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6.クエスト:見つめ合ってみよう
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「ニア、すまない。これはどういう意味があるのだ?」
困ったように眉を下げ、視線をあっちこっちと泳がせるペルクナス将軍は、明らかに挙動不審だった。上ずった声で言葉を選んでいるのがまた面白い。
「ペルクナス将軍。貴方は今、私と性行為に至った場合、下半身を打ち込む前に雷が落ちる可能性があることを、どこまで理解されていますか?」
「女性がそんな言葉を口にするのは…良くないと思うが……まぁ、ニアの言う通りだ」
「では、手を繋ぐのは可能ですか?」
「手くらいなら、繋げる……!」
その「手くらいなら」って言葉に聞き覚えがある。そう、あれはシェイクハンドで私を感電死させたあの日だ。私は忘れていないぞ。というか、忘れられない。あの電撃で内臓がシャッフルされた感覚は一生ものだ。
「じゃあ、試してみましょう?それで死んだら、このクエストから私を外してくださいね」
「…………」
差し出した手から逃げるように、将軍はまた視線を逸らした。
「ほら!やっぱり自信ないんじゃないですか!私は死にたくないんです!変な虚勢張らないでください!」
「……すまない。君と触れ合うことを考えるだけで、どうしても緊張してしまうんだ……」
その言い訳に、私は少し苛立ちながらも息を吐いた。だが、彼の顔が妙に申し訳なさそうだったせいで、怒りは持続しない。顔面偏差値の暴力である。
「将軍は、私と“男女の関係”になることを強く意識しすぎて、それで緊張してしまってるんじゃないですか?」
「……ふむ」
「だからまずは、私のことを“ただの一人の人間”として見てもらいたいんです。触れ合いの前段階として、視覚的な慣れが必要です。つまり――」
「つまり?」
「見つめ合いましょう、1分間。これなら死なないですし」
「見つめ合う……それは……喋っても?」
「もちろんです。リラックスしながら、ですよ?」
「……リラックス……ね」
「では、始めます。いーち、にー、さーん――」
数え始めた瞬間だった。
ペルクナス将軍の体から、光が――いや、雷が弾け飛び、服が発火した。
「えっ、将軍!?燃えてます!?え、ちょっと、え!?」
確かに服は燃えている。なのに本人は熱そうにしていないどころか、むしろどこかうつろな顔で――
「燃えているから冷える心配はない」
「え、あ、まぁ……理屈としてはそうですけど……」
「……ぅっ……なんて俺は不甲斐ないんだ……」
その琥珀の瞳から、ポロリと涙が落ちた。発火して泣くイケメン。字面はギャグだが、本人は大真面目である。
「緊張しすぎると、体から雷が漏れ出てしまう。そして落雷対象がなければ、自分の服が燃えるんだ……」
あ、説明するんだ。いや説明されても全くわからん。だが将軍は大真面目な顔で泣いてるものだから、とりあえず私も神妙に「なるほど…」と呟いておいた。
「もしかして、それ、戦場では“怒りの炎を纏う伝説の将軍”として語られてるじゃ?」
「……違う。戦場では、緊張のあまり力をコントロールできなくなってるだけだ……そんな自分が、恥ずかしくてたまらない……」
その語りは、自分を責めるような、小さく掠れた声だった。まるで懺悔だ。
強いと讃えられる将軍も、ただの人間で。誰かに期待され、押しつぶされそうになりながら、日々をこなしている。
なんだか、自分の過去と重なって見えた。
「……将軍は、ダメじゃないです。緊張しながらも、ちゃんと成果を出してきたじゃないですか。それって凄いことですよ」
「……慰めのつもりか?」
「違います。結果を出せる人は、尊敬に値するんです」
ちょっと恥ずかしいことを口にしてしまったな、と思いながら目を逸らすと、将軍の視線がこちらに戻ってきた。
「……君は?」
「私?」
「君も、なにか……抱えているように見える」
少し迷ったけど、なんとなく口が勝手に動いていた。
「私、昔……嫌なことがあって、死んで逃げたことがあるんです。ギフトを使って、“死んで、生き返る”って逃げ方をして……」
ぽつぽつと語る。あの土の中の、苦しくて、でも笑えるような出来事を。
でも、話し終わって顔を上げると――
将軍の顔が、ドン引きしていた。
「それ……全然面白くない」
「えっ」
「始まりもオチも最低だ。……なにより、そんな思いをしてまで、何から逃げたんだ?」
「……家業を継ぐ継がないで揉めて、弟に押し付けたくて、死ねば自動的に――」
「ニア、お前……クズだな」
「いやでも!ちゃんと親には生きてますって伝えましたし!?今も年に……たまに……顔出してますし!ね!?」
視線が冷たい。ぐっさぐさ刺さる。……あの顔で言われると効く。
「でも、見てください!ほら、私たち1分以上見つめ合ってますよ!死んでませんし、将軍も発火してない!これは……進歩ですよ!」
「……本当だな」
その顔は、まだ少し涙の痕が残っていて、それでも、少し笑っていた。
困ったように眉を下げ、視線をあっちこっちと泳がせるペルクナス将軍は、明らかに挙動不審だった。上ずった声で言葉を選んでいるのがまた面白い。
「ペルクナス将軍。貴方は今、私と性行為に至った場合、下半身を打ち込む前に雷が落ちる可能性があることを、どこまで理解されていますか?」
「女性がそんな言葉を口にするのは…良くないと思うが……まぁ、ニアの言う通りだ」
「では、手を繋ぐのは可能ですか?」
「手くらいなら、繋げる……!」
その「手くらいなら」って言葉に聞き覚えがある。そう、あれはシェイクハンドで私を感電死させたあの日だ。私は忘れていないぞ。というか、忘れられない。あの電撃で内臓がシャッフルされた感覚は一生ものだ。
「じゃあ、試してみましょう?それで死んだら、このクエストから私を外してくださいね」
「…………」
差し出した手から逃げるように、将軍はまた視線を逸らした。
「ほら!やっぱり自信ないんじゃないですか!私は死にたくないんです!変な虚勢張らないでください!」
「……すまない。君と触れ合うことを考えるだけで、どうしても緊張してしまうんだ……」
その言い訳に、私は少し苛立ちながらも息を吐いた。だが、彼の顔が妙に申し訳なさそうだったせいで、怒りは持続しない。顔面偏差値の暴力である。
「将軍は、私と“男女の関係”になることを強く意識しすぎて、それで緊張してしまってるんじゃないですか?」
「……ふむ」
「だからまずは、私のことを“ただの一人の人間”として見てもらいたいんです。触れ合いの前段階として、視覚的な慣れが必要です。つまり――」
「つまり?」
「見つめ合いましょう、1分間。これなら死なないですし」
「見つめ合う……それは……喋っても?」
「もちろんです。リラックスしながら、ですよ?」
「……リラックス……ね」
「では、始めます。いーち、にー、さーん――」
数え始めた瞬間だった。
ペルクナス将軍の体から、光が――いや、雷が弾け飛び、服が発火した。
「えっ、将軍!?燃えてます!?え、ちょっと、え!?」
確かに服は燃えている。なのに本人は熱そうにしていないどころか、むしろどこかうつろな顔で――
「燃えているから冷える心配はない」
「え、あ、まぁ……理屈としてはそうですけど……」
「……ぅっ……なんて俺は不甲斐ないんだ……」
その琥珀の瞳から、ポロリと涙が落ちた。発火して泣くイケメン。字面はギャグだが、本人は大真面目である。
「緊張しすぎると、体から雷が漏れ出てしまう。そして落雷対象がなければ、自分の服が燃えるんだ……」
あ、説明するんだ。いや説明されても全くわからん。だが将軍は大真面目な顔で泣いてるものだから、とりあえず私も神妙に「なるほど…」と呟いておいた。
「もしかして、それ、戦場では“怒りの炎を纏う伝説の将軍”として語られてるじゃ?」
「……違う。戦場では、緊張のあまり力をコントロールできなくなってるだけだ……そんな自分が、恥ずかしくてたまらない……」
その語りは、自分を責めるような、小さく掠れた声だった。まるで懺悔だ。
強いと讃えられる将軍も、ただの人間で。誰かに期待され、押しつぶされそうになりながら、日々をこなしている。
なんだか、自分の過去と重なって見えた。
「……将軍は、ダメじゃないです。緊張しながらも、ちゃんと成果を出してきたじゃないですか。それって凄いことですよ」
「……慰めのつもりか?」
「違います。結果を出せる人は、尊敬に値するんです」
ちょっと恥ずかしいことを口にしてしまったな、と思いながら目を逸らすと、将軍の視線がこちらに戻ってきた。
「……君は?」
「私?」
「君も、なにか……抱えているように見える」
少し迷ったけど、なんとなく口が勝手に動いていた。
「私、昔……嫌なことがあって、死んで逃げたことがあるんです。ギフトを使って、“死んで、生き返る”って逃げ方をして……」
ぽつぽつと語る。あの土の中の、苦しくて、でも笑えるような出来事を。
でも、話し終わって顔を上げると――
将軍の顔が、ドン引きしていた。
「それ……全然面白くない」
「えっ」
「始まりもオチも最低だ。……なにより、そんな思いをしてまで、何から逃げたんだ?」
「……家業を継ぐ継がないで揉めて、弟に押し付けたくて、死ねば自動的に――」
「ニア、お前……クズだな」
「いやでも!ちゃんと親には生きてますって伝えましたし!?今も年に……たまに……顔出してますし!ね!?」
視線が冷たい。ぐっさぐさ刺さる。……あの顔で言われると効く。
「でも、見てください!ほら、私たち1分以上見つめ合ってますよ!死んでませんし、将軍も発火してない!これは……進歩ですよ!」
「……本当だな」
その顔は、まだ少し涙の痕が残っていて、それでも、少し笑っていた。
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