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中編
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親友や周りの友人に好きバレしていた驚愕の事実から早数週間。未だ渦中の人である村井に確認が取れていない。
何度も言うが、相手の気持ちを知ることより、恥ずかしい思いをしたくないという私のエゴのせいだ。考えてみた欲しい。バレバレだけど、今まで一生懸命好意を隠そうと頑張っていた人が相手に「気付いてた?」なんて確認を取る姿を。さぞ滑稽に映るだろう。
気付いてるに決まってることを聞かれたら呆れられるかもしれないし、馬鹿にされるかもしれない。彼が他人の恋愛感情に鈍感であることを願いたいが、どんな人とも簡単に打ち解けられる人が空気読めないなんてことはあり得ない。恋愛的意味合いを察することができなくても、特別な感情を寄せていることには気が付いているだろう。
3年に上がるまでに決着を付けたいが、卒業前後に告白して逃げたい気持ちもある。さあ、どうしたものか。
帰宅後早々に宿題を終わらせ、夕飯や風呂もサッサと済ませて後は寝るだけの状態になり、姿勢を正してデスクトップPCの電源を入れる。調べ物は基本スマホで十分だが、真剣に取り掛かりたい時は机に向かってパソコンで検索する。
勢いよく回転していたファンが静かになったところで検索エンジンを開き、ここ数週間思い詰めてることを入力していく。手が震えてタイプミスがかなり多いが、なんとか検索欄にキーワードを打ち終える。検索しているという事実が照れ臭い中々エンターキーを押せずにいたが、決心してターン!と勢いよく押す。
ええい、女は度胸よ。「好きバレ 可能性 告白」に関する記事が溢れるくらい映し出され、中には某知恵袋の質問が散見される。同志がいるのは非常にありがたい。色々な意見を読み込み、参考になりそうな事例を探していく。
恋する女子学生達のピュアな悩みに注意深く目を通していると、とある文章に目を奪われた。
「好きバレした相手に告白したら『お前に興味ないから知らないフリしてた』と呆れられ、気まずくなってしまいました。告白しなければ良かったと思いました。」
そうか。振られたらもう、今まで通りに会話することができなくなる。お互い恋愛感情を必要以上に意識して気まずくなるし、眼中にない相手から振った後も好意を寄せられても気分が悪くなるだろう。想像したくない未来に胸がズキズキと締め付けられる。現実逃避するためにマウスをスクロールし、別の投稿文を表示する。「言わない方が良かった。」「言ってよかった。これで諦められる。」次から次へとネガティブな投稿がディスプレイに映し出される。勿論、告白が上手くいったという投稿もあるが、どんよりした気持ちでは、幸せな文章が頭に入ってこない。悪いこと、最悪の事態ばかり想像し、成功体験がフィクションに見えてくる。
私が今しようとしてることって身勝手なのかな。村井のことを傷付けることになるのかな。
……それだけは嫌だな。
昨日調べたことが頭の中をぐるぐる回りながら、授業を受ける。お昼前の4時間目ということもあり、生徒だけでなく、先生もやや気だるけだ。前回の振り返りを長々と行ってノートに書く内容もないので、少々手持ち無沙汰だ。
教科書をパラパラめくっていると、青色と黄色の枠に縁取られた手のひらサイズのメモ用紙がハラリとページの間から出てきた。私の買わないデザインだったので訝しげに見ると、以前村井に貰ったメモ用紙であることに気付いた。確かテスト範囲を控えておくための付箋を使い切ってしまった時に分けてくれた分だ。
憎からず想っている相手からのプレゼントだ。……少なくとも私にとってはプレゼントだ。脳内で激しくカーニバルが開催されるくらい舞い上がってしまうのも無理はない。
顔を上げて先生の様子を見ても、解説は暫く終わりそうにない。周りを目線だけで見回しても、寝るなりこっそり本を読むなり、自由気ままな様子だ。そっとシャーペンを持ち上げ、小さな宝物にゆっくりと線を走らせていく。
……このメモをくれた時の村井、揶揄う時のニヤけた顔じゃなくて、優しさの溢れるホワホワとした表情だったな。あどけなさに驚いて、メモを受け取る手が驚いてビクッとした記憶がある。バレてたかな……?
休み時間に図書館で小説を探していた時にバッタリ遭遇した時も、普段見ない表情をしてたな。私は電車の暇つぶしによくミステリー小説を読むが、村井も同じくミステリーが好きだとあの時初めて知った。好きなシリーズについて興奮を隠さず魅力をどんどん語る表情は非常に楽しそうで、聞いているこっちまで楽しい気分になったことを思い出した。
珍しい表情と言えば2年次の体育祭も捨てがたい。私は勉強に関しては得意な方だが、運動はてんでダメだ。選択できる種目の中から一番体力を使わない競技を選択するよう心掛けているが、全生徒対象の200m走から逃れることは叶わない。体育祭当日、私はレース開始直後に顔面を地面に撃墜するほど派手にこけ、膝を擦りむいたままゴールに向かう羽目になった。保健室の方向へ足を引きずっていた時、「三島!」と息を切らしながら村井がこちらへ走ってきた。クラスの待機場所からわざわざ駆けつけてくれ、私の肩に腕を回して支えてくれた。村井の顔がすぐそこにあるという事実に全てが持っていかれ、膝の痛みなんて飛んで行ってしまった。
ダッシュしていた時の切羽詰まった顔と、顔が近くにある照れくささを隠すようなムッとした赤い表情は、今でも鮮明に覚えている。
「このプリント後ろに回してー。」
先生の声で我に返る。授業の残り時間は演習問題を解いて提出するだけらしい。一旦勉強モードに入るためにシャーペンを置き、メモ用紙をしまおうとした。したが、待って。私はメモに何を描いている。
村井の好きな表情について考え込んでいたら、手元には黒髪短髪で釣り目の少年のデフォルメイラストが。特徴的に村井らしき男子のイラストが紙面のあちこちに散らばっていた。どうやら思い出に浸りながら無意識的に好きな表情の絵を描いていたらしい。恋の力って何でもありだ。1m以内に当事者がいることに冷や汗が止まらない。一旦落ち着こう私。
前の席からプリントが回ってきたところで、手に取るためにメモを机の上に置く。B4サイズの藁半紙を一枚取り、後ろに回す。「ありがと」とわざわざお礼を言う彼にいえいえ~と返し前を向くと、ふと違和感に気付く。
ーーない。メモがない。
机の上にある教科書や筆箱を退けても、筆箱や机の中、周囲の床を確認しても、想いの詰まった紙切れは見つからない。
ーーヤバい!!どうしよう!!ない!!なんで!?
見られてはマズイと思った傍から紛失した己の迂闊さに頭を抱えたくなる。男子のイラストだけなら誰かに見られても「アニメキャラの落書きかな」とスルーされるだろう。しかし、先程の落書きには重大な問題がある。
男子のイラストの隣にハートマークが入っているのだ。思春期の学生が発見したら恋愛関係のイラストだと一瞬で気付くかもしれない。絵心はそこそこある方なので、事情を知っている友人に見つかりでもしたら暫く弄られるだろう。書いた用紙が村井から貰った物だと知られたら尚更だ。
全身の血が引き、天にもすがる思いで可能性が低い制服のポケットも漁るが、期待する結果は得られない。周りがプリントに黙々と着手している中、私だけが慌ただしく動く。
後ろから何かがコロンと机に向かって投げられる。鞄の中も探ろうと身を屈めていたところなので、投げられた物が顔の近くにあってよく見える。
青と黄の線が入った紙が何度か折られて小さくなっている。元の大きさは恐らく手のひらサイズだろう。折られた紙の隙間からキャライラストが覗く。
ーー私が探していたものだ。今後ろから飛んできたよね……?後ろ……?待って。つまり。
村井に見られた。
先程プリントを後ろに回す時に、静電気などで藁半紙にメモがくっついてしまったのだろう。ショックで暫くフリーズしたが、机に置いたそのまま返すならこうして紙を折る必要がないことに気が付く。なにか書き加えたりしたのだろうか。
恐る恐るメモを広げる。元々描いてあった私の絵に加え、見覚えのない文字の羅列が視界に入る。
【これ、好きなキャラ?】
バレていなかったー!よし、村井が恋愛に鈍感タイプで助かった!天は私に味方した!
男子のイラストの下に矢印マークと共に文章が追加されていたのだ。他にも書かれていないか隅々まで視線を巡らすと、もう一枚同じ用紙が一緒に折り込まれていることに気付く。返信用だろうか。相変わらず丁寧でピンチにも関わらず笑みが零れる。こちらは完全に空白で、文字だけなら数回分やりとりできそうな大きさだ。一言でも多く会話できるよう、何も書かれていない落書きの裏面を使うことにした。
さて、なんて書こう。「あなたです」とか書いたらハートマークについて聞かれそうだし、そんなことされたら顔から火が噴き出る程耐え難い。いやでも、好きバレしてるか確認する絶好の機会では……?素直に返信することも考えたが、授業中に告白はしたくない。でもせっかくのチャンス。ここで上手く村井の好きなタイプとか……あわよくば好きな人について聞き出せないだろうか。
何故か心に余裕が生まれ、上手い言い回しを考え始める。色々考えた結果、まずはシンプルに【そうだよ。こういう子がタイプ】と返事をする。
様々な思惑を胸に、メモを投げられた時と同じ形に折り戻す。これから聞き出そうとすることを想像するといつもの表情を作れそうにないので、前を向いたまま後ろにメモを回す。
メモが私の手の中からそっと離れ、カサカサと紙を開く音が聞こえる。問題を解きながら返事を待つと、先程と同様に後ろからメモ用紙が投げられる。
【学ラン着てるから男子高校生?主人公とか?】
【高校生。主人公が恋をしてる相手。主人公を揶揄うことが多いけど、ふとしたギャップが良い】
【主人公は一緒に描かないの?】
【この子のキュンと来た表情を描きたい】
正直に描きすぎただろうか。
【この男子に恋してる?】
【まさか、二次元だし。村井はどういう子にキュンと来る?】
この質問を最後に、返信が途絶える。やはり急すぎたか……?もやもやが止まらず、後ろの気配に耳を傾けていると、ペンを机に置く音が聞こえ、メモがこちらに飛んでくる。
返信用ではなく、私が落書きしたメモだけが返ってきた。
【俺はこういう子】
文字の上に小さくイラストが描かれていた。セーラー服を着た女子で肩までのポニーテールに斜めに流された少し巻きのかかった前髪。流された前髪とは反対側には緑色の線、恐らくヘアピンが描かれていた。
私が描いた男子のハートマークの反対側に描かれており、ハートマークの中が赤く塗られている。
……これは現実だろうか。
このイラストの女の子は私と全く同じ格好をしている。女子の身長は男子の眉あたりで、私達と同様の身長差だ。
衝撃のあまり後ろを振り向こうとした瞬間にチャイムがなり、号令係が起立と声をあげる。
周りがざわつき始めたところで、内容について色々聞こうと振り向いたら、頬を赤く染めた村井と目が合った。顔に熱が集まり、問いたかった質問が全て吹き飛んだ。
「昼飯、中庭で食べない……?」
あまりの真剣な表情に、「うん」と答えるしかなかった。
何度も言うが、相手の気持ちを知ることより、恥ずかしい思いをしたくないという私のエゴのせいだ。考えてみた欲しい。バレバレだけど、今まで一生懸命好意を隠そうと頑張っていた人が相手に「気付いてた?」なんて確認を取る姿を。さぞ滑稽に映るだろう。
気付いてるに決まってることを聞かれたら呆れられるかもしれないし、馬鹿にされるかもしれない。彼が他人の恋愛感情に鈍感であることを願いたいが、どんな人とも簡単に打ち解けられる人が空気読めないなんてことはあり得ない。恋愛的意味合いを察することができなくても、特別な感情を寄せていることには気が付いているだろう。
3年に上がるまでに決着を付けたいが、卒業前後に告白して逃げたい気持ちもある。さあ、どうしたものか。
帰宅後早々に宿題を終わらせ、夕飯や風呂もサッサと済ませて後は寝るだけの状態になり、姿勢を正してデスクトップPCの電源を入れる。調べ物は基本スマホで十分だが、真剣に取り掛かりたい時は机に向かってパソコンで検索する。
勢いよく回転していたファンが静かになったところで検索エンジンを開き、ここ数週間思い詰めてることを入力していく。手が震えてタイプミスがかなり多いが、なんとか検索欄にキーワードを打ち終える。検索しているという事実が照れ臭い中々エンターキーを押せずにいたが、決心してターン!と勢いよく押す。
ええい、女は度胸よ。「好きバレ 可能性 告白」に関する記事が溢れるくらい映し出され、中には某知恵袋の質問が散見される。同志がいるのは非常にありがたい。色々な意見を読み込み、参考になりそうな事例を探していく。
恋する女子学生達のピュアな悩みに注意深く目を通していると、とある文章に目を奪われた。
「好きバレした相手に告白したら『お前に興味ないから知らないフリしてた』と呆れられ、気まずくなってしまいました。告白しなければ良かったと思いました。」
そうか。振られたらもう、今まで通りに会話することができなくなる。お互い恋愛感情を必要以上に意識して気まずくなるし、眼中にない相手から振った後も好意を寄せられても気分が悪くなるだろう。想像したくない未来に胸がズキズキと締め付けられる。現実逃避するためにマウスをスクロールし、別の投稿文を表示する。「言わない方が良かった。」「言ってよかった。これで諦められる。」次から次へとネガティブな投稿がディスプレイに映し出される。勿論、告白が上手くいったという投稿もあるが、どんよりした気持ちでは、幸せな文章が頭に入ってこない。悪いこと、最悪の事態ばかり想像し、成功体験がフィクションに見えてくる。
私が今しようとしてることって身勝手なのかな。村井のことを傷付けることになるのかな。
……それだけは嫌だな。
昨日調べたことが頭の中をぐるぐる回りながら、授業を受ける。お昼前の4時間目ということもあり、生徒だけでなく、先生もやや気だるけだ。前回の振り返りを長々と行ってノートに書く内容もないので、少々手持ち無沙汰だ。
教科書をパラパラめくっていると、青色と黄色の枠に縁取られた手のひらサイズのメモ用紙がハラリとページの間から出てきた。私の買わないデザインだったので訝しげに見ると、以前村井に貰ったメモ用紙であることに気付いた。確かテスト範囲を控えておくための付箋を使い切ってしまった時に分けてくれた分だ。
憎からず想っている相手からのプレゼントだ。……少なくとも私にとってはプレゼントだ。脳内で激しくカーニバルが開催されるくらい舞い上がってしまうのも無理はない。
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……このメモをくれた時の村井、揶揄う時のニヤけた顔じゃなくて、優しさの溢れるホワホワとした表情だったな。あどけなさに驚いて、メモを受け取る手が驚いてビクッとした記憶がある。バレてたかな……?
休み時間に図書館で小説を探していた時にバッタリ遭遇した時も、普段見ない表情をしてたな。私は電車の暇つぶしによくミステリー小説を読むが、村井も同じくミステリーが好きだとあの時初めて知った。好きなシリーズについて興奮を隠さず魅力をどんどん語る表情は非常に楽しそうで、聞いているこっちまで楽しい気分になったことを思い出した。
珍しい表情と言えば2年次の体育祭も捨てがたい。私は勉強に関しては得意な方だが、運動はてんでダメだ。選択できる種目の中から一番体力を使わない競技を選択するよう心掛けているが、全生徒対象の200m走から逃れることは叶わない。体育祭当日、私はレース開始直後に顔面を地面に撃墜するほど派手にこけ、膝を擦りむいたままゴールに向かう羽目になった。保健室の方向へ足を引きずっていた時、「三島!」と息を切らしながら村井がこちらへ走ってきた。クラスの待機場所からわざわざ駆けつけてくれ、私の肩に腕を回して支えてくれた。村井の顔がすぐそこにあるという事実に全てが持っていかれ、膝の痛みなんて飛んで行ってしまった。
ダッシュしていた時の切羽詰まった顔と、顔が近くにある照れくささを隠すようなムッとした赤い表情は、今でも鮮明に覚えている。
「このプリント後ろに回してー。」
先生の声で我に返る。授業の残り時間は演習問題を解いて提出するだけらしい。一旦勉強モードに入るためにシャーペンを置き、メモ用紙をしまおうとした。したが、待って。私はメモに何を描いている。
村井の好きな表情について考え込んでいたら、手元には黒髪短髪で釣り目の少年のデフォルメイラストが。特徴的に村井らしき男子のイラストが紙面のあちこちに散らばっていた。どうやら思い出に浸りながら無意識的に好きな表情の絵を描いていたらしい。恋の力って何でもありだ。1m以内に当事者がいることに冷や汗が止まらない。一旦落ち着こう私。
前の席からプリントが回ってきたところで、手に取るためにメモを机の上に置く。B4サイズの藁半紙を一枚取り、後ろに回す。「ありがと」とわざわざお礼を言う彼にいえいえ~と返し前を向くと、ふと違和感に気付く。
ーーない。メモがない。
机の上にある教科書や筆箱を退けても、筆箱や机の中、周囲の床を確認しても、想いの詰まった紙切れは見つからない。
ーーヤバい!!どうしよう!!ない!!なんで!?
見られてはマズイと思った傍から紛失した己の迂闊さに頭を抱えたくなる。男子のイラストだけなら誰かに見られても「アニメキャラの落書きかな」とスルーされるだろう。しかし、先程の落書きには重大な問題がある。
男子のイラストの隣にハートマークが入っているのだ。思春期の学生が発見したら恋愛関係のイラストだと一瞬で気付くかもしれない。絵心はそこそこある方なので、事情を知っている友人に見つかりでもしたら暫く弄られるだろう。書いた用紙が村井から貰った物だと知られたら尚更だ。
全身の血が引き、天にもすがる思いで可能性が低い制服のポケットも漁るが、期待する結果は得られない。周りがプリントに黙々と着手している中、私だけが慌ただしく動く。
後ろから何かがコロンと机に向かって投げられる。鞄の中も探ろうと身を屈めていたところなので、投げられた物が顔の近くにあってよく見える。
青と黄の線が入った紙が何度か折られて小さくなっている。元の大きさは恐らく手のひらサイズだろう。折られた紙の隙間からキャライラストが覗く。
ーー私が探していたものだ。今後ろから飛んできたよね……?後ろ……?待って。つまり。
村井に見られた。
先程プリントを後ろに回す時に、静電気などで藁半紙にメモがくっついてしまったのだろう。ショックで暫くフリーズしたが、机に置いたそのまま返すならこうして紙を折る必要がないことに気が付く。なにか書き加えたりしたのだろうか。
恐る恐るメモを広げる。元々描いてあった私の絵に加え、見覚えのない文字の羅列が視界に入る。
【これ、好きなキャラ?】
バレていなかったー!よし、村井が恋愛に鈍感タイプで助かった!天は私に味方した!
男子のイラストの下に矢印マークと共に文章が追加されていたのだ。他にも書かれていないか隅々まで視線を巡らすと、もう一枚同じ用紙が一緒に折り込まれていることに気付く。返信用だろうか。相変わらず丁寧でピンチにも関わらず笑みが零れる。こちらは完全に空白で、文字だけなら数回分やりとりできそうな大きさだ。一言でも多く会話できるよう、何も書かれていない落書きの裏面を使うことにした。
さて、なんて書こう。「あなたです」とか書いたらハートマークについて聞かれそうだし、そんなことされたら顔から火が噴き出る程耐え難い。いやでも、好きバレしてるか確認する絶好の機会では……?素直に返信することも考えたが、授業中に告白はしたくない。でもせっかくのチャンス。ここで上手く村井の好きなタイプとか……あわよくば好きな人について聞き出せないだろうか。
何故か心に余裕が生まれ、上手い言い回しを考え始める。色々考えた結果、まずはシンプルに【そうだよ。こういう子がタイプ】と返事をする。
様々な思惑を胸に、メモを投げられた時と同じ形に折り戻す。これから聞き出そうとすることを想像するといつもの表情を作れそうにないので、前を向いたまま後ろにメモを回す。
メモが私の手の中からそっと離れ、カサカサと紙を開く音が聞こえる。問題を解きながら返事を待つと、先程と同様に後ろからメモ用紙が投げられる。
【学ラン着てるから男子高校生?主人公とか?】
【高校生。主人公が恋をしてる相手。主人公を揶揄うことが多いけど、ふとしたギャップが良い】
【主人公は一緒に描かないの?】
【この子のキュンと来た表情を描きたい】
正直に描きすぎただろうか。
【この男子に恋してる?】
【まさか、二次元だし。村井はどういう子にキュンと来る?】
この質問を最後に、返信が途絶える。やはり急すぎたか……?もやもやが止まらず、後ろの気配に耳を傾けていると、ペンを机に置く音が聞こえ、メモがこちらに飛んでくる。
返信用ではなく、私が落書きしたメモだけが返ってきた。
【俺はこういう子】
文字の上に小さくイラストが描かれていた。セーラー服を着た女子で肩までのポニーテールに斜めに流された少し巻きのかかった前髪。流された前髪とは反対側には緑色の線、恐らくヘアピンが描かれていた。
私が描いた男子のハートマークの反対側に描かれており、ハートマークの中が赤く塗られている。
……これは現実だろうか。
このイラストの女の子は私と全く同じ格好をしている。女子の身長は男子の眉あたりで、私達と同様の身長差だ。
衝撃のあまり後ろを振り向こうとした瞬間にチャイムがなり、号令係が起立と声をあげる。
周りがざわつき始めたところで、内容について色々聞こうと振り向いたら、頬を赤く染めた村井と目が合った。顔に熱が集まり、問いたかった質問が全て吹き飛んだ。
「昼飯、中庭で食べない……?」
あまりの真剣な表情に、「うん」と答えるしかなかった。
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