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7. クエスト:手を繋いでみよう
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「今日は手を繋ぎましょう!」
「え?」
「戸惑ってても始まりませんよ!」
将軍が露骨に困惑した顔をする。この調子では、三年どころか十年経っても事は進まない。進まないとなれば、私のクエストも完了しない。完了しないとなれば、報酬がもらえない!
もちろん、昨日はふかふかのパンにトロトロの肉、甘いデザートを堪能し、暖かいベッドで眠った。最高だった。
でも、それとこれとは別問題である。
私は死ねない女。
そしてこの男は、触れた女を物理的に傷つける呪い持ち。
そんな我々に課されたクエスト内容が「SEXして克服しろ」というのは、もはや悪趣味な神のジョークでしかない。
とはいえ、いつまでも「やっぱ無理でした」で時間を潰すわけにもいかない。
私は腹を括った。
つまり、やることをやって、衣食住と報酬をがっつりもらって、とっととドロンする。
それが最善のシナリオであろう。もちろん、“致す”ことすらも堪能してからな。はっはっは。
……いや、笑わなきゃやってられないんだ。
こんなイカれたクエスト、冷静に考えてたら正気を失う。
「将軍、昨日はちゃんと私と見つめ合えましたよね?」
「見つめ合うのと触れ合うのじゃ、全然違うだろ。こんなクエストを依頼しておいて言うのも何だが……俺は、君を殺したくはないんだ」
「お気持ちは嬉しいです。でも、見つめ合うのは立派な接触です。むしろ上位互換。だって“視姦”ですよ?」
「視……なに?」
「視線で交わる。これは一種の精神的接触、つまりSEXです。指が触れるより先に、心が交わったわけですから」
「……俺は、すでに身体の接触以上のことを……?」
深く頷くしかない。演技でも。
「もちろんです!」
「……じゃあ、俺は昨日、屋敷の執事や兵士たちとも“そういう関係”に……?」
「はは、それは考えすぎですって。将軍はいつも真面目すぎですよ~、ははは……」
(やべ、笑顔が引きつった)
「で、今日はすぐに手を繋ぐのか?」
「いえいえ。段階を踏みましょう。まずは“慣れ”です。触れ合う前に、存在そのものに馴染んでもらいます」
「馴染む……?」
「はい。私から軽くボディタッチをしていきます。その中で、頃合いを見て手を握ります。将軍が“これはいけそうだ”と思ったら握り返してください。それで手を繋ぐはクリアです」
「なるほど……。だが、それは君にとって危険では?」
「危険かどうか判断できるのは私です。もし無理そうなら、ちゃんと引きます。だから将軍も、無理に応えようとしないでください。これは、二人で進めるクエストですから」
一拍おいて、将軍は静かにうなずいた。
「……その試練、受けて立とう」
⸻
まずは“慣れ”の第一歩として、将軍の屋敷を案内してもらうことにした。
意識を逸らしながら歩き回らせて、自然に接触のタイミングを狙う。
そう思っていた、はずだったのだが——
……これはどういうことだ?
将軍の様子が、微妙に“おかしい”。右手と右足が一緒に出る。そしてなぜか、さっき説明してくれた花の情報を、また繰り返す。
「これは“アーレント草”といって、乾燥させると咳に効くんだ」
「それ、さっきも……」
挙句の果てには——
「うわっ」
小さな石に足を取られ、盛大にずっこけた。
「……将軍!?」
地面に座り込んだペルクルナス将軍は、手のひらを見つめている。その姿は、世界の理不尽を一身に背負った哲学者のようで、少しだけ哀れだった。
私はしゃがみ込んで、彼と同じ目線になる。
「将軍、そんなに気負わなくていいんですよ」
「……気負ってるつもりは、なかったんだがな……」
「じゃあこう考えてみましょう。私はあなたの部下。もしくは友達。それならどうですか?」
彼は少しだけ目を見開き、それから、ゆっくり、柔らかく、笑った。
「部下、か。……それなら、いけそうな気がする」
その笑顔が、やけに眩しかった。……なにそれ、ズルい。ご自身の顔面偏差値の高さを理解していないのでは?私は心臓に電撃を喰らったかのような衝撃を受けた。
「そんなところで座ってたら、お尻冷えちゃいますよ?」
「やば、顔赤くなってないよね!?って思いながら、できる女部下風にサッと手を出した。自然な動作が功を評したのか、将軍はためらいなく、けれど優しい手つきで手を差し出し返した。
「……ああ」
そして、彼は私の手を借りて立ち上がった。
「ほら!今、手握れてます!!ねぇ、見てください!ちゃんと!ほら!」
思わず声を上げてしまう。嬉しい。
できるじゃないですか、やれば!
「やればできるんですよ将軍~!」
この調子ならもうクエスト達成だってすぐなのでは!そう思った、その時だった。
ビリビリビリッ!!
脳天からつま先まで、何かが駆け抜ける。目の前が一瞬、真っ白になった。
遠くで——将軍の声が聞こえる。
「ニア……!? おい、ニア!!」
がくり、と膝が落ちた。
ああ、これ、死んではないけど死にかけのやつ……!
「え?」
「戸惑ってても始まりませんよ!」
将軍が露骨に困惑した顔をする。この調子では、三年どころか十年経っても事は進まない。進まないとなれば、私のクエストも完了しない。完了しないとなれば、報酬がもらえない!
もちろん、昨日はふかふかのパンにトロトロの肉、甘いデザートを堪能し、暖かいベッドで眠った。最高だった。
でも、それとこれとは別問題である。
私は死ねない女。
そしてこの男は、触れた女を物理的に傷つける呪い持ち。
そんな我々に課されたクエスト内容が「SEXして克服しろ」というのは、もはや悪趣味な神のジョークでしかない。
とはいえ、いつまでも「やっぱ無理でした」で時間を潰すわけにもいかない。
私は腹を括った。
つまり、やることをやって、衣食住と報酬をがっつりもらって、とっととドロンする。
それが最善のシナリオであろう。もちろん、“致す”ことすらも堪能してからな。はっはっは。
……いや、笑わなきゃやってられないんだ。
こんなイカれたクエスト、冷静に考えてたら正気を失う。
「将軍、昨日はちゃんと私と見つめ合えましたよね?」
「見つめ合うのと触れ合うのじゃ、全然違うだろ。こんなクエストを依頼しておいて言うのも何だが……俺は、君を殺したくはないんだ」
「お気持ちは嬉しいです。でも、見つめ合うのは立派な接触です。むしろ上位互換。だって“視姦”ですよ?」
「視……なに?」
「視線で交わる。これは一種の精神的接触、つまりSEXです。指が触れるより先に、心が交わったわけですから」
「……俺は、すでに身体の接触以上のことを……?」
深く頷くしかない。演技でも。
「もちろんです!」
「……じゃあ、俺は昨日、屋敷の執事や兵士たちとも“そういう関係”に……?」
「はは、それは考えすぎですって。将軍はいつも真面目すぎですよ~、ははは……」
(やべ、笑顔が引きつった)
「で、今日はすぐに手を繋ぐのか?」
「いえいえ。段階を踏みましょう。まずは“慣れ”です。触れ合う前に、存在そのものに馴染んでもらいます」
「馴染む……?」
「はい。私から軽くボディタッチをしていきます。その中で、頃合いを見て手を握ります。将軍が“これはいけそうだ”と思ったら握り返してください。それで手を繋ぐはクリアです」
「なるほど……。だが、それは君にとって危険では?」
「危険かどうか判断できるのは私です。もし無理そうなら、ちゃんと引きます。だから将軍も、無理に応えようとしないでください。これは、二人で進めるクエストですから」
一拍おいて、将軍は静かにうなずいた。
「……その試練、受けて立とう」
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まずは“慣れ”の第一歩として、将軍の屋敷を案内してもらうことにした。
意識を逸らしながら歩き回らせて、自然に接触のタイミングを狙う。
そう思っていた、はずだったのだが——
……これはどういうことだ?
将軍の様子が、微妙に“おかしい”。右手と右足が一緒に出る。そしてなぜか、さっき説明してくれた花の情報を、また繰り返す。
「これは“アーレント草”といって、乾燥させると咳に効くんだ」
「それ、さっきも……」
挙句の果てには——
「うわっ」
小さな石に足を取られ、盛大にずっこけた。
「……将軍!?」
地面に座り込んだペルクルナス将軍は、手のひらを見つめている。その姿は、世界の理不尽を一身に背負った哲学者のようで、少しだけ哀れだった。
私はしゃがみ込んで、彼と同じ目線になる。
「将軍、そんなに気負わなくていいんですよ」
「……気負ってるつもりは、なかったんだがな……」
「じゃあこう考えてみましょう。私はあなたの部下。もしくは友達。それならどうですか?」
彼は少しだけ目を見開き、それから、ゆっくり、柔らかく、笑った。
「部下、か。……それなら、いけそうな気がする」
その笑顔が、やけに眩しかった。……なにそれ、ズルい。ご自身の顔面偏差値の高さを理解していないのでは?私は心臓に電撃を喰らったかのような衝撃を受けた。
「そんなところで座ってたら、お尻冷えちゃいますよ?」
「やば、顔赤くなってないよね!?って思いながら、できる女部下風にサッと手を出した。自然な動作が功を評したのか、将軍はためらいなく、けれど優しい手つきで手を差し出し返した。
「……ああ」
そして、彼は私の手を借りて立ち上がった。
「ほら!今、手握れてます!!ねぇ、見てください!ちゃんと!ほら!」
思わず声を上げてしまう。嬉しい。
できるじゃないですか、やれば!
「やればできるんですよ将軍~!」
この調子ならもうクエスト達成だってすぐなのでは!そう思った、その時だった。
ビリビリビリッ!!
脳天からつま先まで、何かが駆け抜ける。目の前が一瞬、真っ白になった。
遠くで——将軍の声が聞こえる。
「ニア……!? おい、ニア!!」
がくり、と膝が落ちた。
ああ、これ、死んではないけど死にかけのやつ……!
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