9 / 45
姪と僕とのグルメ事件簿
第10話「姪と僕と、屋台の檀家と隠されたはしご」
しおりを挟む【プロローグ:夜の屋台と、香ばしい陰謀】
「おじちゃん、これ、ちょっと変なにおいする……イカなのに、甘いよ?」
保育園の帰り道、商店街でひかり(5歳・姪っ子)と出会った屋台のイカ焼きそば。
僕、高城真(33歳・弁護士)は残業の合間、気分転換も兼ねてひかりと夕暮れの商店街をぶらぶらしていた。気のいいおじさんが焼いてくれたその焼きそば。だが、ひかりのひとことに引っかかる。
確かに、タレの甘みが異様に強い。しかもイカの香ばしさが薄い。食感もぷつぷつしている。
翌日、その屋台の隣で事件が起こった。
老舗寺院「香遠寺」の住職・雲海和尚が、参拝者の前で倒れ、意識を失ったのだ。
【第一幕:住職の焼きそばと檀家の噂】
雲海住職が倒れたのは、商店街で檀家向けに振る舞っていた、イカ焼きそばを食べた直後だった。
しかも、その焼きそばは、昨日とまったく同じ屋台のもの。
「偶然だとは思えないな……」
僕は姫とともに、香遠寺を訪れる。
「うちの和尚さま、最近やけに“甘いもの”を欲しがっててなぁ……精進料理のはずが、どこからか“特製ダレ”を取り寄せておって」
副住職の話によれば、そのタレは、商店街の屋台主が「知り合いからもらった調味料」として持ち込んだものだという。
姫は、寺の本堂の裏手に回って、ふと空を見上げた。
「おじちゃん、あそこに“はしご”あるよ?」
彼女が指さしたのは、寺の裏門にある物置の壁。確かに、屋根裏に通じるはしごが固定されている。
【第二幕:檀家名簿と“はしご”の記憶】
雲海住職は軽度の中毒症状で命に別状はなかったが、調べたタレからは微量の“グルコース過剰濃縮液”が検出された。糖分過多による急激な血糖値の変化が原因。
なぜそんな成分がイカ焼きそばのタレに?
寺の檀家名簿を確認すると、ある名前が目についた。
「五十嵐恒雄(いがらし・つねお)──食品問屋経営、最近破産」
彼は、焼きそば屋台主・山根と親しかった元取引先で、数ヶ月前に廃業していた。
さらに、寺の物置を調べていたひかりが、例のはしごを登ろうとする。
「ここ、のぼれるけど……ふつう、こんなとこに“甘いタレ”かくすかな?」
僕はすぐさま彼女を制止して、自ら登って確認する。すると──天井裏のすみに、パウチ入りの調味料パックが山積みになっていた。
【第三幕:偽タレと屋台の密約】
押収されたパウチは、すべて五十嵐の問屋時代の在庫だったが、賞味期限は2年も前に切れている。そこへ、屋台主・山根の供述。
「昔の付き合いで、五十嵐さんに頼まれて使ってただけです。本物のイカなんて高くて……俺も生活が……」
だが、さらに調査すると、彼らの間にはもう一つの密約があった。
──寺の改築計画に関わる工事資材を“横流し”する見返りに、屋台で得た収益の一部を裏で回すスキーム。
その資材の保管場所が、あの“はしごの上”。
住職が倒れたのは、五十嵐が仕組んだ「警告」だった。彼は寺の副住職と内密に接触し、「雲海が勝手に計画を進めた」と吹き込み、支配権を得ようとしていたのだ。
【最終幕:焼きそばに足された“味”と真実】
ひかりの一言が、すべてを決定づけた。
「ねえおじちゃん。このあいだのタレ、ちょっとだけ“おしょうさんのにおい”がしたよ」
──香の匂い。住職の衣に染みついた白檀の香気。
実は、パウチの中身は何度か混ぜ替えられ、白檀系のアロマオイルが微量に混入されていた。それは副住職のしわざだった。
「……副住職が雲海を排除しようとしたんだ。資材の横流しも、副住職と五十嵐の共謀だった」
警察への通報を経て、副住職は詐欺未遂と業務上過失傷害で書類送検。屋台主・山根も不正販売の責任を問われた。
【エピローグ:ほんとうの味は、ちゃんと見分けて】
事件後、僕とひかりは別の店で、あつあつの“本物”のイカ焼きそばを買った。
「おいしい。やっぱり、本当のイカ焼きそばはね、においがちゃんと“海のにおい”するんだよ」
「うん。あと、本物は、はしごの上には隠さないよな」
ふたりで笑い合いながら、商店街の灯りの下を歩く。
本当の味、本当の気持ち、本当の正義──
それを見分けるのが、僕たちの仕事なのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

