成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第一部

19

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「わかったよ。包み隠さず話すよ」
「ありがとうございます!」
「小川さん、うちの部署にも来たよ」
「国際営業課にですか?」
「うん。うちの部署に限らず、いろんなところで成瀬さんの悪口言ってるみたいだよ。しかも、成瀬さんに突き飛ばされた時に倒れてケガをしたとかで、右手に包帯巻いてるんだけど」
 さすがの唯香もこれは予想外だった。自分を貶めるためにそこまでやる必要があるのだろうか? と思うと、体内を流れる血液が凍りつくようだった。そして、人間という生き物、殊更に“女”という生き物の悍ましさを思い知らされた気がした。

「岡崎さんは、小川さんの話を信じますか?」
「愚問だね。そんな三文芝居信じるほど、俺はバカじゃないよ。じゃなきゃ、成瀬さんを助けようなんて思う筈がないよ」
 岡崎さんの真っ直ぐな瞳を見て、唯香は、ホッと胸を撫でおろした。
「岡崎さんを疑ったわけじゃないんです。ごめんなさい。『私を信じる』っていう言葉が欲しくて。それに縋らないと心を正常に保てないくらい、私、弱ってるみたいなんです」
 嬉しくて、涙が溢れそうになるのを、唯香は必死に堪えた。と、その時、岡崎さんのスマートフォンに着信が入った。「ちょっと、失礼!」と言って、そそくさと店の外に出た岡崎さんを、唯香は窓から眺めていた。この店に到着した時より、少し雨脚が強まっていた。赤色のオーニングテントの下で通話する岡崎さんの横顔を街路灯の白色の光がほんのりと映し出していた。彼の表情を認識することはできないが、何やら、通話相手を懸命に宥めているような、そんな印象を受けた。きっと、岡崎さんのスマートフォンの向こう側に居るのは“女”なのだろうと思った。唯香の中で、その“女”に対する不快な感情が湧き上がってくるのがわかった。それは、嫉妬が形成される途中の灰色の感情で、コンビニの店員から釣銭をぞんざいに渡されたときに感じる程度のものだった。

 通話が終わり、店内に戻ってきた岡崎さんの表情は、とても明るかった。
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