いたいけなほしくず─とおいみらいのおとぎばなし─

有城 沙生

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記録 Ⅱ:ドウシィとプレマルジナ

🔲記録Ⅱ-4:Por Adiaŭo

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 早花咲月
 なんてて言うけど、花なんてどこにも見えやしない。

 「外、て何もないのね」
 車の中から覗くだけの風景。
 お外。
 楽しみにしてたんだけどな。
 外は、こんなにも何も無くなってしまっていたんだ。

 ぴかっと光った空。
 どんって大きな音。
 それが、なんだったかなんて、知るよしもないけれど。
 
 すっーと、背中に冷たいものが走る。

 ぶんっと、頭を一振して、ぞうさんのぬいぐるみに、ぽふっと体を埋める。
 
「そうですね。大事なお体です。到着までお休みください」
 運転席にいるプレマルジナが言う。
 
 大事な体か。
 そうよね。
 未来のために、子供を産む。
 大事よね。
 
 それが、プレマルジナの望みなら、私はちゃんとやるよ?
 でも…
 ぞうさんに突っ伏しながら頭を振る。
 いや、やるんだ。
 それが、多分プレマルジナの為なんだ!
 なら、今できることは一つ!
 無事に第7ドームに引っ越すこと!

 「……そうね。着いたら起こしてね」
 思い切り澄ました声で答えてみる。

 ふと、運転席から身をのり出してこちらを見ているプレマルジナが目にはいる。
 ぞうさんに埋もれている私は、そのままじっと薄目でプレマルジナを観察する。

 きれいだな、て思う。
 最近は砲撃処理の間隔が長くなって、
 一月は同じ体のままだけど。
 でも、一緒に暮らし始めたときと変わらない。

 もし…プレマルジナが年を取ったら、どんな風になるのかしら?

 すっとプレマルジナの手が伸びてきて、私の頬にかかった髪を耳に掛ける。
 
 ねえ。
 この微笑みは、私を模した顔ではないよね?
 プレマルジナの微笑みだよね?
 寝返る振りをして、顔をぞうさんに埋める。
 
 ねえ?

 

「ドウシィ、着きました」
 あのまま、熟睡で到着。
 眠る前に見えた微笑みは、幻だったのかな?と思うほど通常運転のプレマルジナ。
 ドームと呼ばれる建物を見上げる。
「似てるね、うちと」
 車は建物の中に入り、車外に出る。
 暗かった景色は、途端明るくなる。
 
 
「なんて顔してるの、お役目でしょ?行きましょう」
 感情ユニットを取り外した直後みたいな、張り付いた笑顔。
「はい」
 私は、プレマルジナの頬に指先を触れ、
「あなたが、選んでくれたんでしょう?なら、間違うわけないわ」
 と、強気の言葉を伝える。
 気付くかな?
「はい」
 気付くわけ、無いか…
 
 セプティマくんとポステアさんがお出迎え。
 ん。セプティマくん、十七歳。
 五歳下。
 セプティマ“くん”で、感じ。
 ごめんね。
 
「ドウシィさん、いらっしゃい。こちらはポステアです。宜しくお願いします」
 明るく微笑む少年の目尻に、涙の跡を見付けて、ああ、この人とは上手くやれるかも、と思った。
 彼は、きっと…
「セプティマくん?だったかしら?こちらはプレマルジナです。こちらこそ宜しくお願いします」
 私に渦巻く、押さえきれない感情を、笑顔で蓋をする。
 
 プレマルジナと同じの筈のポステアさんの、動きに違和感はあるけれど、それは悪いものではない、と確信できる。
 だって、ポステアさんは、プレマルジナと同じだから。
 
「セプティマ。ドウシィと仲良くしてください」
 プレマルジナのいつもより滑舌よく響く声音にびくっとする。
 私の思惑、ばれてないよね?

 セプティマくんは優しくて、何の滞りもなく粛々と寝屋を営んだ。
 多分、最初で最後の女が私で、ごめんねと思う。
 でも、セプティマくんならきっと分かってくれるよね。
 
――――
 
 子供!大変!!
 ポステアがいてくれなかったら、きっとプレマルジナに当たってる、物理で。
 ポステアは、こんな風にセプティマを育てたんだな、て、わかる日々。
 
「お乳は、ドウシィにしかあげられませんよ」
 って、私までフォローしてくれる。
 全く、スゴいよ、ポステア。

 プレマルジナは、さすがに乳幼児からの育成は門外漢みたいで、セプティマよりおろおろして見えるのは、きっと私の欲目だ。
 

 子供が五歳になったとき、彼はどこかに連れていかれた。
 きっと、彼のポステアが待っているのだと思う。
 なので、いよいよ決意の時が来たのよ。
 

「離婚?てことになるのかな?しませんか?」
 私の言葉に、セプティマは驚きもしない。
「いつか、言われると思ってましたよ」
 優しい笑顔で答えてくれる。
「ぼくが、ポステアに寄せる想いと、あなたが、プレマルジナに寄せる想いはとても似ていると思ってましたから」
「うん。」
「ぼくには、感情ユニットを外した後の、感情を置いてきているポステアにしかプロポーズ出来ませんでしたが、あなたは違いますものね。だから、同じではありません」
 
 感情ユニットを抜く。
 ――――心が肉体から切り離される瞬間に共にいる。
 これは、私が選んだ事だ。

「幸せに、なれますか?」
 セプティマは眉を顰めている。
「プレマルジナがいることが幸せなので、幸せだと思います」
 外。
 未だ、人が住める状況では、まるでない。
「それでも、ぼくはあなたの幸せを祈らせて下さい。ぼくの、ために」
「勿論です。ありがとうございます。あなたも、お幸せに」
 私たちは、子供こそ産み育てたけれど、仲間…違うな、同士だと感じた。
 愚かに見える恋情に、絆された愚か者。
 

「なぜこの日なの?」
 セプティマが訪ねる。
 プレマルジナと見つめ合う私。

「今日は、ふたりの誕生日だからよ」
 今日はクリスマスイブだ。
「あなたの望むままに」
 プレマルジナの、聞きなれた台詞。

 プレマルジナの手が、暖かい。
 いつもの、私の辛い時の暖かさ。
 私は、そっとプレマルジナの腕にもたれた。 

 
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