ムカついたこと

ミルクティ

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図書館

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私は良く家の近くの図書館へ行く。勉強のため、趣味の読書のため、と理由はいろいろあるので週一回ペースで通っている。
蔵書数は多く、広々とした自習スペースもあるいいところでだが、不満がないわけではない。
その図書館は公園と隣接している。
設計の際、この立地にした者が理解できない。
ゆっくり過ごすこと、読書や勉強をすることが目的である図書館利用者と、おもいっきり遊んではしゃいで騒ぎまくる公園利用者の相性が悪いことは火を見るより明らかだろうに。
図書館で勉強していると、全開になった窓からギャーだとかピーだとか不審者にでも襲われたのかと思うほどの嬌声がしょっちゅう聞こえてる。
これによって、何度集中を妨害されたことか。
腹が立って、一度公園へ子供を殴りに行こうかと考えてしまうほどの迷惑をもたらすものであり、この図書館唯一にして最大の問題点だといえる。
これでは利用者たちが我慢の限界になるのも時間の問題な上、公園の方でも親御さん達が気を遣って子供を目一杯遊ばせることに抵抗を覚えてしまうのではないかと心配した。
このままでは、両方とも利用者がいなくなり、税金の無駄遣いになってしまう。
私は抗議することにした。
「すみません」
受付に座る司書らしき女性に声をかける。右側に座っている人だ。左はロッテンマイヤーさんの付けているような眼鏡をした気難しそうな人だったので、話しかけるのに躊躇した。
「貸し出しですか」
声は優しかった。
「いえ、あの少し気になることがあって」
ここまで言うと、彼女は途端に額に皺を寄せ、眉をひそめた。
「公園と隣接していることが気になる、とおっしゃるおつもりですか」
私が言おうとしていたこと全てを、心を読んだかのように言い連ねた。声は優しく無くなっていた。
「ええ」
「あー、もう!ど言うもこいつも五月蝿いのよ」
「え?」
私が驚いていると、彼女は恐ろしい勢いで捲し立て始めた。
「みんなみんな私に文句言うんだから、それもみーんな同じこと。公園公園うるさいうるさい、こっちがうるさいわ!
ここの立地がどうだとかなんでこんな設計なのかとか、下っ端の私が知るわけないでしょーが!
こちとらあんたらの文句とガキもどもの声両方毎日聞いてんだよ、それに比べたらマシじゃねーか!ていうか、たまには柿村さんに文句言ったらどうなのよ、みんなみんな私を舐めてるから私に文句言うのよ、あんたもそうでしょう?え?」
あんたの今の怒鳴り声の方がよっぽど五月蝿いわ、と私は思った。
と同時に、彼女のいうことも一理あるということに気がついた。彼女は勤め先で働いているだけなのに、理不尽にストレスを与えられ文句も言われる毎日に嫌気が差しているのだろう。
客観的に考えれば私に非はないはずなのに、この時は心底申し訳ない気持ちになった。
「ご、ごめんなさい」
そう言って図書館を後にする。怒りと疑問は家に帰ってから湧いてきた。
「いやなんで私が怒鳴られたのよ、まだ文句言ってないでしょうが、八つ当たりじゃん」
クッションをネネちゃんうさぎの如くボコボコに殴りながら理不尽を叫ぶ。もうあんなところ、ぜったい行ってやらない。
そう誓ったはずなのに、一週間後の日曜日、私はあの図書館へ無意識に出向いていた。習慣とはなかなか治らないものだ。
図書館が、遅刻して入る教室の様に感じた。つまりすごく入りづらい。
あの人いないといいな。
そう思いながら中へ入ると、一人の気難しそうな女性と、あの女性が私に頭を下げていた。
「大変申し訳ございませんでした。これはほんのお詫びでございます」
そう言って気難しそうな方、柿村さんと呼ばれていた女性から菓子折りを渡された。
私は困惑しながらも、ありがたーく受け取った。
そして今日も、不愉快極まりない嬌声は聞こえて来る。キャハハハハという笑い声さえ癪に触る。
でも私は、来週もその次も来るのだろう。
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