【完】姪と僕とのグルメ事件簿【ミステリーオムニバスシリーズ1~4】

国府知里

文字の大きさ
7 / 45
姪と僕とのグルメ事件簿

第6話「姪と僕と、焼き鳥とネクタイと睫毛」

しおりを挟む



【プロローグ:焼き鳥屋で見た不思議な客】

 金曜の夜、僕、高城真(33歳・弁護士)は、仕事帰りに駅前の焼き鳥屋でひとり酒を決め込んでいた。

 「すいませーん、ねぎま三本と、レバーと……あと、つくねも」

 その声に、ふと顔を上げると、隣のカウンター席に、ひときわ奇妙な出で立ちの男が座っていた。

 ネクタイは柄物、しかも上下逆。目元には異様に長く、濃い睫毛。

 「……まるで舞台メイクみたいだな」

 そんな印象を持ちつつも、特に関わることなく夜は更けた。

 ──しかし、翌日その男が、ひかりの保育園で“窃盗未遂”の容疑者として話題になることになるとは、このとき想像もしなかった。

【第一幕:保育園での奇妙な盗難騒ぎ】

 翌朝、姪のひかり(5歳)を保育園に送った僕は、先生に呼び止められた。

 「昨日、園児の保護者ロッカーから、お財布が盗まれそうになったんです」

 監視カメラには、園児の送迎に紛れて建物に入ってきた男の姿が映っていた。

 ──昨夜の、あのネクタイ逆さ男だ。

 だが、財布は盗まれていない。犯行未遂。

 「でも、なんで保育園なんかに?」

 そう考える僕の足元に、ひかりがトコトコとやってきた。

 「ねえ、おじちゃん。昨日、睫毛のなが~い人が、先生のスマホじっと見てたよ?」

 ──睫毛、ネクタイ、焼き鳥屋の男。

 僕の中で三つの点がつながった。

【第二幕:ネクタイと睫毛の偽装】

 あの男、どうやら“保護者のふり”をして保育園に入り込んでいたらしい。

 しかし、顔を隠すことなく堂々と犯行に及ぶ不自然さ。警察に確認しても、該当人物に心当たりなし。

 ひかりはまた妙なことを言った。

 「なんかね、先生のスマホに“おいしそうな焼き鳥”がいっぱいあった」

 ──焼き鳥?

 確認すると、先生のスマホのSNSには、焼き鳥屋での写真が多数アップされていた。

 その中に──昨夜のあの男が“後ろ姿で”写り込んでいた。

 僕は写真の位置情報を元に、ある事実にたどり着く。

 その焼き鳥屋は、保育園の裏の通りにある“裏口”から徒歩1分。

【第三幕:秘密の写真と、消された過去】

 この件の裏には、“園児の保護者どうしのトラブル”があった。

 一年前に転園したある母親が、保育園のある職員との交際写真を無断でSNSにアップ。

 その結果、職員は退職。関係者は散り散りに──。

 今回の“睫毛の男”は、その職員の兄だった。

 弟の無念を晴らすため、関係者の持ち物やスマホから、証拠写真を探し回っていたのだ。

 だが、その方法は明らかに間違っていた。

 ネクタイを逆さに締め、睫毛を強調し、別人のような風貌で現れることで、過去を隠そうとする人物の悲しみ。

 僕は、そっと言った。

 「あなたの弟は、あなたが犯罪者になることを望んじゃいない」

【エピローグ:焼き鳥と本当の話】

 事件は、無断侵入と個人情報の不正取得未遂で穏便に処理された。

 焼き鳥屋に再び足を運んだ夜。

 ひかりは、つくねをぱくりと口に運びながら言った。

 「おじちゃん、ネクタイって、まちがえてもいいけど、気持ちはまちがえちゃダメなんだよね?」

 「……たぶん、そうだな」

 睫毛の奥に隠された悲しみも、焼き鳥の煙の向こうに消えていった。

 そして、僕たちの物語は、まだ続く──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...