【完】姪と僕とのグルメ事件簿【ミステリーオムニバスシリーズ1~4】

国府知里

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姪と僕とのグルメ事件簿

第10話「姪と僕と、屋台の檀家と隠されたはしご」

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【プロローグ:夜の屋台と、香ばしい陰謀】

「おじちゃん、これ、ちょっと変なにおいする……イカなのに、甘いよ?」

 保育園の帰り道、商店街でひかり(5歳・姪っ子)と出会った屋台のイカ焼きそば。

 僕、高城真(33歳・弁護士)は残業の合間、気分転換も兼ねてひかりと夕暮れの商店街をぶらぶらしていた。気のいいおじさんが焼いてくれたその焼きそば。だが、ひかりのひとことに引っかかる。

 確かに、タレの甘みが異様に強い。しかもイカの香ばしさが薄い。食感もぷつぷつしている。

 翌日、その屋台の隣で事件が起こった。

 老舗寺院「香遠寺」の住職・雲海和尚が、参拝者の前で倒れ、意識を失ったのだ。

【第一幕:住職の焼きそばと檀家の噂】

 雲海住職が倒れたのは、商店街で檀家向けに振る舞っていた、イカ焼きそばを食べた直後だった。

 しかも、その焼きそばは、昨日とまったく同じ屋台のもの。

 「偶然だとは思えないな……」

 僕は姫とともに、香遠寺を訪れる。

 「うちの和尚さま、最近やけに“甘いもの”を欲しがっててなぁ……精進料理のはずが、どこからか“特製ダレ”を取り寄せておって」

 副住職の話によれば、そのタレは、商店街の屋台主が「知り合いからもらった調味料」として持ち込んだものだという。

 姫は、寺の本堂の裏手に回って、ふと空を見上げた。

 「おじちゃん、あそこに“はしご”あるよ?」

 彼女が指さしたのは、寺の裏門にある物置の壁。確かに、屋根裏に通じるはしごが固定されている。

【第二幕:檀家名簿と“はしご”の記憶】

 雲海住職は軽度の中毒症状で命に別状はなかったが、調べたタレからは微量の“グルコース過剰濃縮液”が検出された。糖分過多による急激な血糖値の変化が原因。

 なぜそんな成分がイカ焼きそばのタレに?

 寺の檀家名簿を確認すると、ある名前が目についた。

 「五十嵐恒雄(いがらし・つねお)──食品問屋経営、最近破産」

 彼は、焼きそば屋台主・山根と親しかった元取引先で、数ヶ月前に廃業していた。

 さらに、寺の物置を調べていたひかりが、例のはしごを登ろうとする。

 「ここ、のぼれるけど……ふつう、こんなとこに“甘いタレ”かくすかな?」

 僕はすぐさま彼女を制止して、自ら登って確認する。すると──天井裏のすみに、パウチ入りの調味料パックが山積みになっていた。

【第三幕:偽タレと屋台の密約】

 押収されたパウチは、すべて五十嵐の問屋時代の在庫だったが、賞味期限は2年も前に切れている。そこへ、屋台主・山根の供述。

 「昔の付き合いで、五十嵐さんに頼まれて使ってただけです。本物のイカなんて高くて……俺も生活が……」

 だが、さらに調査すると、彼らの間にはもう一つの密約があった。

 ──寺の改築計画に関わる工事資材を“横流し”する見返りに、屋台で得た収益の一部を裏で回すスキーム。

 その資材の保管場所が、あの“はしごの上”。

 住職が倒れたのは、五十嵐が仕組んだ「警告」だった。彼は寺の副住職と内密に接触し、「雲海が勝手に計画を進めた」と吹き込み、支配権を得ようとしていたのだ。

【最終幕:焼きそばに足された“味”と真実】

 ひかりの一言が、すべてを決定づけた。

 「ねえおじちゃん。このあいだのタレ、ちょっとだけ“おしょうさんのにおい”がしたよ」

 ──香の匂い。住職の衣に染みついた白檀の香気。

 実は、パウチの中身は何度か混ぜ替えられ、白檀系のアロマオイルが微量に混入されていた。それは副住職のしわざだった。

 「……副住職が雲海を排除しようとしたんだ。資材の横流しも、副住職と五十嵐の共謀だった」

 警察への通報を経て、副住職は詐欺未遂と業務上過失傷害で書類送検。屋台主・山根も不正販売の責任を問われた。

【エピローグ:ほんとうの味は、ちゃんと見分けて】

 事件後、僕とひかりは別の店で、あつあつの“本物”のイカ焼きそばを買った。

 「おいしい。やっぱり、本当のイカ焼きそばはね、においがちゃんと“海のにおい”するんだよ」

 「うん。あと、本物は、はしごの上には隠さないよな」

 ふたりで笑い合いながら、商店街の灯りの下を歩く。

 本当の味、本当の気持ち、本当の正義──
 それを見分けるのが、僕たちの仕事なのだ。

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