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第一部
小川美希1
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―― 始業開始5分前。
予鈴がフロア内に響き渡った。成瀬 唯香は、右隣のデスクに鋭い視線を飛ばし、舌打ちをした。
(あの女、まだ来てねえ。今日も休むつもりか?)
―― 8時30分
唯香の苛立ちを小ばかにするような、陽気で爽やかなラジオ体操の音楽が流れ、社員たちは、眠たそうな目をしながら、ぐるぐると腕を回転させたり、膝を屈伸させたりしている。深呼吸まで終わると、社員たちは、自分が所属する課の管理者の元へとぞろぞろと集まっていった。唯香も、統括営業部 第一営業課の課長の宇野沢の元へと歩を進めた。業務連絡を部下にひととおり共有した宇野沢が、「他に何かありますか?」と皆に尋いた。
「あの! 課長! 小川さんがまだ出社してきていないようなのですが」
唯香は、喉元にせり上がってくる怒りを辛うじて抑制しながら発言した。
「ああ、小川さんね。私のところに直接連絡があったよ。まだ、お子さんの熱が下がらないみたいで、今日もお休みさせてほしいとのことだよ」
宇野沢は、事もなさそうにさらりと言ってのけた。事務職の女性社員が一人欠けたところで、自分に直接火の粉が降りかかる心配がないものだから、まるで他人事なのだ。
「待ってください! 小川さん、今週1日も出勤していないんですよ? 今日は四半期決算ですよ? この忙しい時期に、まるまる一週間欠勤って! 午後からでも出勤できないんですか?」
「まあまあ、成瀬さん、そうカッカしないで。小川さんは小さなお子さんを抱えながら働いているんだから仕方ないだろう。こういう時は、皆で協力し合わないとな! 皆、一丸となって、小川さんのフォローをしようじゃないか!」
(何が、皆でフォローしようだ? 何が仕方ない? 忙しい時期を狙ったかのように休みやがって! まともに働けないんなら職場復帰なんかするんじぇねえよ! 実際、アイツの尻拭いするのは全部私なんだよ!)
唯香の目鼻立ちの整った美しい顔が、怒りで醜く歪んだ。
予鈴がフロア内に響き渡った。成瀬 唯香は、右隣のデスクに鋭い視線を飛ばし、舌打ちをした。
(あの女、まだ来てねえ。今日も休むつもりか?)
―― 8時30分
唯香の苛立ちを小ばかにするような、陽気で爽やかなラジオ体操の音楽が流れ、社員たちは、眠たそうな目をしながら、ぐるぐると腕を回転させたり、膝を屈伸させたりしている。深呼吸まで終わると、社員たちは、自分が所属する課の管理者の元へとぞろぞろと集まっていった。唯香も、統括営業部 第一営業課の課長の宇野沢の元へと歩を進めた。業務連絡を部下にひととおり共有した宇野沢が、「他に何かありますか?」と皆に尋いた。
「あの! 課長! 小川さんがまだ出社してきていないようなのですが」
唯香は、喉元にせり上がってくる怒りを辛うじて抑制しながら発言した。
「ああ、小川さんね。私のところに直接連絡があったよ。まだ、お子さんの熱が下がらないみたいで、今日もお休みさせてほしいとのことだよ」
宇野沢は、事もなさそうにさらりと言ってのけた。事務職の女性社員が一人欠けたところで、自分に直接火の粉が降りかかる心配がないものだから、まるで他人事なのだ。
「待ってください! 小川さん、今週1日も出勤していないんですよ? 今日は四半期決算ですよ? この忙しい時期に、まるまる一週間欠勤って! 午後からでも出勤できないんですか?」
「まあまあ、成瀬さん、そうカッカしないで。小川さんは小さなお子さんを抱えながら働いているんだから仕方ないだろう。こういう時は、皆で協力し合わないとな! 皆、一丸となって、小川さんのフォローをしようじゃないか!」
(何が、皆でフォローしようだ? 何が仕方ない? 忙しい時期を狙ったかのように休みやがって! まともに働けないんなら職場復帰なんかするんじぇねえよ! 実際、アイツの尻拭いするのは全部私なんだよ!)
唯香の目鼻立ちの整った美しい顔が、怒りで醜く歪んだ。
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