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シリーズ1【これぞ我がサダメ】
第25話 ただ、寄り添っただけなのに……。
しおりを挟むみんなの心配をよそに、わたしはエマさんと向き合った。
部屋の中にはわたしとエマさんの他には、警護の兵とアデル様とジュサイア皇太子。
国王たちは茶会の対応を任せた。
紅茶の匠を見に行ったきり、ひとりも帰ってこないでは、茶会の面々が騒ぎ出してしまうから。
エマさんからは抗う様子はもう全く感じられない。
ただ、枯れた木のように、言葉もなくじっとそこに座っている。
しばらくして、お茶が出された。
わたしとアデル様とジュサイア皇太子には普通のお茶。
エマさんには渋く煮出した色の濃いお茶。
エマさんはそれに口をつけて、またじっと動かなくなった。
アデル様とジュサイア皇太子が不安げな視線をこちらに向けてくる。
時間を下さいと入ったけれど、わたしになにか妙案があったわけでもなんでもない。
どうすればいいのかなんてわからない。
説得できる言葉をもってもいない。
今できることは、エマさんに寄り添う事だけ。
わたしもお茶を飲んで、しばらくなにもいわずに黙っていた。
「お前はどこから来た?」
エマさんが低く溢した。
「わたしは、日本です」
「ニホン……。知らない……。ウェールズか? スコットランドのどこかか?」
「あ、いえ……。アジアの日本という国から来ました」
「アジア……」
エマさんが初めて顔を上げた。
「わたしは田舎で家族と一緒に麦を育てていた。
外国のことなど知らない……」
「え……、そうだったんですか……? あれ、でも、音楽や演劇は……」
「あれは、わたしの次に来た星渡りの民がもたらしたものだ」
「え……?」
「エイダというのはその女の名だ。
貴族の娘で、着るものも食べるものもなにもかもが派手だった。
この世界に来てからいろいろと面白そうなことを話すので、しばらく生かしておいたのだ。
巷で流行っているという演劇などをこの世界の芸人たちにやらせるなどしてな」
そ、そうか……。
始めからなり替わろうとしていたわけじゃなかったんだ……。
なんか、でも、これでだいぶ地球とこの世界の時間軸を把握できそうな気が……。
「面白かったが、さほど頭のいい女ではなかった。
殺して、わたしがエイダに入れ替わった。
幸い、髪と目の色は同じだったからな。
次も、次もそうした。
名前は、興味がなかったので勝手にわたしがつけた」
エマ、エイダ、エブリン、エルシー……。
エイダさんは偶然とはいえ、おなじEから始まる名前。
「あの、お子さんのことを聞いてもいいですか……?」
「あちらで産んだ娘はステラ。
こちらで産んだ娘はステファニー。
どちらも、わたしにちっとも似ていなかった」
「旦那さん似だったんですね」
「そうだ。ステファニーは早く死んでしまったが、ステラはどうだったろうか……。
あちこちの町や村でペストが入っていた。
わたしの村でも何人も死んでいたから、ステラも早死にしたかもしれない」
エマさんが壁にかかっていた国旗を見た。
「慰めになるかわかりませんが……。
今イギリスは連合国となって、国旗はイングランドの旗とスコットランドやアイルランドの旗を重ねたユニオンフラッグという形になっています。
イギリスは国内のあらゆる歴史や問題を治めて、今ではとても影響力のある国のひとつになっています」
エマさんが渇いた目で振り向いた。
「時は、わたしの知らぬ間に流れていたのだな……」
エマさんの言葉は、まるで今それを知ったみたいな言い方だった。
それからも、ぽつぽつとなんでもないような話をした。
エマさんがイングランドにいたころの話。
この世界に来たばかりの頃のハマル国の様子。
加護の力を見てわたしと同様に驚いたこと。
でも、それはやっぱり初めのころの話ばかりで……。
後半にいくにつれて、エマさんの日常はたった一つの関心事だけになっていく。
この世界で、子どもを産むこと。
それが、エマさんにとって、この世界で生きること、この世界とともにあるという証だと思い込むようになっていった。
「ひとり目の夫はジュダイヤ。
彼がわたしに初めて花木の加護をくれた。
あのときは、これでわたしにももう一度チャンスがあると期待したが……。
ジュダイヤが死んだあとは、その息子のジュリアンと子作りに励んだ。
とはいえ、ジュリアンはわたしがこのように枯れてもはや死出の旅にゆく間際を見ていたから、わたしと床を共にすることを嫌悪していた。
まあ、当たり前だろう……。
それからわたしはできるだけ醜い姿を見せぬように心がけ、加護の力を受けることで外見を若く保った。
2人目でだめで、3人目、4人目、5人目と夫が死ぬ度に、新しい夫と励んだ。
だが、子どもは授からない。
そればかりか、夫たちは王家に子を残すためにわたし以外にも妃を持っていた。
この妃たちは、つぎつぎと子をはらんでは生み落としていく。
わたしには持てない家族を目の前でぶくぶくと増やしていくのだ……。
わたしは何百年もの間それをただ見ていることしかできなかった……。
わたしだけが、本当の家族になれないのだと突き付けられながら……」
エマさんの目はすっかり枯れていて、涙がこぼれることもなければ、潤むことさえなかった。
でも、エマさんは泣いていた。
ずっと泣いていたんだ。
この世界に来た日から、ずっと……。
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