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【シリーズ2】あの日君とみた空はこんなにも届かない
【第2章 まだ名前も知らない君へ】
しおりを挟む日が長くなってきた。
放課後のグラウンドには、野球部の掛け声やサッカー部のホイッスルが響いていた。
その喧騒を少し離れたベンチで、俺たちは並んで座っていた。
吉田優菜──
その名前は、もうとっくにクラスの誰もが知っていた。
けれど、彼女のことを「ほんとうに知っている」人は、どれだけいただろう。
「ねえ、智くんは……怖いと思うこと、ある?」
ふいに、優菜が聞いてきた。
春の風が、彼女のスカートの裾を揺らした。
「怖いって?」
「たとえば……誰かを本当に好きになることとかさ」
「……あるよ。っていうか、いま、わりと怖いかも」
「ふふ、それ、誰のこと?」
「さあ、誰だろうな」
そんな他愛もない会話の中で、俺は彼女の言葉の一つ一つを、胸の奥に沈めていった。
彼女はよく空を見ていた。
よく詩を読んでいた。
人といるのに、どこかひとりだった。
その横顔に、時折浮かぶ影が、どうしても気になった。
***
五月に入ってすぐ、体育祭の準備が始まった。
俺と優菜は、偶然にも同じ競技に出ることになった。
リレーの補欠、という微妙なポジションだったけど、放課後の練習には二人ともちゃんと顔を出していた。
「優菜、走るの得意そうに見えないのに、意外」
「ひどいなあ、それ」
「いや、なんとなく本とか読んでるイメージが強いからさ」
「ふふ。……でも、こうやって、走ってるとね、何も考えなくて済むの」
「何も、って?」
「ううん、なんでもない」
そう言って、彼女は前を向いて軽く笑ったけれど、その笑顔は少し疲れて見えた。
「無理してない?」
「え?」
「いや、なんか、いろいろ我慢してる感じする」
彼女は黙った。ほんの一瞬だけ、目を伏せて──
「……優しいね、智くんは」
とだけ言った。
***
その日の練習帰り、夕暮れの校門前。
ふたり並んで歩く帰り道に、ツバメが低く飛んでいった。
「智くんって、さ……」
「ん?」
「前にも、どこかで会った気がするんだよね」
「俺も、それ思ったことある」
「でも、どこかは思い出せないんだよ。不思議だね」
「……前世とかで会ってたりして」
「ふふ、それっぽいね」
彼女の笑い声が、夕焼け空に溶けていった。
名前は知っている。
声も、笑い方も、好みも、少しずつ分かってきた。
だけどまだ、彼女の全部を知ってるわけじゃない。
“まだ名前も知らない君”──
それは、彼女の心の奥にある誰にも触れさせない名前のようなものだった。
触れたくて、でも怖くて。
近づきたくて、でも届かなくて。
それでも俺は、少しずつ、確かに惹かれていった。
たとえ、この気持ちの先に、何が待っていたとしても──
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