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平和を愛する千時丸桂樹 様は、一日でも早く、血で血を洗う戦争を終わらせるために、何度も、十文字国王に和平交渉を申請するが却下され、戦争は長期化していた。
千時丸帝国と十文字国は、元々はひとつの国であったと言われている。故に両国の民衆は共通の遺伝子特徴を持っており、見た目でどちらの国の民であるかを見極めることは難しい。それに加え、十文字国は完全な独立国家であり、千時丸帝国も千時丸藤樹様が初代皇帝として君臨するまでは夜警国家であり他国と友好関係を持つことを禁じていたので、異なる人種同志が結婚することは稀であるから、ますます、見分けがつかない。
このことが、此度の両国間の戦争を長期化させている要因のひとつとなっている。十文字国は完全なる独立国家であるため、いつ外敵に攻撃されても撃退できるように、彼らの祖先である『暁烏』の文献を元に、戦闘、隠密、奇術の訓練方法を学び、それを時代に合わせて進化させている。個々人の戦闘能力が脅威であることは言うまでもないが、特に厄介なのが隠密能力の高さである。戦闘部隊に紛れて千時丸帝国領土に侵入し、何食わぬ顔をして、遊女やら商人やら農民に扮して情報収集をして、戦闘部隊に戻り周知する。見た目が同じであるから、敵国のスパイであることを見極めることが困難で、庶民だけでなく要人も欺かれ、重要な軍事施設や、武器製造工場などが破壊され、千時丸帝国の戦局は困難を極めていった。
*
牡丹の元に直理から手紙が届いたのは、開戦から約三年後の春、千時丸帝国の敗戦色が強まる最中のことだった。十文字国と隣接している東区全般は戦火による被害が甚大で空襲により家や家族を亡くした人々がこの地に疎開して来たため、一百野診療所にも、怪我人や病人が雪崩れ込んできたため、牡丹は天手古舞していた。臨時で雇い入れた障害持ちの医師に少しだけ持ち場を離れることを伝え、牡丹は、厠の個室で手紙の封を切った。
***
親愛なるお父さん
こういったご時世ですので、時候の挨拶などは割愛させて頂くこと、どうかご容赦ください。
早いもので開戦から約三年もの年月が過ぎました。依託性としての訓練も無事終え母校を卒業した僕は、見習い士官としての訓練後、軍医学校へ入学することになります。鷹山夜一君と、一日も早く、軍医として戦地に赴き一人でも多くの人の命を救おうと誓い合いました。
十文字国軍は、我が国の東区の大半を制圧し、確実に帝都に近付いております。こうしている間にも、たくさんの命が理不尽に奪われていると思うと胸が張り裂けそうになります。
三年前の冬に会って以来、里帰りができずに申し訳ありません。国内では深刻な医師不足が叫ばれておりますから、お父さんも多忙を極めているのではないでしょうか? 手伝うことができず本当に心苦しく思っております……などと言うと、半人前のお前の手を借りるほど私は落ちぶれていないなどと、お叱りを受けてしまいそうですが。戦争が終わったら駆け付けます。お父さんから見れば、僕などまだまだひよっこかも知れませんが、少しは役に立てると思います。一緒に『一百野診療所』を盛り上げていきましょう。どうか、ご自愛ください。
追伸:お父さんの漬物が恋しいです。
一百野直理 より
***
「馬鹿を言え……私には、お前が必要なのだ……どうか、どうか、生きて帰ってきてくれ……漬物など、いくらでも食わせてやるから……」
そう独り言ちながら、牡丹は声を詰まらせた。
千時丸帝国と十文字国は、元々はひとつの国であったと言われている。故に両国の民衆は共通の遺伝子特徴を持っており、見た目でどちらの国の民であるかを見極めることは難しい。それに加え、十文字国は完全な独立国家であり、千時丸帝国も千時丸藤樹様が初代皇帝として君臨するまでは夜警国家であり他国と友好関係を持つことを禁じていたので、異なる人種同志が結婚することは稀であるから、ますます、見分けがつかない。
このことが、此度の両国間の戦争を長期化させている要因のひとつとなっている。十文字国は完全なる独立国家であるため、いつ外敵に攻撃されても撃退できるように、彼らの祖先である『暁烏』の文献を元に、戦闘、隠密、奇術の訓練方法を学び、それを時代に合わせて進化させている。個々人の戦闘能力が脅威であることは言うまでもないが、特に厄介なのが隠密能力の高さである。戦闘部隊に紛れて千時丸帝国領土に侵入し、何食わぬ顔をして、遊女やら商人やら農民に扮して情報収集をして、戦闘部隊に戻り周知する。見た目が同じであるから、敵国のスパイであることを見極めることが困難で、庶民だけでなく要人も欺かれ、重要な軍事施設や、武器製造工場などが破壊され、千時丸帝国の戦局は困難を極めていった。
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牡丹の元に直理から手紙が届いたのは、開戦から約三年後の春、千時丸帝国の敗戦色が強まる最中のことだった。十文字国と隣接している東区全般は戦火による被害が甚大で空襲により家や家族を亡くした人々がこの地に疎開して来たため、一百野診療所にも、怪我人や病人が雪崩れ込んできたため、牡丹は天手古舞していた。臨時で雇い入れた障害持ちの医師に少しだけ持ち場を離れることを伝え、牡丹は、厠の個室で手紙の封を切った。
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親愛なるお父さん
こういったご時世ですので、時候の挨拶などは割愛させて頂くこと、どうかご容赦ください。
早いもので開戦から約三年もの年月が過ぎました。依託性としての訓練も無事終え母校を卒業した僕は、見習い士官としての訓練後、軍医学校へ入学することになります。鷹山夜一君と、一日も早く、軍医として戦地に赴き一人でも多くの人の命を救おうと誓い合いました。
十文字国軍は、我が国の東区の大半を制圧し、確実に帝都に近付いております。こうしている間にも、たくさんの命が理不尽に奪われていると思うと胸が張り裂けそうになります。
三年前の冬に会って以来、里帰りができずに申し訳ありません。国内では深刻な医師不足が叫ばれておりますから、お父さんも多忙を極めているのではないでしょうか? 手伝うことができず本当に心苦しく思っております……などと言うと、半人前のお前の手を借りるほど私は落ちぶれていないなどと、お叱りを受けてしまいそうですが。戦争が終わったら駆け付けます。お父さんから見れば、僕などまだまだひよっこかも知れませんが、少しは役に立てると思います。一緒に『一百野診療所』を盛り上げていきましょう。どうか、ご自愛ください。
追伸:お父さんの漬物が恋しいです。
一百野直理 より
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「馬鹿を言え……私には、お前が必要なのだ……どうか、どうか、生きて帰ってきてくれ……漬物など、いくらでも食わせてやるから……」
そう独り言ちながら、牡丹は声を詰まらせた。
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