命売りの少年

喜島 塔

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 エミリア少年に地下室への行き方と地下室の間取り、鬼灯が監禁されている折檻部屋の場所を訊きだした桜井は何とか地下室へと辿り着いた。九賀野研究所といい、悪事と地下室というのは相性が良いのだな、と桜井は思った。地上の部屋も相当にきな臭かったが、地下室のきな臭さはそれの比ではなかった。エミリア少年の話によると、色子たちは地下での生活を強いられているとのことだ。こんな薄暗く黴臭い場所に閉じ込められていたら、いつ気が触れてもおかしくないだろうと桜井は彼らのことを不憫に思った。
階段に隠れるように桜井は地下室の間取りなどを確認した。エミリア少年が言った通り、がたいが良い男が見張り番としてうろうろしていた。間取りは二階の仕事部屋とほぼ同じで通路を挟んで両側に八部屋ずつ木製のドア付きの個室が並んでおり、一番奥の部屋だけが座敷牢のようになっていた。その部屋が折檻部屋だという。見張り番の男はやる気がないらしく酒をちびちび飲みながら欠伸をしていた。桜井は忍び足で男の背後に回り頸椎に手刀を一撃入れた。男は気を失って倒れた。桜井は部屋で客の指名を待っている色子たちに気付かれないよう静かな足取りで一番奥の部屋へと辿り着いた。桜井は見張り番の男がズボンのポケットに入れていたキーリングの中から牢の鍵穴と一致する鍵を使い内部に侵入した。そこは洞窟のように真っ暗でじめじめとしていた。室内にはすえた臭いが充満していて思わず桜井は鼻を覆った。人がいる気配がまったく感じられない。本当に此処に鬼灯くんは居るのだろうかと桜井は不安になった。暗順応してきた桜井の視界に朧げに映し出された光景に桜井は驚愕した。其処には手枷と足枷をはめられた鬼灯の姿があったからだ。躰は痩せこけて、艶やかだった琥珀色の髪は真っ白になって腰辺りまで伸びており、こうべを垂れてぶつぶつと何かを呟いている。生きているのか死んでいるのか分からない状態だ。桜井は鬼灯の傍に駆け寄った。呼吸が浅く、意識が朦朧としている。キーリングの中から拘束具の鍵を即座に見つけ拘束を解くと鬼灯は力なく床に倒れこんだ。桜井は骨と皮だけになった鬼灯を抱きしめ、
「鬼灯くん、助けに来たよ。私のことが分かるかい?」
 と囁いた。鬼灯は顔を上げ、やつれて落ち窪んだ瞳で桜井の方を見た。
「副院長先生……来てくれた……嬉しい」
 と言って鬼灯は微笑んだ。
「よもぎ医院……おと……さん」
「ああ、『よもぎ医院』も院長先生も大忙しだ」
 桜井の瞳から涙が溢れた。刹那、背後から野太い声が聴こえてきた。
「貴様! 俺の店で勝手に何をしている? エミリアを縛り付け、見張り番の男を伸したのは貴様か?」

 桜井は、桜井に加担したエミリア少年に危害が及ばないように、接客の最中に客に縛り付けられ、クレマチスの居場所を吐かないと殺すと脅された、ということで話を合わせていたのだ。

「ああ、私だよ。あの子どもが頑としてクレマチスの居場所を吐かないんで、少々手荒な真似をさせてもらいましたよ。そこの大男は、邪魔だったんで少し眠って貰っただけだよ。殺しちゃいない」
「何者だか知らないが、俺の店を荒らしたら生きて帰すわけにはいかないな。執事から、クレマチス目当てで来た客だと聞いた。相当、クレマチスにご執心のようだな。この変態野郎! 特別サービスだ。ふたりまとめて地獄に送ってやるよ」

 そう言って、店主らしき大男はベルトに装着したホルスターから拳銃を取り出し銃口を桜井と鬼灯に向けた。

「地獄に堕ちるのはお前の方だと思うがな」

 桜井は不敵な笑みを浮かべた。それと同時に店主の手が血塗れになった。店主は唖然とした。

「国家警察だ! 弟切おとぎり! 千時丸帝国の風紀を著しく乱した罪で逮捕する!」

 弟切という店主はあっという間に国家警察部隊に羽交い絞めにされ、しょっ引かれて行った。

「鬼灯くん、もう悪い奴は居なくなった。君は自由になったんだよ。今からだって遅くない。君のお父さんのような立派な医者になろう」

 桜井は鬼灯の髪を優しく撫でながら言った。

「そっか……僕、頑張って……立派な医者になる……」

 鬼灯の心音が止まった。鬼灯は桜井の腕に抱かれて幸せそうに微笑んで逝った。
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