むように静かだった。無表情のまま、怜奈たちを展示室へと案内する。

 「“風の肖像”が消えたのは、三日前の夜です」

 詩織が現れると、彼女の語る事件の詳細はこうだった。

 展示室は当時、内側から鍵がかけられていた。監視カメラは一時的なノイズによって、該当の時間帯の映像が残っていない。そして翌朝、展示台にあるはずの「風の肖像」が忽然と姿を消していた。

 「密室から絵が消えた……ってわけね」

 怜奈は展示室の床に膝をつき、絨毯の織りを確かめる。

 「床も、壁も、破られた形跡はない。窓も施錠済み。なのに……」

 マルが、部屋の隅の一点を見つめてしっぽをピンと立てた。

 「マル、何か感じたの?」

 黒猫の瞳が、風の通り道を追うように揺れるカーテンを見つめていた。

 “風”が何かを告げている。

 小野田怜奈の推理が、今、再び始まった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...