【完】姪と僕とのグルメ事件簿【ミステリーオムニバスシリーズ1~4】

国府知里

文字の大きさ
13 / 45
姪と僕とのグルメ事件簿

第14話「姪と僕と、ほうれん草とスーパーファンデーション」

しおりを挟む

【プロローグ:味噌の香りと、秘密の肌】
「おじちゃん、きょうの味噌汁、なんかへんだった」

 日曜の朝、ひかりが言ったのは、昨日スーパーのフードコーナーで食べた「無料試食:ほうれん草の味噌汁」のことだった。

「しょっぱくて……なんか、くすりのあじした!」

 ぼく、高城真(33歳・弁護士)は、ひかりとともに週末の買い物帰りだった。試食販売員は化粧の濃い女性で、笑顔がぎこちなかったのを覚えている。

 だが、その味噌汁を飲んだあと、販売ブースにいた男性が倒れ、病院に運ばれた──「顔が真っ白になって、気を失ってた」と通報があった。

【第一幕:スーパーマーケットの影】
 事件のあったスーパー「ミナト・マート」では、年に一度の“地産地消フェア”を開催中だった。

 問題の味噌汁は、地元農家のほうれん草を使った「特製・無添加だし仕立て」。だが、倒れた男性・堂本は、化学アレルギーの持病があり、「化粧品のある成分」に強く反応していた。

 「味噌汁にファンデーションなんて、入れるわけが……」と店側は否定。

 だが、試食ブースの紙ナプキンに、微量のミネラルパウダー系ファンデーションの成分が検出された。

「ねえ、おじちゃん。あのひとの顔、きのうとちがったよ」

 姫の観察は鋭い。彼女が言う“あのひと”とは、味噌汁を配っていた女性販売員・庄司麻子。
 実は、彼女は昨日の午前と午後で「顔の質感」が変わっていたという。

【第二幕:化粧と迷彩と正体】
 庄司麻子は化粧品メーカー「ナチュリファイン」の販売員。スーパーでは試食担当に“応援”として派遣されていた。

 だが実は、午後から出ていた庄司麻子は「双子の妹」だったことが判明。

 本来出る予定だった姉が、当日急遽体調不良で倒れ、代わりに“妹”の涼子が化粧だけ整えてブースに立った──味噌汁の出汁も継続使用し、誰も気づかなかったのだ。

 しかし、涼子は普段「舞台用の重ね塗りメイク」をしていたため、知らず知らずに味噌汁をよそう動作の中でファンデーションが落ち、具に混ざってしまった。

「つまり……“化粧崩れ”が、アレルギーの原因か」

 「うん!だっておみそしるのふちに、きらきらしてた!」

 姫の指摘で、容器のふちに残っていた“微細な光沢粒子”が重要な証拠になった。

【第三幕:ほうれん草の誤解と、姫の味覚】
 後日、堂本は無事退院したが、化粧品成分の検出に驚いた。

 事件性はなく、過失による微量混入と判断されたが、姫の鋭い“味覚”と観察は、ぼくの調査の何歩も先を行っていた。

「やっぱり、“ほうれん草の味”って、ちゃんとわかるとちがうよね」

 ひかりは、配られた全種類の味噌汁の中で、“本物の無添加”と“変な味”の区別を味だけでしていた。

「ファンデーションって、おみそしるにいれるものじゃないでしょー」

 ぼくは笑いながら、言った。

「でもな、ひかり。見た目を整えようとすると、つい“余計なもの”が入るんだ。法も味噌汁も、余計な混ざりものには注意しないとな」

【エピローグ:「しっかり味見、正しく判断」】
 スーパーでは“試食中の衛生管理”を強化することに。

 ひかりは、事件後もスーパーの味噌汁試飲コーナーにこっそり通い、毎回コメントを記録する“味ノート”をつけ始めた。

「おじちゃん、これが“証拠”ね!」

 彼女のノートには、こう書かれていた。

 「ほんとうの味は、あじじゃない。うそをまぜない、しんじつのスープ」

 ぼくはその言葉を、弁護士バッジの裏にこっそり書き写した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...