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1章:祭囃子
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冷静に考えてみたら、各駅停車でもこんな山の中に行く路線なんて聞いたことがない。あんな古ぼけた車両が、都心を走ってたはずがない。
わたしはクラクラした頭を抑えホームのベンチに座り込んだ。
沈みゆく夕陽が私の顔をジリジリ焼き尽くすようだった。
夢なら早く覚めてくれ。
そう思い項垂れていると、私大きな影が被さった。顔を上げると、またあの男がわたしの前に立っていた。
逆光になっているせいか、どんな表情をしているかはよく見えないが、男は子供に語りかけるように柔らかい口調で私に話しかけてきた。
「こんなとこに居たら捕まっちまうよ」
「……さっきから意味深なことばかり、なんなんですか?何か知ってるなら教えてください」
私は彼をキッと睨みつけ吐き捨てるように言い返した。
男は少し目を見開いたが、すぐに調子を戻しまた独特な空気を醸し出した。
「説明してあげたいのは山々なんだけど、僕にも何のことかこれっぽちも分からないんだ」
彼は困ったように頬をかいた。
「でも、君にも聞こえるだろ」
そう彼は言って太陽が沈む方向とは反対の暗闇を指差した。
山と山の間には真っ暗な夜がもうそこまで迫っていた。そして山から吹き下ろされる風とともになにやら音が聞こえてくる。
よくよく耳を澄ますと太鼓や笛そして錫杖頭の音が聞こえる。
「お祭り…?」
「君にはそう聞こえるのかい?」
男は不思議そうに、だけど少し愉快そうに私を見つめてきた。
祭りではないにしろ、誰かが何かをしている音には違いない。得体もしれないこの男のいるよりは、近隣の住民に助けを求めた方が堅実だろう。
そう思い男の横を通り過ぎようとしたら、素早く男に手を掴まれた。
「この世界に馴染みやすいのは仕方ないとして、鈍感すぎるのは問題だ」
彼からは先ほどまでの軽率そうな薄っすら浮かべていた笑みを消えていた。
「おかしいと思わないのかい?」
「おかしいのは貴方かと…」
相変わらず肝心なことを言わない男に私は嫌気がさして呟くように嫌味を言った。だが、男は私の言葉を気にも留めていないような様子で鋭い目つきで音のする先をじっと睨んでいた。
「……おかしいんだよ。聞いてて気づかないか? 太鼓も笛も錫杖も、……まるで全部が一つの機械で鳴ってるみたいに、狂いがない。まるで人間のふりをしている何かがあった音を鳴らしているかのように……」
男は少し言葉を選ぶように言い淀んだ後、再度口を開いた。
「それに風の方向や蝉の鳴き声、草のざわめき……いろんな音が聞こえているはずなのに、あの笛太鼓だけはくっきり聞こえている」
この人、顔立ちは悪くないのにもしかして残念な人なのかもしれない。
私は少し憐れみをこもった視線で彼を見つめた。そんな私に気がついてから、ふと彼は山から視線を下ろし私を見つめた。
その目があまりに真剣で、少し不安を孕んだように揺れていたから私は驚いてしまった。
視線が交わるその間も祭囃子は聞こえてくる。太鼓と、笛と、何かが歩いてくるような音。
歩く音?姿もまだ見えていないのにそんな音まで聞こえるものか?
そう私が疑問に思ったその瞬間
シャン!!!
と錫杖頭の音が耳元で大きくなった。
それは金属が打ち付けられるような、錫杖頭が地面に叩きつけられるような強い音であった。
「ひぃっ!!!!」
驚きのあまり耳おおさえてしゃがみ込んでしまった。
男は耳に添えられていた私の右手を力強く握り、少し焦ったように私を無理やり立たせた。
「君がこの世界に違和感を持ってしまったことが彼らにバレてしまったよ。急いでここを離れよう」
何が起こっているか全く理解はできないが、この場で次の電車が来ることを待ち続けることも、あの祭囃子に助けを求めに行くことも怖くなり、私はこの得体もしれない男の手を信じて逃げるように改札を抜けた。
わたしはクラクラした頭を抑えホームのベンチに座り込んだ。
沈みゆく夕陽が私の顔をジリジリ焼き尽くすようだった。
夢なら早く覚めてくれ。
そう思い項垂れていると、私大きな影が被さった。顔を上げると、またあの男がわたしの前に立っていた。
逆光になっているせいか、どんな表情をしているかはよく見えないが、男は子供に語りかけるように柔らかい口調で私に話しかけてきた。
「こんなとこに居たら捕まっちまうよ」
「……さっきから意味深なことばかり、なんなんですか?何か知ってるなら教えてください」
私は彼をキッと睨みつけ吐き捨てるように言い返した。
男は少し目を見開いたが、すぐに調子を戻しまた独特な空気を醸し出した。
「説明してあげたいのは山々なんだけど、僕にも何のことかこれっぽちも分からないんだ」
彼は困ったように頬をかいた。
「でも、君にも聞こえるだろ」
そう彼は言って太陽が沈む方向とは反対の暗闇を指差した。
山と山の間には真っ暗な夜がもうそこまで迫っていた。そして山から吹き下ろされる風とともになにやら音が聞こえてくる。
よくよく耳を澄ますと太鼓や笛そして錫杖頭の音が聞こえる。
「お祭り…?」
「君にはそう聞こえるのかい?」
男は不思議そうに、だけど少し愉快そうに私を見つめてきた。
祭りではないにしろ、誰かが何かをしている音には違いない。得体もしれないこの男のいるよりは、近隣の住民に助けを求めた方が堅実だろう。
そう思い男の横を通り過ぎようとしたら、素早く男に手を掴まれた。
「この世界に馴染みやすいのは仕方ないとして、鈍感すぎるのは問題だ」
彼からは先ほどまでの軽率そうな薄っすら浮かべていた笑みを消えていた。
「おかしいと思わないのかい?」
「おかしいのは貴方かと…」
相変わらず肝心なことを言わない男に私は嫌気がさして呟くように嫌味を言った。だが、男は私の言葉を気にも留めていないような様子で鋭い目つきで音のする先をじっと睨んでいた。
「……おかしいんだよ。聞いてて気づかないか? 太鼓も笛も錫杖も、……まるで全部が一つの機械で鳴ってるみたいに、狂いがない。まるで人間のふりをしている何かがあった音を鳴らしているかのように……」
男は少し言葉を選ぶように言い淀んだ後、再度口を開いた。
「それに風の方向や蝉の鳴き声、草のざわめき……いろんな音が聞こえているはずなのに、あの笛太鼓だけはくっきり聞こえている」
この人、顔立ちは悪くないのにもしかして残念な人なのかもしれない。
私は少し憐れみをこもった視線で彼を見つめた。そんな私に気がついてから、ふと彼は山から視線を下ろし私を見つめた。
その目があまりに真剣で、少し不安を孕んだように揺れていたから私は驚いてしまった。
視線が交わるその間も祭囃子は聞こえてくる。太鼓と、笛と、何かが歩いてくるような音。
歩く音?姿もまだ見えていないのにそんな音まで聞こえるものか?
そう私が疑問に思ったその瞬間
シャン!!!
と錫杖頭の音が耳元で大きくなった。
それは金属が打ち付けられるような、錫杖頭が地面に叩きつけられるような強い音であった。
「ひぃっ!!!!」
驚きのあまり耳おおさえてしゃがみ込んでしまった。
男は耳に添えられていた私の右手を力強く握り、少し焦ったように私を無理やり立たせた。
「君がこの世界に違和感を持ってしまったことが彼らにバレてしまったよ。急いでここを離れよう」
何が起こっているか全く理解はできないが、この場で次の電車が来ることを待ち続けることも、あの祭囃子に助けを求めに行くことも怖くなり、私はこの得体もしれない男の手を信じて逃げるように改札を抜けた。
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