74 / 100
74
しおりを挟む
エミリア少年に地下室への行き方と地下室の間取り、鬼灯が監禁されている折檻部屋の場所を訊きだした桜井は何とか地下室へと辿り着いた。九賀野研究所といい、悪事と地下室というのは相性が良いのだな、と桜井は思った。地上の部屋も相当にきな臭かったが、地下室のきな臭さはそれの比ではなかった。エミリア少年の話によると、色子たちは地下での生活を強いられているとのことだ。こんな薄暗く黴臭い場所に閉じ込められていたら、いつ気が触れてもおかしくないだろうと桜井は彼らのことを不憫に思った。
階段に隠れるように桜井は地下室の間取りなどを確認した。エミリア少年が言った通り、がたいが良い男が見張り番としてうろうろしていた。間取りは二階の仕事部屋とほぼ同じで通路を挟んで両側に八部屋ずつ木製のドア付きの個室が並んでおり、一番奥の部屋だけが座敷牢のようになっていた。その部屋が折檻部屋だという。見張り番の男はやる気がないらしく酒をちびちび飲みながら欠伸をしていた。桜井は忍び足で男の背後に回り頸椎に手刀を一撃入れた。男は気を失って倒れた。桜井は部屋で客の指名を待っている色子たちに気付かれないよう静かな足取りで一番奥の部屋へと辿り着いた。桜井は見張り番の男がズボンのポケットに入れていたキーリングの中から牢の鍵穴と一致する鍵を使い内部に侵入した。そこは洞窟のように真っ暗でじめじめとしていた。室内にはすえた臭いが充満していて思わず桜井は鼻を覆った。人がいる気配がまったく感じられない。本当に此処に鬼灯くんは居るのだろうかと桜井は不安になった。暗順応してきた桜井の視界に朧げに映し出された光景に桜井は驚愕した。其処には手枷と足枷をはめられた鬼灯の姿があったからだ。躰は痩せこけて、艶やかだった琥珀色の髪は真っ白になって腰辺りまで伸びており、こうべを垂れてぶつぶつと何かを呟いている。生きているのか死んでいるのか分からない状態だ。桜井は鬼灯の傍に駆け寄った。呼吸が浅く、意識が朦朧としている。キーリングの中から拘束具の鍵を即座に見つけ拘束を解くと鬼灯は力なく床に倒れこんだ。桜井は骨と皮だけになった鬼灯を抱きしめ、
「鬼灯くん、助けに来たよ。私のことが分かるかい?」
と囁いた。鬼灯は顔を上げ、やつれて落ち窪んだ瞳で桜井の方を見た。
「副院長先生……来てくれた……嬉しい」
と言って鬼灯は微笑んだ。
「よもぎ医院……おと……さん」
「ああ、『よもぎ医院』も院長先生も大忙しだ」
桜井の瞳から涙が溢れた。刹那、背後から野太い声が聴こえてきた。
「貴様! 俺の店で勝手に何をしている? エミリアを縛り付け、見張り番の男を伸したのは貴様か?」
桜井は、桜井に加担したエミリア少年に危害が及ばないように、接客の最中に客に縛り付けられ、クレマチスの居場所を吐かないと殺すと脅された、ということで話を合わせていたのだ。
「ああ、私だよ。あの子どもが頑としてクレマチスの居場所を吐かないんで、少々手荒な真似をさせてもらいましたよ。そこの大男は、邪魔だったんで少し眠って貰っただけだよ。殺しちゃいない」
「何者だか知らないが、俺の店を荒らしたら生きて帰すわけにはいかないな。執事から、クレマチス目当てで来た客だと聞いた。相当、クレマチスにご執心のようだな。この変態野郎! 特別サービスだ。ふたりまとめて地獄に送ってやるよ」
そう言って、店主らしき大男はベルトに装着したホルスターから拳銃を取り出し銃口を桜井と鬼灯に向けた。
「地獄に堕ちるのはお前の方だと思うがな」
桜井は不敵な笑みを浮かべた。それと同時に店主の手が血塗れになった。店主は唖然とした。
「国家警察だ! 弟切! 千時丸帝国の風紀を著しく乱した罪で逮捕する!」
弟切という店主はあっという間に国家警察部隊に羽交い絞めにされ、しょっ引かれて行った。
「鬼灯くん、もう悪い奴は居なくなった。君は自由になったんだよ。今からだって遅くない。君のお父さんのような立派な医者になろう」
桜井は鬼灯の髪を優しく撫でながら言った。
「そっか……僕、頑張って……立派な医者になる……」
鬼灯の心音が止まった。鬼灯は桜井の腕に抱かれて幸せそうに微笑んで逝った。
階段に隠れるように桜井は地下室の間取りなどを確認した。エミリア少年が言った通り、がたいが良い男が見張り番としてうろうろしていた。間取りは二階の仕事部屋とほぼ同じで通路を挟んで両側に八部屋ずつ木製のドア付きの個室が並んでおり、一番奥の部屋だけが座敷牢のようになっていた。その部屋が折檻部屋だという。見張り番の男はやる気がないらしく酒をちびちび飲みながら欠伸をしていた。桜井は忍び足で男の背後に回り頸椎に手刀を一撃入れた。男は気を失って倒れた。桜井は部屋で客の指名を待っている色子たちに気付かれないよう静かな足取りで一番奥の部屋へと辿り着いた。桜井は見張り番の男がズボンのポケットに入れていたキーリングの中から牢の鍵穴と一致する鍵を使い内部に侵入した。そこは洞窟のように真っ暗でじめじめとしていた。室内にはすえた臭いが充満していて思わず桜井は鼻を覆った。人がいる気配がまったく感じられない。本当に此処に鬼灯くんは居るのだろうかと桜井は不安になった。暗順応してきた桜井の視界に朧げに映し出された光景に桜井は驚愕した。其処には手枷と足枷をはめられた鬼灯の姿があったからだ。躰は痩せこけて、艶やかだった琥珀色の髪は真っ白になって腰辺りまで伸びており、こうべを垂れてぶつぶつと何かを呟いている。生きているのか死んでいるのか分からない状態だ。桜井は鬼灯の傍に駆け寄った。呼吸が浅く、意識が朦朧としている。キーリングの中から拘束具の鍵を即座に見つけ拘束を解くと鬼灯は力なく床に倒れこんだ。桜井は骨と皮だけになった鬼灯を抱きしめ、
「鬼灯くん、助けに来たよ。私のことが分かるかい?」
と囁いた。鬼灯は顔を上げ、やつれて落ち窪んだ瞳で桜井の方を見た。
「副院長先生……来てくれた……嬉しい」
と言って鬼灯は微笑んだ。
「よもぎ医院……おと……さん」
「ああ、『よもぎ医院』も院長先生も大忙しだ」
桜井の瞳から涙が溢れた。刹那、背後から野太い声が聴こえてきた。
「貴様! 俺の店で勝手に何をしている? エミリアを縛り付け、見張り番の男を伸したのは貴様か?」
桜井は、桜井に加担したエミリア少年に危害が及ばないように、接客の最中に客に縛り付けられ、クレマチスの居場所を吐かないと殺すと脅された、ということで話を合わせていたのだ。
「ああ、私だよ。あの子どもが頑としてクレマチスの居場所を吐かないんで、少々手荒な真似をさせてもらいましたよ。そこの大男は、邪魔だったんで少し眠って貰っただけだよ。殺しちゃいない」
「何者だか知らないが、俺の店を荒らしたら生きて帰すわけにはいかないな。執事から、クレマチス目当てで来た客だと聞いた。相当、クレマチスにご執心のようだな。この変態野郎! 特別サービスだ。ふたりまとめて地獄に送ってやるよ」
そう言って、店主らしき大男はベルトに装着したホルスターから拳銃を取り出し銃口を桜井と鬼灯に向けた。
「地獄に堕ちるのはお前の方だと思うがな」
桜井は不敵な笑みを浮かべた。それと同時に店主の手が血塗れになった。店主は唖然とした。
「国家警察だ! 弟切! 千時丸帝国の風紀を著しく乱した罪で逮捕する!」
弟切という店主はあっという間に国家警察部隊に羽交い絞めにされ、しょっ引かれて行った。
「鬼灯くん、もう悪い奴は居なくなった。君は自由になったんだよ。今からだって遅くない。君のお父さんのような立派な医者になろう」
桜井は鬼灯の髪を優しく撫でながら言った。
「そっか……僕、頑張って……立派な医者になる……」
鬼灯の心音が止まった。鬼灯は桜井の腕に抱かれて幸せそうに微笑んで逝った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
霊和怪異譚 野花と野薔薇[改稿前]
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
本作は改稿前/改稿後の複数バージョンが存在します
掲載媒体ごとに内容が異なる場合があります。
改稿後小説作品はカイタとネオページで見られます
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる