【完】姪と僕とのグルメ事件簿【ミステリーオムニバスシリーズ1~4】

国府知里

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リベンジマリッジ

【最終話 さようなら、そして5000万、こんにちは】

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 その日、天気は快晴。洗濯物もカラッと乾く陽気の中、希美はベランダに新たな標語をぶら下げた。

《最後に笑うのは、証拠を集めた者》

「太陽って偉いよね~。何もかもを明るみにするんだもん」

 リビングでは、和真が青ざめた顔でスマホをにらんでいる。今朝もまた、“浮気 ばれたくない”で検索していた。

「最近、希美の笑顔が怖いんだよな……あれ絶対、ただの笑顔じゃない……」

 そしてそのとき、ついにそれは届いた。郵便ポストに封筒一通。

 中身は弁護士からの内容証明と、びっしり詰まった写真データ──浮気相手とのラブホテル出入り、手をつなぐ瞬間、そして社内メールの転送。

 差出人はもちろん、希美。

 和真は震えた。「……えっ、いや、これって……も、もしかして本気のやつ?」

 そこに、希美が麦茶を持って登場。

「飲む?それとも……真実の味、見る?」

 テーブルの上には、ついに現れた“浮気完全証拠ファイル”。そして付箋付きで一言添えてある。

《浮気の代償、計5000万、諸費用別》

 和真は頭を抱えた。

「ちょ、ちょっと待って、これって……嘘だよな!? 冗談だったじゃん、ずっと!」

「え?あれ全部本気だけど?」

 希美は笑顔で麦茶を飲み干す。

「でもね、私も大人だからさ。話し合いはちゃんとするよ。大トロ食べながらね」

「えっ、寿司!? この状況で!?」

「うん、最後くらいちゃんと“ネタ”揃えたくて」

 連れてこられたのは、回らない高級寿司店。

 板前が「大トロ、炙りで」と差し出すと、希美はにっこり。

「人生も炙ったほうが、脂の乗りが違うってね」

 和真は箸を持つ手が震える中、希美は静かに口を開いた。

「じゃ、いただきます。──あなたの人生、今日でおしまいです」

 その後の会話は、ほぼ一方的な“公開処刑”だった。

 証拠の提示、浮気の経緯、社内不倫の報告義務、そして慰謝料請求。

 希美は終始ニコニコしながら話し、和真は寿司のネタも喉を通らず、まるで生けるトロ。

「ちなみに佐倉さんにも請求してあるから、安心して。公平が大事よね」

「うわああああああああっ!!」

 和真、絶叫。

 希美は席を立ち、最後に一言。

「5000万、現金が無理なら、腎臓で分割払いでもいいよ」

 その笑顔は、女神というよりは、復讐の化身だった。

──数ヶ月後。

 離婚は成立し、和真は会社を退職。佐倉も左遷。世間体も信用もすべて失った。

 そして希美はというと……

 あるカフェで、赤ん坊を抱きながらミルクをあげていた。

「……いい子ね。ママ、いっぱい笑ったから、もう泣かないよ」

 スマホのニュースにはこう出ていた。

《話題の“笑って復讐主婦”に学ぶ、離婚戦略》

 希美は画面を見て小さく笑う。

「人生は、笑ったもん勝ち」

 そう言って、カフェの奥で赤ん坊と手をつないだ。

 ──リベンジマリッジ、これにて完結!


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