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【シリーズ2】あの日君とみた空はこんなにも届かない
【第13章 風の音が教えてくれること 】
しおりを挟む四月の風が頬をかすめる午後。桜はすっかり散ってしまい、葉桜の緑がまぶしく揺れていた。新しいクラス、新しい先生、新しい時間割。
俺の中で、季節がやっと動き出した気がしていた。
優菜がいない世界で迎える初めての春。
まだふいに思い出しては胸が痛むけれど、その痛みは以前よりも柔らかく、そして少し温かいものになっていた。
放課後、俺は図書館へ向かう。以前、優菜と通ったあの場所。静けさの中でページをめくる音だけが響く空間が、なぜか落ち着いた。
あの日のように、小説を手に取り、ページを開く。けれどその文字たちは、もう涙でにじむことはなかった。
「……智くん?」
ふと声をかけられて顔を上げると、そこにいたのは彩夏だった。優菜の親友。葬儀の時も、何度も俺に声をかけてくれていた子だ。
「あ、うん……久しぶり」
ぎこちなく笑う俺に、彩夏はふわりと微笑んだ。
「最近、ちょっと元気になったよね。顔つき、変わったと思う」
「そうかな……自分では、まだよくわかんないけど」
「優菜、きっと安心してるよ。智くんが前に進もうとしてること」
その言葉に、胸の奥があたたかくなった。誰かにそう言ってもらえることが、こんなに力になるなんて思わなかった。
「ありがとう、彩夏。……ほんとに」
彼女と話していると、心が少し軽くなる。やっぱり優菜が好きだった人たちは、優しいなと思った。
帰り道、風が強く吹いて、葉桜がさやさやと音を立てた。
ふと、あの日の優菜の声が、耳の奥で聞こえた気がした。
「ねぇ智くん、風の音って、なんだか泣いてるみたいに聞こえるよね」
そう言って笑った彼女の顔が、風に揺れる緑の中で、やさしく浮かんで見えた。
「……でも、俺には今、笑ってるように聞こえるよ」
空に向かって、そうつぶやいた。
もう、あの日には戻れない。
でも、未来には進める。
優菜と過ごした時間が、俺を強くしてくれたから。
風の音が、それを教えてくれている気がした。
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