【完】Nurture ずっと二人で ~ サッカー硬派男子 × おっとり地味子のゆっくり育むピュア恋~【ブルーモーメントオムニバス1~2&5】

国府知里

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【シリーズ5】888字物語 ~青春篇~

# あらわれた白うさぎ

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 大学進学と共に初めてのひとり暮らし。

 初めての地方。

 H農業大学の近くにアパートを借りた。

 町を外れると、もはや日本昔話の世界。

 山、川、林、森。

 空気がうまいってこういうことか。

 見知らぬ田園風景に懐かしさを感じるのは、日本人のDNAのなせるわざだろうな。

 おっ、こんなところに神社がある。

 縁結神社?

 雰囲気あるなぁ。

 こんな急な山道登るんだ、すげえな。

 近所だし、一応挨拶しておこうか。



 小作りな鳥居と、小さいがきれいに整えられた社。

 絵馬や供え物が結構あるな。

 大切にされてきた神社なんだな。

 手持ちの小銭を賽銭箱に入れて、手を合わせる。

 ーーこれからの学生生活、充実したものとなりますように。

 よし。

 目を開けると秒でビビッた!

 知らない人が隣でお祈りをしていた。

 うおっ、いつの間に!?

 全然音しなかったのに。

 しかも、髪の長い女の子。

 同い年くらいだ。

 あっ、もしかして同じ大学の人かな?

 彼女がぱっと目を開けると、ぱっちりとした目と意志の強そうな眉毛が印象的な、かなりの美人だった。


「ど、ども……。もしかして、H農の学生さんですか?」

「いえ、ここに住んでます」


 あ、あれ、違った……。

 地元の人か……。

 でも、縁結びの神様の元でこんな美人と居合わせるなんて、これはなにかの縁としか思えない。

 仲良くなれば、これから地元案内しましょうか、そんな悪いですよ、いえいえ全然、それじゃお言葉に甘えて、なんてことになったりして……。


「よく来るんですか?」

「ここ、ちょっと有名なんです。

 県外からも結構人が来るんですよ」

「へー、そうなんですね。

 道理で、なんかちゃんと手がかけられている感じですもんね」


 美人がすらっとしたデニムの長い脚で踵を返した。

 ……あ、俺、眼中になしか。

 いや、わかっていたけれども。

 こんな美人に、彼氏がいないわけないよな。

 ……いや?

 そしたら、なんで縁結の神社なんかに?

 そう気づいたら、思わず呼び止めていた。


「あの、もしよかったら、軽くこの辺教えてもらえませんか?

 実は、まだコンビニの場所も知らなくて」


 美人が振り返ると、同時に風が吹いた。

 艶のある髪をなびく。

 おお……、なんかドラマチック。

 美人って絵になるなあ。


「コンビニは道なりに北へ車で20分、スーパーは駅前と、県道沿い。

 ホームセンターは隣の市までいかないとないですよ」

「なるほど……」


 彼女はすぐにまた背を向けて歩き出す。

 あ、あぁ~……。

 行ってしまう……。

 やっぱり、俺みたいなのがあんな美人に相手にされるわけないよな……。

 そう思いながらも、印象的なあの目がもう一度見たくて、その背中に声をかけていた。


「……あ、ありがとうございました。あの、お名前聞いてもいいですか?」

「イナバ……」


 イナバさん、かあ……。

 イナバさんが颯爽と帰っていく。

 後ろ姿もスタイルが良くて、めちゃめちゃ好みだった。

 1ミリも相手にされなかったのに、それからも何度か神社を訪ねた。

 性懲りもない俺。

 なんとかもう一度会えないかなあ。

 数カ月後のある日。

 神社で掃除をしている見知らぬおばさんに会った。



「あ、ども……。ご苦労さまです」

「はいどうも。今終わるからね」

「あ、はい……」

「はい、どうぞ。遠くから来たのかね、いいご縁がありますように」

「あ、俺はそこのH農の学生です」

「そうかね。ご苦労さんだね」



 人の良さそうなおばさんだな。

 あ、もしかしたら、このおばさん、イナバさんのこと知ってるかも……?



「あ、あの、ここにイナバさんて女性お参りに来てませんか?」

「イナバさん?」

「髪が長くて、目がくりっとしてる」



 おばさんは首を少しかしげて、知らないねぇといった。

 その後、ハッとしたように口を開いた。



「お兄さん、そのイナバさんてお兄さん好みの美人じゃなかったかい?」

「えっ、知ってるんですか?」



 おばさんが急に笑い出した。

 え、なんだ、なんだ?

 知ってるんなら、早く教えてくださいよ……!



「知ってるっていうかねぇ、そりゃあ多分、うさぎだよ」

「うさぎ? 彼女、うさぎさんっていうんですか?」



 イナバうさぎさん、か。

 ちょっとキラキラネームだけど、あれだけの美人なら許されそうだ。

 おばさんがまた笑った。



「違う、違うよ。うさぎって、あのうさぎのことだよ。

 ここがなんの神社か知らないのかい?」

「はい?」

「ここは大国主命(おおくにぬしのみこと)様を祀った縁結神社だよ。

 うさぎっていうのは、八上姫(やがみひめ)様と大国主命様を結んだ、因幡(いなば)の白うさぎのことだよ」

「因幡の白うさぎ……?」



 思わず、アホみたいにぽかんと口を開けてしまった。

 おばさんが眉をハの字にして笑う。



「昔からよくいうんだよ。ここで因幡の白うさぎに会ったってね」

「白うさぎに、会った……?」

「きっと、お兄さんが会ったのは白うさぎだよ。

 人によっては男に見えたり、女に見えたり、神様みたいに見えたりもするらしいから」



 えっ、いや、いやいやいや……!

 あんな真昼にくっきりと見えていた人の姿が、神話に出てくる因幡の白うさぎですとか、いやいやいや。

 ありえなさすぎるって。



「よかったねえ、白うさぎになにかお願いしたのかい?」

「い、いえ、お願いなんて……」



 いや、したな……!

 この辺教えてくれませんかって、お願いした。



「白うさぎに会うと、必ず願いが叶うっていわれているんだよ」

「え、マ、マジですか……?」

「そうだよ。だから、お参りするときははっきりと、どこそこに住む誰それさんと縁を結んでください、って手を合わせるんだよ。

 そうじゃないと、願いが届かないそうだから」



 そ、それがマジなら俺、コンビニの場所を教えてとか、すっげーどうでもいいことお願いしたことになるんだけど……。



「はっきりよおくイメージしないとだめなんだよ。

 ぼんやりお願いすると、心の中の理想の相手が、白うさぎの姿を借りてでてきてしまうんだよ。

 ちょうどお兄さんが見た白うさぎみたいにね」

「え、え? どういう意味ですか?」

「はっきりと具体的な相手との良縁をお願いせずに、いい人と巡り合わせてくださいとか、恋愛運が上がりますようにとか、やりがちでしょう?

 でも、それじゃここの神様には伝わらない。

 お使いの白うさぎもうまく良縁を運べずに、理想の相手の姿とか好みの見た目とか、そんなのに化けて出てくるしかないんだろうね」



 は、え……?

 白うさぎが、理想の相手……?

 はっ……。

 い、いわれてみれば!

 長くてきれいな髪。

 ぱっちりとした目。

 抜群のスタイル。

 意志をはっきりと感じる雰囲気。

 もろ俺の好みじゃん……!

 う、うおおおおおぉ……。

 なんだよ、そういうことかよ……!
 
 だったら、初めから誰か教えてくれよぉ……!

 普通そんなラッキーチャンスが前触れもなくいきなり現れるとか、想像していない。

 ああ~、それがマジなら、芸能人のY本M香と付き合わせて下さいってお願いしたのに……!



「……も、もっかい会えますかね?」

「どうだろうねえ。お兄さんの信心によるんじゃないのかねえ」



 ……信心!

 信じますとも、神様、うさぎ様!

 Y本M香みたいなあんな美人が理想です!

 できれば本人と付き合えますように!

 それから俺は幾度となく、神社を参拝した。

 だけど、それから二度と、因幡の白うさぎが現れることはなかった。

 ラッキーはそうそう巡ってくるもんではないらしい。






 大学を卒業して、俺は地域の協同組合に就職した。

 更にいうと、同時期に結婚をして、今は新しいアパートに二人で暮らしている。

 妻は、大学時代俺が通い詰めたコンビニでアルバイトをしていた、隣市の短大に通う学生だった。

 ある意味、因幡の白うさぎが良縁を繋いでくれたといっても間違いじゃない。

 しかも、Y本M香には遠く及ばないが、妻は俺の理想に結構近い。

 強気で性格がはっきりしている。

 後ろから見るスタイルは、実際かなりイケている。

 前を行く妻が振り返った。



「もう~遅い! 早くしてよ!」

「あ、ごめん、ごめん」

「あ~、こんなことなら白うさぎに歩調の合う人ってお願いすればよかったなあ」



 慌てて妻の隣に並んだ。



「後ろ姿に見惚れてた」

「何言ってんのよ、もう~」



 当時、妻は妻で縁結神社を参拝していたらしい。

 勝ち気でなんでも自分で決めたい性格なので、三歩下がって付いてきてくれるような男性と付き合いたいと願ったのだそうだ。

 それってつまり、俺のことなわけ。

 俺も妻も、なかなかの良縁だと思っている。
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