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JK探偵・小野田怜奈の事件簿
第2話「風の絵と沈黙の館」--1--
しおりを挟む放課後の静かな教室。窓の外では、春一番が校庭の桜を揺らしていた。
小野田怜奈は、ノートパソコンの画面に浮かぶメールを無言で見つめていた。
差出人は、詩織・K・榊。母の大学時代の親友で、美術修復士として名の知れた人物だ。その彼女から、たった一文だけのメッセージが届いていた。
《“風の絵”が、また消えた》
その文字に、怜奈の胸がざわめいた。"また"という言葉が意味するもの。それは一度だけではない、という事実。
「あの絵、また……?」
マルが机の上に跳ね乗り、彼女の手元を覗き込んだ。
「マル、横浜に行くわ。山手の旧野澤邸。行かなくちゃ」
パタン、とパソコンを閉じた怜奈の顔には、既に探偵の仮面が戻っていた。
その夜、祖父に話すと、彼は珍しく表情を曇らせた。
「……“あの館”に足を踏み入れるなら、心を強く持て」
祖父が語らなかった何か。それを感じながらも、怜奈は翌朝の列車に乗った。
***
横浜・山手の高台。海を見下ろす位置に立つ洋館、旧野澤邸。
築百年を超えるその西洋館は、元外交官・野澤家の私邸だった。今は文化財として保存され、一般公開はされていない。今回は詩織の手によって特別展示が組まれていた。
怜奈が館に到着したのは午前十時過ぎ。迎えに現れたのは、詩織の助手だという少女――如月凛音。
「……こちらへどうぞ」
怜奈とほぼ同じ年頃のその少女は、まるでこの館に溶け込むように静かだった。無表情のまま、怜奈たちを展示室へと案内する。
「“風の肖像”が消えたのは、三日前の夜です」
詩織が現れると、彼女の語る事件の詳細はこうだった。
展示室は当時、内側から鍵がかけられていた。監視カメラは一時的なノイズによって、該当の時間帯の映像が残っていない。そして翌朝、展示台にあるはずの「風の肖像」が忽然と姿を消していた。
「密室から絵が消えた……ってわけね」
怜奈は展示室の床に膝をつき、絨毯の織りを確かめる。
「床も、壁も、破られた形跡はない。窓も施錠済み。なのに……」
マルが、部屋の隅の一点を見つめてしっぽをピンと立てた。
「マル、何か感じたの?」
黒猫の瞳が、風の通り道を追うように揺れるカーテンを見つめていた。
“風”が何かを告げている。
小野田怜奈の推理が、今、再び始まった。
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