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【シリーズ1】Nurture ずっと二人で ~ サッカー硬派男子 × おっとり地味子のゆっくり育むピュア恋~
【13 ミサンガ (まこ)】
しおりを挟む次の日、廊下を歩いていると冷笑を叩きつけられた。
「昨日はプロ彼女気取って、まっずいドリンクを差し入れたんだってぇ!」
「調子に乗ってるから痛い目見るんでしょ」
「薬みたいな激マズっていうけど、薬っていうか毒だったりしてぇ」
昨日の今日で、正直言い返す気力もでなかった。
あんなにいろいろと調べたけれど、一番大事なことを忘れていた。
いくら栄養があるからって、人の口に入るものが、おいしくなかったら食べてくれる人がいるはずないのに。
栄養士のママが私を食べ物の好き嫌いなく育ててくれたのは、いろんな食べ物を食べやすいように考えておいしく調理してくれたからだ。
私の浅はかな考えは、それと真逆のことをしでかしてまったんだ。
お年玉貯金まで切り崩して買ったのに、結果は散々。
ママに話したら、いい教訓にしなさいと言われた。
教室に入ると、新田くんが丁度すれ違いに教室を出るところだった。
「あっ、丁度良かった。御木野さん、今日一緒にお昼食べない?」
「あっ、うん!」
最近私と新田くんは中庭のベンチでお昼を食べることが多い。
新田くんはお弁当かときどき購買のパンを食べている。
お弁当を見せてもらったら、お肉、野菜、ごはんが入ったきちん栄養のバランスを考えられた献立みたい。
聞いたら、昨日の夕飯の残りだと思うっていっていたけど、それでも新田くんのお母さんがしっかり健康のことを考えたお弁当だと思った。
「御木野さんのお弁当はいつもきれいだよね。おばさんの手作り?」
「うん、卵は私が焼いたけど……」
「じゃあ、卵ちょうだい」
「あっ……、どうぞ……」
「むぐ……。うん、うまい」
「あ、ありがとう……!」
本当においしそうに食べてくれてる……。
その横顔がすごくうれしくて、心が癒される。
「あの……、昨日は本当にごめんね。ピンクグレープフルーツ味のEAAってどんな味だったの……?」
「ああ……。今あるけど、飲んでみる?」
「えっ?」
新田くんが自分のスポーツウォーターボトルを差し出した。
あ……、もしかして、これって間接キス……?
「あっ、まだ口付けてないから大丈夫」
あ……っ、そうなんだ……。
ボトルを受け取ると、キャップを外してひとくち口に含んだ。
……っ!?
うっ、なにこれっ、まず……っ!
粉薬をうまく飲めなかった時のようにむせてしまった。
「大丈夫?」
「ごほっ! うぇ……うう……」
信じられない、この味。
人の口にするものと思えない。
薬なら薬ってわかっているから覚悟して飲めるけど、下手に甘さやフレーバーがついているせいで余計にまずく感じる。
「新田くん、これだめだね……。本当にごめん、もう捨てていいよ……」
「大丈夫、こうやって日ごろから少しずつ飲んで慣れていけば、飲めなくないよ」
「本当に、無理しなくていいよ……」
ボトルを返すと、新田くんがぐいっと飲んだ。
あっ、今間接キス……。
私は一瞬どきっとしたが、次の瞬間、新田くんの眉間にぐっとしわが寄った。
「まずっ……」
――うっ、うわぁん!
間接キスの味がまずいっていわれた気分なんだけど!
思わず言葉を失っていると、新田くんが思い出したように言った。
「あっ、ごめん! 御木野さんがって意味じゃ……」
わ、わかっているけど……。
新田くんがちょっと照れた顔をする。
私もちょっと照れくさかったけど、気持ちとしては複雑。
間接キスがこの激マズのピンクグレープフルーツ味じゃなかったらどれだけいいかと思うよ……!
「うん……。でも、本当にもう捨てちゃっていいから……」
「大丈夫、飲める」
「本当にもういいから」
「全然飲めるって」
「本当に気を遣わなくていいんだよ。こんなの飲み続けるの、逆に心配だよ……」
新田くんが笑った。
「でも、成分と効能は確かなんでだろ?」
「そう……。それがこんな製品として世の中に売られているなんて、びっくりだよ……」
「確かに」
また新田くんが笑い、私もつられて笑ってしまった。
新田くんの笑顔と朗らかな笑い声。
おかげで沈んでいた気分が立ち直ってくる。
「それより、御木野さんは食べ物なにが好きなの?」
「あっ、私好き嫌いが全然なくて。でもしいて言うなら、ママの炊き込みご飯と茶碗蒸しかな」
「えっ……! 全然予想してなかった。なんか、大人っぽいな……」
「そうかな。新田くんは?」
「俺……、普通にピザとウインナー。やべぇ、味覚が子ども」
「えっ、そんなことないよ!」
ていうか、新田くんの好きなものが知れてうれしい。
ちゃんとスポーツ栄養学を勉強したら、お弁当にピザとウインナーを入れてあげたい。
そうか……。
ママとせなちゃんのいう通りだったな。
初めからちゃんと新田くんにいろいろ聞いておけばよかったんだ。
好きな食べ物だけじゃなくて、いつも効いている音楽とか、好きなスポーツブランドとか。
眠るときはパジャマなのかTシャツなのか、靴は右から履くのか左から履くのかとか。
考えてみたら、聞きたいことがいっぱいある。
知りたいことがいっぱいある……。
私は一旦箸をおいて、新田くんに向き合った。
「あのね、新田くん。
いつも新田くんがいろいろしてくれるから、私もなにかお返ししたいって思っているんだけど、男の子と付き合うのは新田君が初めてで、思いやりを持ちたいと思っているのに、いろいろわかってなくて、空まわっちゃってごめんね」
「いや、そんなのぜんぜん。俺だって付き合うのは御木野さんが初めてだよ」
そ、そうなんだ……!
じゃあ、初めて同士なんだね。
うれしい……!
「私、もっと新田くんのことたくさん知りたい。
新田くんの好きなことや考えていること、いっぱい話して欲しい。
あっ、あと、親善試合にむけて、もし私にできることがあったら、なんでも言ってね。
今度は失敗しないように頑張るから」
新田くんがふわっと笑った。
その微笑みが柔らかくて、なんだか胸にくる。
新田くんが、こんな顔を見せてくれるなんて……。
なぜだかすごく心をくすぐられる。
ひょっとして、こんな顔を見たことあるのって、私だけ? なんて思っちゃう……。
「頑張らなくても、御木野さんはそのままでいいよ。
いてくれるだけで、なんか力くれるから」
「で、でも……。一個くらい、なにかないの?」
「そうだな……。強いて言うなら、御木野さんからミサンガを貰えたらうれしいかな」
「ミサンガ……!」
そういえば、おっかけの子たちもミサンガって言ってた……!
一も二もなくうなづいた。
「わかった! プレゼントするね!」
私は放課後すぐに図書館の家庭科や趣味のコーナーに立った。
「ううーん、さすがにミサンガはないか……。やっぱりネットで見た方が早いかな……」
「今度はなにをしてんの?」
せなちゃんがやってきた。
「あのね、今日新田君と話したんだ。そうしたら、ミサンガが欲しいって!」
「ミサンガ……。ああ~……、昔作ったなぁ」
「えっ、ほんと!?」
「でも小学校のときだから、もう覚えてないかも」
「わかるところだけでも教えて!」
せなちゃんてすごい。
いつもなんでも頼りになっちゃう。
「えーと、はさみと、テープと、失敗した時に解く用の目うちみたいなのと、あと糸さえあれば……。
糸はヘンプとか刺繍糸でよかったと思うけど……。
ん……でも、やっぱりネットでちゃんと調べて、手芸屋さんに言って聞いてみよう。
前回の二の舞はやだし、やっぱり脚を使った現地調査は大事だ!」
ジャーナリストになりたいと思っているせなちゃんは、正確な情報、必要な情報をきちんと伝えるということをいつも考えていて、ピンクグレープフルーツ味のEAAのことでは、調べが足りてなかったことを私以上に反省していた。
私たちはネットで下調べをした後、早速近くの手芸屋に向かった。
テナントの入ったショッピングモールの一角にあるそのお店には、カラフルでさまざまな色が並んでいる。
店員さんに聞いてみると、その手の糸はこの辺りだよと教えてくれた。
うわぁ、素材感とか艶感とか、値段も結構幅広いなぁ……。
「これって、どんなデザインにするかによって選ぶ糸が変りそうだね」
「あたしがやったことあるのは、多分V編みってやつだったと思うけど、ハートとか文字とかも編むなら、色とか先に決めておかなきゃだね。どうする?」
「うーん……」
そのとき、背後から、あっという声が聞こえた。
振り向くと、そこにいたのはサッカーファンの女の子たちだった。
あ、まさか、彼女たちもミサンガの糸を買いに?
うわあ、こんなところで鉢会うなんて……。
戸惑っていたら、おっかけの中でもひときわ目立つリーダー格の子がつかつかとやってきた。
確か、一年生のときから八代くんのおっかけをやっている同級の芳賀麻衣子さんだ。
「あなたたちも糸を買いに来たの?」
「う、うん……。よかったらお先にどうぞ」
場所を譲ると、女の子たちがわらわらっとその場所を埋めた。
めいめいに気になった糸をあれこれ物色し始める。
私たちはそれを遠巻きに眺めながら、どんな糸を選ぶのかをこっそり観察していた。
一通り選び終わると、彼女たちは挨拶もせずレジのほうへ向かっていく。
それぞれが買い終わると、帰りがけに誰かがいい捨てた。
「くそマズドリンクでも作ってろっつうの」
一瞬、胸が凍った。
せなちゃんがきっと睨みつけて、言い返そうと一歩前に出た。
そのとき、芳賀さんから強い口調が放たれた。
「いいかげんやめな! 真剣な気持ちはうちらと変わんないじゃん!」
私たちも女の子たちもびっくりして、芳賀さんを見つめた。
悪態をついた子が気圧されて、小さくごめんとつぶやいた。
誰彼となく、行こうといいだし、女の子たちは店を出て向こうへ歩いて行ってしまった。
「び、びっくりした……。芳賀さん、だよね……。せなちゃんと同じクラスの」
「うん……。彼女って、おっかけの番長みたいになっているけど、なんか、ああいう感じなんだよね。
他の有象無象みたいにひねくれてないっていうか、ストレートっていう感じ。
こないだ絡まれたときも、間に入って止めてくれたの芳賀さんなんだ」
「そうだったんだ……」
「あの子はなんか芯があって好感持てる。さっきもびしっと言ってくれてちょっとすっきりした」
「うん、なんかうれしかった」
私たちは彼女たちが選んでいた糸を参考にしながらいくつかの候補に絞り込んだ。
スマホの画面の編み方と使用する糸の本数を見比べながら、ああでもこうでもといっている間に、結構な時間が経っていた。
「御木野さん」
唐突に呼ばれて、振り返った。
そこには、帰ったはずの芳賀さんが立っていた。
「あのさ……、新田くんにミサンガつくるんだよね?」
「あ、うん……」
「作り方、教えようか?」
えっ、本当……!?
突然の申し出に、私はせなちゃんと目をぱちぱちさせてしまった。
「その代わりに、私にも教えてもらえないかな……」
「え……? なにを?」
「ドーピングで禁止されてるっていうやつ……。なにがだめで、なにがいいのか」
聞けば、前回八代くんが間違えて飲んでしまったドリンクを渡したのは、芳賀さんだったらしい。
そのせいで試合に負けたことは知らなかったが、せなちゃんが苦言を呈したことで芳賀さんもそれに気がついた。
自分のせいで八代くんの足を引っ張ってしまったことを悔やんでいるのだそうだ。
私たちにとっては、ミサンガの作り方を教えてもらえるうえに、差し入れを気を付けてもらえるのだから、断る理由なんてどこにもない。
「ぜひ、芳賀さん」
「よかった……!」
芳賀さんがほっとしたように笑う。
おっかけのリーダーにふさわしい美貌とエネルギーにあふれた笑顔。
わあ、この人なら、八代くんに釣り合いそう……。
素直にそう思えるほど、魅力的な女の子だ。
早速私たちはモールの中のフリースペースでミサンガづくりを教えてもらった。
芳賀さんは長めのネイルばっちりなくせに、サッサと巧みに編んで見せてくれた。
「アルファベットはこんな感じで編むといいよ」
「芳賀さん、すごい。お手本を見なくても覚えているの?」
「私、手先は器用な方なんだ。将来はこういう手とか指先を使う仕事に就くつもり」
「そっかあ、ネイルもいつもきれいにしているもんね。
去年の五月ころ、カルミアの花のネイル、すごく可愛かったの今でも覚えてる」
「えっ、御木野さん、あれ覚えてるの?」
「うん、白とピンクの、カルミアのつぼみだよね、あれ。本当にすごいと思う。才能だよね」
芳賀さんがちょっとうれしそうに笑った。
「はは……っ、あれ、カルミアのつぼみってわかったの多分御木野さんだけ。
他のみんなには、なんでホイップクリームのネイルしてんの? っていわれちゃったよ」
「え、あれはカルミアだったよね……。白とピンク、あとちょっと赤の」
すかさずせなちゃんがスマホを取り出した。
せなちゃんは知らないことがあると必ず調べる癖がある。
「なになに……。カルミア……。あっ、ああ!
なにこれ、確かにホイップクリームを絞り出したみたい。
へえ~、こんな花、芳賀さんもまこもよく知ってたね」
「私将来ネイルサロン開きたいんだ。だから、花とか植物とか、デザインの研究のために結構見てるから」
「将来のためにもう準備してるんだ。芳賀さんてすごいね」
「それをいうなら、御木野さんと吉木さんだって。
ドーピングのこと調べて、安全なプロテインとかことまで勉強しているなんて、マジでしっかりしてると思ったよ」
「でも、あれは失敗だったけどね……」
「でも、御木野さんが新田くんのために真剣なんだってわかった。
だから私、御木野さんと話してみたいと思ってたんだ」
「わ、私なんて……。すごいのはせなちゃんなんだよ。
私ひとりじゃ多分、半月……いや調べるだけで一か月くらいかかっていたと思うから」
「そうなんだ……。吉木さんってスポーツに詳しいの?」
「……別に。あたしはジャーナリスト目指しているから、気になったことは調べたいっていうそれだけ」
芳賀さんが感心したようにせなちゃんを見つめた。
ぱっと私を見て、芳賀さんがいった。
「御木野さんは?」
「えっ? 私の将来の夢ってこと?」
「うん」
「私は栄養士になりたい。できれば、アスリート専門の栄養学を学べる学校に進みたい。
あっ、でも第一は、ママみたいにおいしい料理を作れる人かな。
どんなに栄養があっても、おいしくなかったら意味がないと思うから」
芳賀さんがにこっと白い歯を見せた。
「ふたりもすごいじゃん!」
今までほとんど接点がなかったのに、いきなり将来の夢を打ち明けあうことになって、私たちは急激に仲良くなった。
芳賀さんを取られたと感じたおっかけの子たちが少しざわめいたけど、芳賀さんがそのたびにびしっと態度で示してくれて、私に嫌味を言う人もだんだんといなくなっていった。
私たちが芳賀さんを麻衣ちゃん、麻衣子。
麻衣ちゃんが私たちをまこ、せな。
と呼ぶようになるまでに、時間はほとんどかからなかった。
麻衣ちゃんとせなちゃんのおかげで、私は一週間ほどで新田君に渡すミサンガを作り上げることができた。
喜んでもらえるかな……。
明日、新田くんに会うのが楽しみ……!
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