成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第二部

42

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「じゃあ、少しでも、当時の記憶が蘇るように、トリガーワードをひとつ」

「何? 勿体ぶらないで教えてよ」

「ブー子」

「ブー子?」

***

 “ブー子”という言葉を聞いた瞬間、唯香の脳裏に古ぼけた光景が映し出された。三号館二階の202教室。生徒たちが顔を見合わせながらディスカッションしやすいという理由から、白石教授の意向でコの字型のこの教室が選ばれた。クラスの子たちとの関わりが多かった一年生の時とは違って、二年生からはゼミの仲間との関わりが増えてくるから、ゼミの選択次第で大学生活は最高にも最低にもなると、サークルの先輩が言っていた。その頃、付き合い始めたばかりの唯香とタケルは、迷わず、同じゼミを選択した。その日は、白石ゼミの顔合わせの日だった。皆、ゼミの内容や教授の好き嫌いよりも、仲の良い友達や恋人と一緒にゼミを選択する傾向が強く、和気あいあいとした雰囲気が漂っていた。皆が挨拶を交わしあってる中、ひとりだけ、誰とも喋らず、唯香の方に突き刺すような視線を投げつけている女がいた。唯香は、小声でタケルに

「ねえ、さっきから、私、彼女にめっちゃ睨みつけられているんだけど」
 と言うと、タケルの隣の席に座っていた彼の女友達が、

「ああ、彼女、私と同じクラスの高田洋子だよ。なんかあ、第一志望の国立落ちて、滑り止めで受けてたうちの大学に来たって噂。全教科満点だったって噂もあるし。プライド高いし、友達なんて要りませんって感じで、いつもひとりでいるよー。それに、言っちゃ悪いけど、あの容姿じゃん? 陰で“ブー子”って呼ばれてるよー」
 と言った。

「えっ? まじで? 俺、あの子に告られたんだけどー!」

 タケルの声のボリュームが上がった。慌てて、唯香はタケルの頭を小突いたが、その声は教室にいる生徒たちの耳にしっかりと届いてしまった。見世物小屋の動物を見るような好奇の目で、皆が、洋子の方をちらちらと見た。中には、嘲笑う者もいた。

***
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