成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第二部

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「ちょっと待ってよ! なんで、そんなこと一条が知ってるわけ?」

 唯香はハッとした。唯香とタケルが同棲していた頃、まだバンド活動を続けていたタケルがファンの女の子からプレゼントを貰うことは珍しいことではなかった。ぬいぐるみだのTシャツだのファンアートだの……そんなものは、ふたりが別れた時に段ボール箱にぶち込んでタケルに投げつけたけれども……ひとつだけ手元に残したものがある。

 ――スマホの充電器だ!

 一条が友達なり知人なりに頼んでタケルに渡すことは、そう難しいことじゃないだろう。

「盗聴……してた……の? それ、犯罪なんだけど」

 タケルとの会話やら夜の営みが盗み聞きされていたと想像するだけで、気持ち悪さで、唯香は吐き気を催した。唯香の蒼褪めた顔を見た洋子は、

「タケルさんって、あんな性癖があるのね。ぞくぞくしちゃう」
 と言って、体を蛇のようにくねらせて悦楽に悶えていた。

「アンタ、気持ち悪いわよっ! いったい、私にどうなってほしいっていうのよっ?」
 
 枯れ木の枝でひと休みしていた名も知らぬ鳥たちが、唯香の叫び声に驚き、一斉に羽ばたいていった。

「気持ち悪い? 私が?」

 洋子は、自分がしていることが常軌を逸していることにまったく気付いていない様子だった。これで、大学院にまで行って心理学を学んできたプロだというのだから呆れてしまうと唯香は思った。

「そうよ。あなた、はっきり言って、かなりイカレてるわよ! ねえ、あなた、いったい私にどうなってほしいわけ? 私がどうなったら、あなたの気が済むわけ?」

「アンタの人生がズタボロになったら、気が済むと思うわ」

 洋子の顔は、唯香に対する悪意で歪んでいた。これだけ負の感情が溢れ出していたら、”ブー子”と小ばかにされていた頃の洋子も、整形で人並みの容姿を手に入れた洋子も、大差ないな、と唯香は思った。

「ねえ……私の人生、すでにズタボロなんだけど? これ以上、私から何を奪いたいわけ?」

「まだまだ、アンタ、たくさん持ってるじゃない? まずは、アンタを八角重工から追い出してやるわ。次に、岡崎遼との婚約を破棄させてやる! これは、私にはできないことだから、蘭がやるわ。それから、アンタとタケルさんが二度と会えないようにしてやるっ! そして……その、生まれながらの美しい顔もぐちゃぐちゃにしてやりたいっ!」

 人間の皮を被った鬼なのではないか? と疑うほど、洋子の顔は醜悪だった。毒気をあてられた唯香は恐怖で言葉を発することができなかった。
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