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第5章『要求する魔物』
8話
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2人が出て行って3時間が経とうとしていた。窓の外は日が落ち始め、ゆっくり暗くなってきている。
「タクヤさん達、大丈夫でしょうか……」
ミサキは誰に話すと言うわけでもなく、不安そうに独り言をこぼす。
「だぁ~いじょうぶよっ。だって勇者だもの」
ソファーに座り、紅茶を飲んでいたアンナが答える。
「でも……」
それでもまだミサキは不安そうな表情をしている。
「心配ないよ。彼らを信じよう」
今度は隣に座っていたマサキがミサキに優しく言い聞かせる。
アンナ、ミサキ、マサキ、そして町の一部の人達が広間に集まり、2人の帰りを待っていた。
そしてもうすぐ完全に日が落ちるといった頃、
「ただいまーっ」
勢いよくドアが開き、タクヤとイズミが広間へと入ってきた。
「ちょっとっ。何なのよその格好はっ」
アンナは2人を見た途端立ち上がり、2人に向かって怒鳴りつける。
怒鳴られた2人は――というと、全身泥だらけの傷だらけというボロボロの姿であった。
「しかもあなたっ、何服脱いでんのよっ!」
そう言ってアンナはイズミを指差す。
「うるせぇな。汚されるよりマシだろ」
テーブルの上にワンピースを置くと、イズミは鬱陶しそうに答える。
「大丈夫ですか?」
ミサキが救急箱を持って2人の元に駆け寄った。
そして2人はソファーに座るとアンナとミサキにそれぞれ手当てをしてもらう。
「痛みますか?」
ミサキは心配そうな表情で手当てをしながらタクヤを見上げる。
「大丈夫大丈夫。これくらい大したことないから。心配ないよ」
タクヤはにっこりとミサキを見下ろす。
「まったくっ、綺麗な顔に傷なんて作ってんじゃないわよっ。だいたいあなた、ほっそい体してんだから、無理するんじゃないのっ」
「ほっとけ。……別に無理なんかしてねぇよ」
再びアンナに説教を受けて、イズミは嫌そうな顔になる。
「そうそうっ、イズミはぜってぇ無理なことなんてしないよ。面倒なこととか全部俺に押し付けるんだから」
隣からタクヤが口を挟むが、イズミに思い切り睨まれた。
「はい、おしまい。そうだ、もう夜になるし、あなた達今日はうちに泊まっていきなさいよ」
アンナは立ち上がると2人を見下ろし、そう提案した。
「えっ、ほんとに? 助かるよっ。ねっ、イズミ?」
タクヤは嬉しそうに話し、同意を得ようとイズミを見る。
「別に……」
イズミは相変わらず無表情に答える。
「もうっ、ほんっと冷めた子ね、あなたって。まぁいいわ。部屋はいくらでもあるから、遠慮なく使って。後でメイドに案内させるわ」
アンナはイズミの態度に呆れながらもすぐに機嫌良さそうに話した。
「メイドだって。やっぱすっげぇなこの家」
タクヤはこそっとイズミに耳打ちする。
「…………」
しかし、イズミはタクヤの話を聞きながら、何か腑に落ちないものを感じていた。
☆☆☆
「なんかこの家迷いそう……」
ガチャっとドアを開け、タクヤがそう呟きながら入ってきた。
2人はメイドに案内され、1人ずつ部屋を用意してもらったのだが、夕食を食べて間もなく、タクヤは暇になったのかイズミの部屋へとやってきたのだった。
「ノックくらいしろ。お前なら野生の本能でなんとかなるんじゃねぇか?」
イズミはソファに座り眼鏡を掛けて何か本を読んでいたのだが、勝手に入ってきたタクヤに苛つきながら答える。
「何だよっ、野生の本能ってっ!」
ベッドに腰掛けながら、タクヤは顔を赤くしながら怒っていた。
「うるせぇ猿。お前の部屋は隣だろ」
イズミは本から視線を動かすことなく鬱陶しそうに話す。
「猿って言うなっ! ……だって、暇なんだもん。……ねぇねぇ、何読んでんの? イズミって目悪かったんだなっ」
相変わらずコロコロと態度の変わるタクヤであった。
イズミの言葉に怒りそして落ち込み、最後にはイズミの横に座り、興味深そうにイズミが読んでいる本を覗き込んだ。
「お前には難しい本」
タクヤを見ることもなく一言だけ答える。
「もうっ、すぐそうやってバカにするっ」
タクヤは頬を膨らませながらもそれ以上は何も言わず、足を組み、その上で頬杖をつきながら本を読むイズミを眺めていた。
「なぁ、つまんない」
それから5分も経たないうちにタクヤは膨れた顔で呟いた。
「お前うるさい。暇なら誰かに相手してもらってこい」
鬱陶しそうにちらっとだけタクヤを見る。
「イズミがいい」
膨れながら話すタクヤの言葉を聞いてパタンと本を閉じると、イズミは漸くタクヤを見て話す。
「何ガキみたいなこと言ってんだよ。お前いつから人見知りするようになったんだ?」
「だって、だって一緒にいたいからさ……」
組んでいた足を下ろし両手をソファに置くと、上目遣いでイズミをじっと見る。
「…………」
まるで主人に怒られてしゅんとしている犬のようなその姿に、イズミは呆れた表情をすると大きく溜め息をつく。そして眼鏡を外し、真っ直ぐにタクヤを見て話し始めた。
「あのなぁ。別に俺はどこへも行かないし、元々話をするのが苦手なんだ。だいたい常に一緒にいる必要もないだろ? 誰とも関わらないなんてお前らしくないんじゃねぇのか? どっか行ってこいよ」
「……別に、ここの人達が嫌なわけじゃない。すごくいい人達だし、今日も泊まらせてもらってすごい有り難いって思うけど……。でも、そういうことじゃないんだ。俺、もっともっとイズミと一緒にいたいし、もっといろんな事を知りたいんだ。イズミの傍にいたい……。だめか?」
相変わらず叱られた飼い犬のような顔でタクヤはじっとイズミを見つめる。
「はぁ……俺と一緒にいても何にも分かんねぇぞ?」
「そんなことないよっ。だって今、イズミが目悪いってこと分かったじゃんっ」
諦めたように話すイズミの答えに、少しだけ顔を明るくさせる。
「……ったく。寝る時はちゃんと部屋に戻れよ」
タクヤの気持ちの強さに押され、仕方なさそうにもう一度深く溜め息をつく。
「タクヤさん達、大丈夫でしょうか……」
ミサキは誰に話すと言うわけでもなく、不安そうに独り言をこぼす。
「だぁ~いじょうぶよっ。だって勇者だもの」
ソファーに座り、紅茶を飲んでいたアンナが答える。
「でも……」
それでもまだミサキは不安そうな表情をしている。
「心配ないよ。彼らを信じよう」
今度は隣に座っていたマサキがミサキに優しく言い聞かせる。
アンナ、ミサキ、マサキ、そして町の一部の人達が広間に集まり、2人の帰りを待っていた。
そしてもうすぐ完全に日が落ちるといった頃、
「ただいまーっ」
勢いよくドアが開き、タクヤとイズミが広間へと入ってきた。
「ちょっとっ。何なのよその格好はっ」
アンナは2人を見た途端立ち上がり、2人に向かって怒鳴りつける。
怒鳴られた2人は――というと、全身泥だらけの傷だらけというボロボロの姿であった。
「しかもあなたっ、何服脱いでんのよっ!」
そう言ってアンナはイズミを指差す。
「うるせぇな。汚されるよりマシだろ」
テーブルの上にワンピースを置くと、イズミは鬱陶しそうに答える。
「大丈夫ですか?」
ミサキが救急箱を持って2人の元に駆け寄った。
そして2人はソファーに座るとアンナとミサキにそれぞれ手当てをしてもらう。
「痛みますか?」
ミサキは心配そうな表情で手当てをしながらタクヤを見上げる。
「大丈夫大丈夫。これくらい大したことないから。心配ないよ」
タクヤはにっこりとミサキを見下ろす。
「まったくっ、綺麗な顔に傷なんて作ってんじゃないわよっ。だいたいあなた、ほっそい体してんだから、無理するんじゃないのっ」
「ほっとけ。……別に無理なんかしてねぇよ」
再びアンナに説教を受けて、イズミは嫌そうな顔になる。
「そうそうっ、イズミはぜってぇ無理なことなんてしないよ。面倒なこととか全部俺に押し付けるんだから」
隣からタクヤが口を挟むが、イズミに思い切り睨まれた。
「はい、おしまい。そうだ、もう夜になるし、あなた達今日はうちに泊まっていきなさいよ」
アンナは立ち上がると2人を見下ろし、そう提案した。
「えっ、ほんとに? 助かるよっ。ねっ、イズミ?」
タクヤは嬉しそうに話し、同意を得ようとイズミを見る。
「別に……」
イズミは相変わらず無表情に答える。
「もうっ、ほんっと冷めた子ね、あなたって。まぁいいわ。部屋はいくらでもあるから、遠慮なく使って。後でメイドに案内させるわ」
アンナはイズミの態度に呆れながらもすぐに機嫌良さそうに話した。
「メイドだって。やっぱすっげぇなこの家」
タクヤはこそっとイズミに耳打ちする。
「…………」
しかし、イズミはタクヤの話を聞きながら、何か腑に落ちないものを感じていた。
☆☆☆
「なんかこの家迷いそう……」
ガチャっとドアを開け、タクヤがそう呟きながら入ってきた。
2人はメイドに案内され、1人ずつ部屋を用意してもらったのだが、夕食を食べて間もなく、タクヤは暇になったのかイズミの部屋へとやってきたのだった。
「ノックくらいしろ。お前なら野生の本能でなんとかなるんじゃねぇか?」
イズミはソファに座り眼鏡を掛けて何か本を読んでいたのだが、勝手に入ってきたタクヤに苛つきながら答える。
「何だよっ、野生の本能ってっ!」
ベッドに腰掛けながら、タクヤは顔を赤くしながら怒っていた。
「うるせぇ猿。お前の部屋は隣だろ」
イズミは本から視線を動かすことなく鬱陶しそうに話す。
「猿って言うなっ! ……だって、暇なんだもん。……ねぇねぇ、何読んでんの? イズミって目悪かったんだなっ」
相変わらずコロコロと態度の変わるタクヤであった。
イズミの言葉に怒りそして落ち込み、最後にはイズミの横に座り、興味深そうにイズミが読んでいる本を覗き込んだ。
「お前には難しい本」
タクヤを見ることもなく一言だけ答える。
「もうっ、すぐそうやってバカにするっ」
タクヤは頬を膨らませながらもそれ以上は何も言わず、足を組み、その上で頬杖をつきながら本を読むイズミを眺めていた。
「なぁ、つまんない」
それから5分も経たないうちにタクヤは膨れた顔で呟いた。
「お前うるさい。暇なら誰かに相手してもらってこい」
鬱陶しそうにちらっとだけタクヤを見る。
「イズミがいい」
膨れながら話すタクヤの言葉を聞いてパタンと本を閉じると、イズミは漸くタクヤを見て話す。
「何ガキみたいなこと言ってんだよ。お前いつから人見知りするようになったんだ?」
「だって、だって一緒にいたいからさ……」
組んでいた足を下ろし両手をソファに置くと、上目遣いでイズミをじっと見る。
「…………」
まるで主人に怒られてしゅんとしている犬のようなその姿に、イズミは呆れた表情をすると大きく溜め息をつく。そして眼鏡を外し、真っ直ぐにタクヤを見て話し始めた。
「あのなぁ。別に俺はどこへも行かないし、元々話をするのが苦手なんだ。だいたい常に一緒にいる必要もないだろ? 誰とも関わらないなんてお前らしくないんじゃねぇのか? どっか行ってこいよ」
「……別に、ここの人達が嫌なわけじゃない。すごくいい人達だし、今日も泊まらせてもらってすごい有り難いって思うけど……。でも、そういうことじゃないんだ。俺、もっともっとイズミと一緒にいたいし、もっといろんな事を知りたいんだ。イズミの傍にいたい……。だめか?」
相変わらず叱られた飼い犬のような顔でタクヤはじっとイズミを見つめる。
「はぁ……俺と一緒にいても何にも分かんねぇぞ?」
「そんなことないよっ。だって今、イズミが目悪いってこと分かったじゃんっ」
諦めたように話すイズミの答えに、少しだけ顔を明るくさせる。
「……ったく。寝る時はちゃんと部屋に戻れよ」
タクヤの気持ちの強さに押され、仕方なさそうにもう一度深く溜め息をつく。
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