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3章:冥婚
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「ここで拾いました」
そう言って地面を指さす。
カフェを出て電車に揺られること少し、会社の最寄りでおりて歩くこと幾ばくか。石でできた橋は太陽の光を反射させ白く眩しい。足元には東京特有な汚い川が海に向かって流れている。
「この橋の、ちょうどここら辺。赤い封筒だけが落ちていて……なんだろうって拾っちゃったんです」
そう言って私は冬馬くんを振り返る。
冬馬くんは眩しいみたいで少しだけ目を細めていた。
冬馬くんと会うのは夜や暗闇ばかりだったけど、全身黒色で統一している彼はこの陽の元だと少し浮いている気がした。
だけどその三日月のような鋭さは、太陽にも負けておらず、異質ながらも怪しい色気を放っていた。
「よくもまぁ、そんな見るからに怪しいもの拾ったねぇ」
少し呆れたような冬馬くんの声だけにハッとし意識を説明に戻した。
彼はそんな私に眉を少しあげ、なんだい?と聞くばかりにこちらを見ていた。
「怪しいって言ったって目立ちますし…なにより、お年玉だったら可哀想じゃないですか」
「今は夏だよ。お年玉なわけないだろうが」
冬馬くんは軽く鼻で笑った。
「でも……」
「君のそういう優しさが怪異のもっとも好きなものだから気をつけた方がいいよ……それにね、これは生きていく上でとっても大切なことなんだけどさ。お年玉だろうとなんだろうと、大切なものを落とした場合、落とした本人が全部悪いのさ。他人の君がそれをどうしようこうしようなんて、考えること自体が烏滸がましいことだよ」
そう言って彼はプイッと私から顔を背けた。
先ほどの不思議な魅力とは打って変わり、子供のような見慣れたその仕草にどこか安堵した。
「まぁ私が軽率だったのは分かりましたけど……」
私はそんな冬馬くんを笑いそうになりながら言葉を続けた。
「ここで拾って、あそこの曲がり角にある交番に届けようと思ったんだけど……いつのまにかになくなってたの」
「……その封筒は君の同意を得るためだけの手段だから、同意を得たか今、きっと夢の中の帰っていったとかじゃないかなぁ」
「夢の中?」
「この世のものじゃないからね。あっちとこっちを繋ぐためには夢の中が一番手っ取り早いよ」
同意した覚えはさらさらないが、確かに婚約式も夢の中での出来事だし。冬馬くんの言っていることも一理あるのかもしれない。
というか少し不気味な夢を見ているだけなので、今までの事よりも当事者意識が薄いのかもしれない。よくない傾向だ。
「ということは、夢の中に封筒があるかも……?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。残念ながらそこまでは僕にはわからないよ」
冬馬くんは左手を少しあげてヒラヒラと動かした。どうやらわからないというジェスチャーのようだ。多分これは冬馬くんの癖だろうな、なんて呑気な感想を浮かべた。
「まぁこんなところ探したところで見つかるわけないし、夢の中で見つけたらラッキーと思って破ってしまいなよ」
「……でも、それをしたら代償を払わなきゃなんですよね?」
「まぁ、そうだね」
そう言って笑う冬馬くんに、この状況を楽しんでいるだけじゃないかと疑いたくなる。
「ねぇ藤宮さん、僕は喉が乾いたよ。もうここに居ても何もわからないだろうし、涼しいところに行こう。今度は甘いの飲みたいな」
そう言って地面を指さす。
カフェを出て電車に揺られること少し、会社の最寄りでおりて歩くこと幾ばくか。石でできた橋は太陽の光を反射させ白く眩しい。足元には東京特有な汚い川が海に向かって流れている。
「この橋の、ちょうどここら辺。赤い封筒だけが落ちていて……なんだろうって拾っちゃったんです」
そう言って私は冬馬くんを振り返る。
冬馬くんは眩しいみたいで少しだけ目を細めていた。
冬馬くんと会うのは夜や暗闇ばかりだったけど、全身黒色で統一している彼はこの陽の元だと少し浮いている気がした。
だけどその三日月のような鋭さは、太陽にも負けておらず、異質ながらも怪しい色気を放っていた。
「よくもまぁ、そんな見るからに怪しいもの拾ったねぇ」
少し呆れたような冬馬くんの声だけにハッとし意識を説明に戻した。
彼はそんな私に眉を少しあげ、なんだい?と聞くばかりにこちらを見ていた。
「怪しいって言ったって目立ちますし…なにより、お年玉だったら可哀想じゃないですか」
「今は夏だよ。お年玉なわけないだろうが」
冬馬くんは軽く鼻で笑った。
「でも……」
「君のそういう優しさが怪異のもっとも好きなものだから気をつけた方がいいよ……それにね、これは生きていく上でとっても大切なことなんだけどさ。お年玉だろうとなんだろうと、大切なものを落とした場合、落とした本人が全部悪いのさ。他人の君がそれをどうしようこうしようなんて、考えること自体が烏滸がましいことだよ」
そう言って彼はプイッと私から顔を背けた。
先ほどの不思議な魅力とは打って変わり、子供のような見慣れたその仕草にどこか安堵した。
「まぁ私が軽率だったのは分かりましたけど……」
私はそんな冬馬くんを笑いそうになりながら言葉を続けた。
「ここで拾って、あそこの曲がり角にある交番に届けようと思ったんだけど……いつのまにかになくなってたの」
「……その封筒は君の同意を得るためだけの手段だから、同意を得たか今、きっと夢の中の帰っていったとかじゃないかなぁ」
「夢の中?」
「この世のものじゃないからね。あっちとこっちを繋ぐためには夢の中が一番手っ取り早いよ」
同意した覚えはさらさらないが、確かに婚約式も夢の中での出来事だし。冬馬くんの言っていることも一理あるのかもしれない。
というか少し不気味な夢を見ているだけなので、今までの事よりも当事者意識が薄いのかもしれない。よくない傾向だ。
「ということは、夢の中に封筒があるかも……?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。残念ながらそこまでは僕にはわからないよ」
冬馬くんは左手を少しあげてヒラヒラと動かした。どうやらわからないというジェスチャーのようだ。多分これは冬馬くんの癖だろうな、なんて呑気な感想を浮かべた。
「まぁこんなところ探したところで見つかるわけないし、夢の中で見つけたらラッキーと思って破ってしまいなよ」
「……でも、それをしたら代償を払わなきゃなんですよね?」
「まぁ、そうだね」
そう言って笑う冬馬くんに、この状況を楽しんでいるだけじゃないかと疑いたくなる。
「ねぇ藤宮さん、僕は喉が乾いたよ。もうここに居ても何もわからないだろうし、涼しいところに行こう。今度は甘いの飲みたいな」
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