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第7章『人形』
2話
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再び目が覚め、タクヤは頭を掻きながらゆっくりと上体を起こす。
カーテンが開けられており、窓から朝日が差し込んでいた。
隣のベッドを見るがイズミはいない。
そして部屋を見回してみたが、やはりイズミの姿はなかった。
「あれ? どこ行ったんだろう……」
タクヤはベッドから下りると、洗面所へ行ってみた。
しかしイズミはそこにもいなかった。
「あれ~? いないや……。飯にでも行ったのかなぁ……」
タクヤは首を傾げ、独り言を言うと、部屋の時計に目をやった。
「なんだ、まだ6時じゃんか。まったくこんな時間からどこ行っちゃったんだよ」
タクヤは1人でぶつぶつと言いながらベッドへと腰掛けた。
☆☆☆
「んーどうしよっかな。飯? でもまだ早いしなぁ……。もう一度寝直すか? でもきっとイズミに叩き起こされるのがオチだし。叩き起こされるっていうより蹴り起こされるか。な~んて」
「お前……誰と話してるんだ? それともでかい独り言か?」
部屋に戻ってきたイズミはドアを開けた途端、呆れた顔でタクヤに話し掛けた。
「あっ、イズミっ! どこ行ってたんだよっ」
イズミの姿を確認すると、タクヤはベッドに腰掛けたまま、嬉しそうに声を上げた。
「別にいいだろ。そんなことよりお前、まさかとは思うが、ずっとそうやって1人で喋ってたのか?」
イズミは呆れた顔のままタクヤを見る。
「え? 独り言じゃないよぉ。ジョニーと話してたんだよ。なっ、ジョニー」
そう言ってタクヤはクマのぬいぐるみを両手で持ち上げる。茶色い毛の目のくりっとした可愛らしいクマのぬいぐるみだった。
「そいつはオスか……じゃねぇっ! 何だそれはっ!」
思わず乗ってしまったイズミであったが、すぐに我に返るとタクヤを怒鳴りつける。
「何? ジョニーって名前が気に入らないのか? じゃあマチルダにしよう」
「そういう問題じゃねぇっ!」
イズミはずかずかとタクヤの所まで来ると、クマのぬいぐるみを取り上げ、ドアの方へと投げつけた。
「ああっ! マチルダっ!」
「阿呆」
急いでぬいぐるみを拾いに行くタクヤに、イズミは呆れながら突っ込む。
「酷いことするなぁ。なぁ、マチルダ」
タクヤはぬいぐるみを拾い上げ、その場で床に腰を下ろすと、再びぬいぐるみに向かって話し掛ける。
「まさかあの女の家から持ってきたんじゃないだろうな?」
イズミはふとアンナの部屋にあったクマのぬいぐるみを思い出して顔を顰める。
今、タクヤが持っているぬいぐるみとは色もデザインも違っていたのだが、まさかな……と不安がよぎっていた。
「へ? あの女って?」
タクヤは何のことを言われているのか全く分からず、きょとんとして首を傾げる。
「いや、違うならいい。って、そうじゃなくて。だから、何でそんなもんがここにあるんだっ。お前、いつからそんな趣味になったんだよ」
「だってイズミがいなかったからさぁ。寂しくって――っていうのは嘘ですっ! ごめんさないっ!」
イズミに殴られそうになり、タクヤは慌てて謝る。
「そこに落ちてたんだって」
タクヤはイズミからの攻撃を避けると、情けない顔で答え、ドアの辺りを指差した。
「何でそんな所にぬいぐるみなんかが落ちてたんだよ」
「俺だって知らないよっ!」
呆れた顔で話すイズミにタクヤはムキになって答える。
イズミは溜め息をつくと、ベッドに戻り腰掛けた。
「おい」
そして、膨れた顔のまま床に座り込んでいるタクヤに声を掛ける。
「何? こいつの性別は俺にも分からないぞ?」
「今すぐ死ね」
再びタクヤがふざけて言うが、イズミはベッドにあった枕を掴み、タクヤに投げつけた。
「いてっ。まったく、乱暴なおにいちゃんだね、マイケル」
「お前もうどっか行け。そして帰ってくるな」
枕はタクヤの顔面に当たったが、タクヤは相変わらずふざけながらぬいぐるみに向かって話し掛ける。
そして、イズミは嫌そうな顔をしながらタクヤを見た。
「何だよー、冷たいなぁ。よぉーしマイケルキーックっ!」
タクヤはイズミに冷たくされても負けじと立ち上がり、イズミの所まで来て、ぬいぐるみの足をイズミの頭にぶつける。
しかし次の瞬間には、イズミによってぬいぐるみは無残にもドアに投げつけられた。
「あっジュリアっ!」
「おい、あれはマイケルじゃなかったのか?」
慌ててぬいぐるみに駆け寄るタクヤに、イズミは冷めた目で声を掛ける。
「何言ってんだよっ。こいつはトミーだっ!」
「お前、いい加減にしないと屋根から吊るすぞ」
相変わらずふざけているタクヤに、イズミは殺気を帯びた目付きでタクヤを睨んだ。
「キャーッ、イズミさんてばこわーい……ってごめんなさいっ! もうやめまーすっ!」
それでも続けようとしたタクヤであったが、どこから出したのか、イズミが縄を持って近付いてきたので、慌てて土下座していた。
「ったく……。何で朝っぱらからこんな茶番に付き合わされなきゃならないんだ」
イズミは溜め息をつきながらベッドに腰掛ける。
「あっ、ていうかイズミ、一体どこ行ってたんだよ」
タクヤは自分のベッドにぬいぐるみを置くと、自分もベッドに腰掛けイズミに話し掛けた。
「教えない」
「ちぇっ。じゃあさ、さっき何か言い掛けただろ? 何だった?」
相変わらずなイズミにタクヤは口を尖らすが、すぐに思い出したように話題を変えた。
「お前がくだらんこと言ってるからだろうが。まったく……ほら」
イズミは呆れ返った顔で溜め息をつく。
そして上着のポケットから何かを取り出し、タクヤに手渡す。
「何?」
タクヤは不思議そうに首を傾げながら手の中の物を見た。
それは、あの青い石のペンダントであった。
「えっ、何? どういうこと?」
イズミの行動の意味が分からず、タクヤは不思議そうな顔付きのままイズミを見つめた。
「お前が持っていろ」
無表情に答える。
「何で? だってこれ、イズミにとって重要な物なんだろ? 俺が持ってたって……」
イズミの答えに驚き、タクヤは複雑な顔をしていた。
「……確かに重要な物ではあるが、別に俺が持っていようがお前が持っていようが変わらないんだよ。お前へっぽこだから、そいつを持っていれば少しは役に立つだろ」
表情を変えることなく淡々と答える。
「へっぽこって何だよっ!」
イズミの話を真面目に聞いていたタクヤであったが、ふとイズミの言葉に引っ掛かり、話し終わるのと同時に怒鳴っていた。
「へっぽこっていうのはな……」
「誰がへっぽこの意味を言えって言ったよっ!」
「違うのか? お前頭悪いから、それすらも分からないのかと思ったよ」
「ムカッ!」
しれっとした顔で話すイズミにタクヤは怒鳴り返すのだが、再びイズミに馬鹿にされ思い切り睨み付けていた。
「それ、なくすんじゃないぞ」
タクヤを苛めるのにも飽きたのか、イズミは話題を変えると、じっとタクヤの手元にあるペンダントを見つめた。
「なぁ、ほんとに俺が持ってていいのか?」
タクヤは不安そうな表情になり、イズミをじっと見つめる。
「お前が持っている方がいい。……俺が持っていても何の役にも立たない」
イズミはタクヤから目を逸らすと、ベッドから降りて、備え付けのコーヒーカップを出し始めた。
「どういうこと? 俺が持ってて何の役に立つんだよ。意味分かんね」
タクヤはじっとイズミを目で追いながら、複雑な表情で考え込んでいた。
「別にお前は持っていればいいんだよ。どうせ難しいこと言ったって分かんねぇんだから」
「何だよっ! 聞いたら俺だって分かるかもしんねぇじゃんっ。いっつもそうやって秘密にするんだもんなっ」
「気にするな。別にお前が知る必要もないことだ」
そう言ってイズミは膨れているタクヤにコーヒーを手渡す。
「あっ、ありがと。でもなぁーんか納得いかねぇな。イズミ、説明するのが面倒なだけなんじゃないの?」
「そうとも言うな」
「やっぱりっ!」
コーヒーカップを持ったままソファーに座り、平然と答えるイズミにタクヤは顔を赤くしながら怒っていた。
「それより、そのぬいぐるみが気になるな」
タクヤを無視してイズミはコーヒーを飲みながらちらりとぬいぐるみを見る。
「え? ジャックがそんなに気になるのか?」
タクヤはコーヒーを飲み干しカップを床に置くと、ぬいぐるみを両手で持ち、イズミに向けて見せた。
「……だから、何でそいつの名前はそうコロコロと変わるんだ……。あーもうっ、そうじゃなくてだな、……ったく、お前と話してると頭がおかしくなりそうだ」
イズミは大きく溜め息をつくと、額を押さえながら答える。
「名前は好きに呼んでいいぞ」
そう言ってタクヤはぬいぐるみを膝の上に乗せる。
「お前、人の話を聞いてたか?」
「うん。そうだよなぁ……。お前、一体どっから来たんだ?」
怒るイズミを気にすることなく、タクヤは再びぬいぐるみに向かって話し掛けた。
「お前やっぱ死ね」
「何だよっ。そんなに怒ることないだろ。ちょっとした茶目っ気じゃんっ」
怒りを通り越し、冷めた目で自分を見てくるイズミに、タクヤは膨れながらも冗談っぽく話す。
「もういい……」
イズミは「もうコイツやだ」とぼそりと呟き、大きく溜め息をつく。
「でもナンシーはごく普通のクマのぬいぐるみだぞ。勝手に歩いてくるとかは考えられないから、やっぱ誰かがここに置いたんだよなぁ」
「お前……真剣に言ってるのかふざけてんのか分からん発言はするな。だいたいそいつは何でそういう名前ばっかなんだ」
イズミは呆れ切った顔でタクヤを眺める。
「真剣だよ。一応。エリザベスの名前が気に入らないって? うわっ! ごめんなさいっ! ぶつなってばっ! ただの気分だよっ!」
またタクヤがふざけて言ってると、イズミがタクヤの近くまで来て手を振り上げた為、慌てて謝った。
「まぁいい。それにしても奇怪だな。この部屋には鍵がかかっていて誰も入れないはずだし……。俺が部屋を出る時はこんな物なかった……。そんなに長い時間、部屋を離れていたわけでもないんだが……」
イズミは溜め息をつきながらもう一度ベッドに腰掛け、複雑な表情で考え込み始めた。
「うーん……俺も寝てたからよく分かんねぇけど、人の気配は感じなかったぜ? イズミ以外の人だったらすぐ分かるはずなんだけど……」
「俺以外ってどういう意味だよ」
イズミはムッとした表情をするとタクヤを睨みつけた。
「睨むなってっ。変な意味じゃなくて、イズミの気配は把握してるつもりだからってことっ!……一応ね」
イズミに睨まれ、慌てて弁解するタクヤであったが、言った後で自信がなくなったのか一言付け加えていた。
「ふんっ。で、そいつは本当に只のぬいぐるみなのか? 誰かが置いてったんじゃないんだとしたら、そいつに何かあるのかもしれん」
イズミは不機嫌に鼻を鳴らすと、今度はぬいぐるみをじっと訝しげに見つめた。
「たぶん……。なんにも仕込まれてないと思うけど――」
タクヤはぬいぐるみを逆さにしてみる。
「やめてっ!」
突然少女の声が聞こえ、2人はぎょっとして声の方向を見る。
ドアのすぐ前で10歳前後と思われる少女がタクヤを睨み付け立っていた。
「いつの間に……」
タクヤはぬいぐるみを持ったまま唖然としていた。
ドアが開けられる音はしなかった。
そして、人の気配も全く感じられなかったのだ。
カーテンが開けられており、窓から朝日が差し込んでいた。
隣のベッドを見るがイズミはいない。
そして部屋を見回してみたが、やはりイズミの姿はなかった。
「あれ? どこ行ったんだろう……」
タクヤはベッドから下りると、洗面所へ行ってみた。
しかしイズミはそこにもいなかった。
「あれ~? いないや……。飯にでも行ったのかなぁ……」
タクヤは首を傾げ、独り言を言うと、部屋の時計に目をやった。
「なんだ、まだ6時じゃんか。まったくこんな時間からどこ行っちゃったんだよ」
タクヤは1人でぶつぶつと言いながらベッドへと腰掛けた。
☆☆☆
「んーどうしよっかな。飯? でもまだ早いしなぁ……。もう一度寝直すか? でもきっとイズミに叩き起こされるのがオチだし。叩き起こされるっていうより蹴り起こされるか。な~んて」
「お前……誰と話してるんだ? それともでかい独り言か?」
部屋に戻ってきたイズミはドアを開けた途端、呆れた顔でタクヤに話し掛けた。
「あっ、イズミっ! どこ行ってたんだよっ」
イズミの姿を確認すると、タクヤはベッドに腰掛けたまま、嬉しそうに声を上げた。
「別にいいだろ。そんなことよりお前、まさかとは思うが、ずっとそうやって1人で喋ってたのか?」
イズミは呆れた顔のままタクヤを見る。
「え? 独り言じゃないよぉ。ジョニーと話してたんだよ。なっ、ジョニー」
そう言ってタクヤはクマのぬいぐるみを両手で持ち上げる。茶色い毛の目のくりっとした可愛らしいクマのぬいぐるみだった。
「そいつはオスか……じゃねぇっ! 何だそれはっ!」
思わず乗ってしまったイズミであったが、すぐに我に返るとタクヤを怒鳴りつける。
「何? ジョニーって名前が気に入らないのか? じゃあマチルダにしよう」
「そういう問題じゃねぇっ!」
イズミはずかずかとタクヤの所まで来ると、クマのぬいぐるみを取り上げ、ドアの方へと投げつけた。
「ああっ! マチルダっ!」
「阿呆」
急いでぬいぐるみを拾いに行くタクヤに、イズミは呆れながら突っ込む。
「酷いことするなぁ。なぁ、マチルダ」
タクヤはぬいぐるみを拾い上げ、その場で床に腰を下ろすと、再びぬいぐるみに向かって話し掛ける。
「まさかあの女の家から持ってきたんじゃないだろうな?」
イズミはふとアンナの部屋にあったクマのぬいぐるみを思い出して顔を顰める。
今、タクヤが持っているぬいぐるみとは色もデザインも違っていたのだが、まさかな……と不安がよぎっていた。
「へ? あの女って?」
タクヤは何のことを言われているのか全く分からず、きょとんとして首を傾げる。
「いや、違うならいい。って、そうじゃなくて。だから、何でそんなもんがここにあるんだっ。お前、いつからそんな趣味になったんだよ」
「だってイズミがいなかったからさぁ。寂しくって――っていうのは嘘ですっ! ごめんさないっ!」
イズミに殴られそうになり、タクヤは慌てて謝る。
「そこに落ちてたんだって」
タクヤはイズミからの攻撃を避けると、情けない顔で答え、ドアの辺りを指差した。
「何でそんな所にぬいぐるみなんかが落ちてたんだよ」
「俺だって知らないよっ!」
呆れた顔で話すイズミにタクヤはムキになって答える。
イズミは溜め息をつくと、ベッドに戻り腰掛けた。
「おい」
そして、膨れた顔のまま床に座り込んでいるタクヤに声を掛ける。
「何? こいつの性別は俺にも分からないぞ?」
「今すぐ死ね」
再びタクヤがふざけて言うが、イズミはベッドにあった枕を掴み、タクヤに投げつけた。
「いてっ。まったく、乱暴なおにいちゃんだね、マイケル」
「お前もうどっか行け。そして帰ってくるな」
枕はタクヤの顔面に当たったが、タクヤは相変わらずふざけながらぬいぐるみに向かって話し掛ける。
そして、イズミは嫌そうな顔をしながらタクヤを見た。
「何だよー、冷たいなぁ。よぉーしマイケルキーックっ!」
タクヤはイズミに冷たくされても負けじと立ち上がり、イズミの所まで来て、ぬいぐるみの足をイズミの頭にぶつける。
しかし次の瞬間には、イズミによってぬいぐるみは無残にもドアに投げつけられた。
「あっジュリアっ!」
「おい、あれはマイケルじゃなかったのか?」
慌ててぬいぐるみに駆け寄るタクヤに、イズミは冷めた目で声を掛ける。
「何言ってんだよっ。こいつはトミーだっ!」
「お前、いい加減にしないと屋根から吊るすぞ」
相変わらずふざけているタクヤに、イズミは殺気を帯びた目付きでタクヤを睨んだ。
「キャーッ、イズミさんてばこわーい……ってごめんなさいっ! もうやめまーすっ!」
それでも続けようとしたタクヤであったが、どこから出したのか、イズミが縄を持って近付いてきたので、慌てて土下座していた。
「ったく……。何で朝っぱらからこんな茶番に付き合わされなきゃならないんだ」
イズミは溜め息をつきながらベッドに腰掛ける。
「あっ、ていうかイズミ、一体どこ行ってたんだよ」
タクヤは自分のベッドにぬいぐるみを置くと、自分もベッドに腰掛けイズミに話し掛けた。
「教えない」
「ちぇっ。じゃあさ、さっき何か言い掛けただろ? 何だった?」
相変わらずなイズミにタクヤは口を尖らすが、すぐに思い出したように話題を変えた。
「お前がくだらんこと言ってるからだろうが。まったく……ほら」
イズミは呆れ返った顔で溜め息をつく。
そして上着のポケットから何かを取り出し、タクヤに手渡す。
「何?」
タクヤは不思議そうに首を傾げながら手の中の物を見た。
それは、あの青い石のペンダントであった。
「えっ、何? どういうこと?」
イズミの行動の意味が分からず、タクヤは不思議そうな顔付きのままイズミを見つめた。
「お前が持っていろ」
無表情に答える。
「何で? だってこれ、イズミにとって重要な物なんだろ? 俺が持ってたって……」
イズミの答えに驚き、タクヤは複雑な顔をしていた。
「……確かに重要な物ではあるが、別に俺が持っていようがお前が持っていようが変わらないんだよ。お前へっぽこだから、そいつを持っていれば少しは役に立つだろ」
表情を変えることなく淡々と答える。
「へっぽこって何だよっ!」
イズミの話を真面目に聞いていたタクヤであったが、ふとイズミの言葉に引っ掛かり、話し終わるのと同時に怒鳴っていた。
「へっぽこっていうのはな……」
「誰がへっぽこの意味を言えって言ったよっ!」
「違うのか? お前頭悪いから、それすらも分からないのかと思ったよ」
「ムカッ!」
しれっとした顔で話すイズミにタクヤは怒鳴り返すのだが、再びイズミに馬鹿にされ思い切り睨み付けていた。
「それ、なくすんじゃないぞ」
タクヤを苛めるのにも飽きたのか、イズミは話題を変えると、じっとタクヤの手元にあるペンダントを見つめた。
「なぁ、ほんとに俺が持ってていいのか?」
タクヤは不安そうな表情になり、イズミをじっと見つめる。
「お前が持っている方がいい。……俺が持っていても何の役にも立たない」
イズミはタクヤから目を逸らすと、ベッドから降りて、備え付けのコーヒーカップを出し始めた。
「どういうこと? 俺が持ってて何の役に立つんだよ。意味分かんね」
タクヤはじっとイズミを目で追いながら、複雑な表情で考え込んでいた。
「別にお前は持っていればいいんだよ。どうせ難しいこと言ったって分かんねぇんだから」
「何だよっ! 聞いたら俺だって分かるかもしんねぇじゃんっ。いっつもそうやって秘密にするんだもんなっ」
「気にするな。別にお前が知る必要もないことだ」
そう言ってイズミは膨れているタクヤにコーヒーを手渡す。
「あっ、ありがと。でもなぁーんか納得いかねぇな。イズミ、説明するのが面倒なだけなんじゃないの?」
「そうとも言うな」
「やっぱりっ!」
コーヒーカップを持ったままソファーに座り、平然と答えるイズミにタクヤは顔を赤くしながら怒っていた。
「それより、そのぬいぐるみが気になるな」
タクヤを無視してイズミはコーヒーを飲みながらちらりとぬいぐるみを見る。
「え? ジャックがそんなに気になるのか?」
タクヤはコーヒーを飲み干しカップを床に置くと、ぬいぐるみを両手で持ち、イズミに向けて見せた。
「……だから、何でそいつの名前はそうコロコロと変わるんだ……。あーもうっ、そうじゃなくてだな、……ったく、お前と話してると頭がおかしくなりそうだ」
イズミは大きく溜め息をつくと、額を押さえながら答える。
「名前は好きに呼んでいいぞ」
そう言ってタクヤはぬいぐるみを膝の上に乗せる。
「お前、人の話を聞いてたか?」
「うん。そうだよなぁ……。お前、一体どっから来たんだ?」
怒るイズミを気にすることなく、タクヤは再びぬいぐるみに向かって話し掛けた。
「お前やっぱ死ね」
「何だよっ。そんなに怒ることないだろ。ちょっとした茶目っ気じゃんっ」
怒りを通り越し、冷めた目で自分を見てくるイズミに、タクヤは膨れながらも冗談っぽく話す。
「もういい……」
イズミは「もうコイツやだ」とぼそりと呟き、大きく溜め息をつく。
「でもナンシーはごく普通のクマのぬいぐるみだぞ。勝手に歩いてくるとかは考えられないから、やっぱ誰かがここに置いたんだよなぁ」
「お前……真剣に言ってるのかふざけてんのか分からん発言はするな。だいたいそいつは何でそういう名前ばっかなんだ」
イズミは呆れ切った顔でタクヤを眺める。
「真剣だよ。一応。エリザベスの名前が気に入らないって? うわっ! ごめんなさいっ! ぶつなってばっ! ただの気分だよっ!」
またタクヤがふざけて言ってると、イズミがタクヤの近くまで来て手を振り上げた為、慌てて謝った。
「まぁいい。それにしても奇怪だな。この部屋には鍵がかかっていて誰も入れないはずだし……。俺が部屋を出る時はこんな物なかった……。そんなに長い時間、部屋を離れていたわけでもないんだが……」
イズミは溜め息をつきながらもう一度ベッドに腰掛け、複雑な表情で考え込み始めた。
「うーん……俺も寝てたからよく分かんねぇけど、人の気配は感じなかったぜ? イズミ以外の人だったらすぐ分かるはずなんだけど……」
「俺以外ってどういう意味だよ」
イズミはムッとした表情をするとタクヤを睨みつけた。
「睨むなってっ。変な意味じゃなくて、イズミの気配は把握してるつもりだからってことっ!……一応ね」
イズミに睨まれ、慌てて弁解するタクヤであったが、言った後で自信がなくなったのか一言付け加えていた。
「ふんっ。で、そいつは本当に只のぬいぐるみなのか? 誰かが置いてったんじゃないんだとしたら、そいつに何かあるのかもしれん」
イズミは不機嫌に鼻を鳴らすと、今度はぬいぐるみをじっと訝しげに見つめた。
「たぶん……。なんにも仕込まれてないと思うけど――」
タクヤはぬいぐるみを逆さにしてみる。
「やめてっ!」
突然少女の声が聞こえ、2人はぎょっとして声の方向を見る。
ドアのすぐ前で10歳前後と思われる少女がタクヤを睨み付け立っていた。
「いつの間に……」
タクヤはぬいぐるみを持ったまま唖然としていた。
ドアが開けられる音はしなかった。
そして、人の気配も全く感じられなかったのだ。
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