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第10章『お前は誰だ』
8話※閲覧注意
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急いで駆け寄り少女を抱き上げると、その場から離れる。
タクヤと少女の横に大量の瓦礫が落ちてきた。間一髪間に合ったように見えたが、瓦礫の一部がタクヤの左肩へと落ち、怪我を負ってしまった。
「タクヤっ!」
イズミはタクヤより一歩遅れて駆けつけたが、既にタクヤが負傷した後であった。
「いってぇ……」
少女を抱き上げたまま痛みで顔を顰めながら膝をつく。
左肩の負傷した箇所から出血しているのか、タクヤの左手を伝って地面に血がぽたりと落ちた。
「っ!?」
それを見た瞬間、イズミは真っ青な顔でタクヤに駆け寄る。そして両膝をつくとタクヤの左肩をしっかりと押さえて止血する。負傷したタクヤよりも辛そうな顔をしている。
そしてタクヤはちらりとイズミを見るとそっと地面に少女を下ろした。
「バカが……何やってんだよ」
発した言葉と表情とが全く合っていない。イズミは眉間に皺を寄せながら傷を治そうと必死に念じている。
心配しているのがタクヤでも分かるくらいであった。
「……ごめん。この子を助けようとしたんだけど、少し間に合わなかった」
タクヤのせいではないのだが、なんとなく謝ってしまう。イズミを心配させたことへの謝罪だった。
「うるせぇ黙ってろ。集中できねぇ」
「……ごめん」
イズミが本当に怒っているわけではないことは分かっている。
しかし、冷静さを失っているように見えるイズミをタクヤは心配そうに見つめていた。
「ララは悪くないもん」
いつの間にかふたりの横に立っていた少女が突然声を発した。
「っ!」
その声でハッとしたイズミはタクヤの肩から手を離し、タクヤを守るように少女とタクヤの間にそっと移動する。
肩まで伸びた金色の少しパーマのかかった柔らかそうな髪。大きな青い瞳。真っ白なフリルの付いたワンピースを着たその姿は、まるで人形のようであった。
思わずあの時の『人形』を思い出す。
「ララは悪くないもん」
不機嫌な顔をしてララは同じ言葉を繰り返した。
そしてイズミを睨み付けるようにじっと見下ろしている。
「……お前、どこから来た」
警戒心を露にしながらイズミはじろりとララを睨み付ける。こんな子供が廃墟にいる筈がない。
「あんたなんか全然キレイじゃない。アオイのがずっとキレイ」
「っ!?」
「ちょっとっ! イズミは綺麗だよっ! 何言ってんのっ!」
ララの言葉にイズミはなぜだか胸に何かが突き刺さったような感覚を受けた。
そしてイズミの後ろからタクヤが左肩を押さえながらララに向かって怒鳴る。苛ついた顔で睨み付けている。
「ララはアオイから頼まれたの。同じ『モノ』はいらないって」
まるで話が通じていないようだった。一体なんの話をしているのか、『アオイ』とは誰なのか。
「さっきから言ってる『アオイ』って誰だよっ?」
答えが返ってくるかは分からないが、タクヤはじっと睨み付けながらララに問い掛ける。
「ララの大事な人。アオイの言うことは絶対なの。だから、おにいちゃん達死んで」
そう言うとララは地面を蹴って高く跳んだ。
少し離れた所に着地すると、じっとふたりを睨み付けている。
「っ!」
軽やかに跳んだララの姿に思わずタクヤもイズミも呆然としてしまった。
こんなことがあんな小さな子供にできるのか?
しかし、すぐに冷静になったイズミがララに向かって再び問い掛ける。
「お前、何者だ。『アオイ』に頼まれたとか言ったな。そいつは何者なんだ。なぜ俺たちを狙う」
「知らない。ララは頼まれただけ。だから殺す」
無表情のまま淡々と機械のように答えると、ララはふたりに向かって両手を翳した。
すると手の平から突然光のようなものが現れ、ふたりの方へと飛んできた。
「っ!」
ハッとしてイズミはすぐに左手を翳す。その瞬間、バチっという音と共に光が跳ね返された。
「イズミっ!」
思わずタクヤが声を上げた。
イズミの左手から瞬時に光が出て、それは一瞬にして広がったかと思うと、ふたりの前に光の壁を作っていたのだ。それによってララが放った光は跳ね返され、そのまま飛び散っていた。
しかし、光の威力が強かったのか、ぶつかった瞬間の衝撃の後、イズミは苦痛の表情を浮かべている。
「イズミ? 大丈夫か?」
タクヤが心配そうに声を掛ける。しかし、タクヤ自身も左肩からじわりと血が滲み出ていた。
「あぁ……あのガキ、魔法使いだ」
眉間に皺を寄せながらイズミは舌打ちをする。
「魔法使い? あんなに小さいのに?」
驚いた表情をしながらタクヤはちらりとララを見る。
「稀に生まれ持ってそういう力がある人間がいる。あのガキもそういう類だろう」
そう話したイズミの言葉に、タクヤはふとルカのことを思い出していた。
しかし次の瞬間、再びララからの攻撃がふたりを襲った。
すぐにイズミが光の壁で防ぐが、ララからの攻撃が連続的になり、段々持たなくなってきていた。
更に苦しそうに顔を歪めている。
「イズミっ! ダメだっ、イズミが倒れちゃうよ。俺がなんとかしてみるっ」
そう言ってタクヤが立ち上がろうとする。
「ダメだ。お前じゃ無理だ。相手は人間なんだぞ。この前の人形とは違う」
すぐにイズミが制止する。そしてララの方を向いたまま厳しい口調で言い返した。
「分かんないけど、魔法なら、魔剣でなんとかできるかも」
そう言ってタクヤは右手に念を込める。
「お前、まだ怪我が治ってないのに、無茶だっ」
「大丈夫」
タクヤはぎゅっと両手で魔剣を握り締めララを見つめる。
そして右手に魔剣を持ち立ち上がると、地面を蹴り、ララを目掛けて高く跳んだ。
ぎゅっと魔剣を強く握り、剣を振り上げる。
その瞬間、タクヤが首に掛けていた青い石のペンダントが強い光を放った。
まるでフラッシュのようにカッと強い光が発せられ、思わず目を瞑る。
「キャアッ!!」
すると突然ララの叫び声がした。
タクヤは剣を振り下ろすことなくそのまま地面に着地する。
眩しさで目を細め、手を翳しながらイズミとララの姿を探す。
そして段々光が弱くなり、目の前にララの姿が見えてきた。両手で目を覆うようにして蹲っている。
「……?」
一体何が起きたのか。全く理解できず、タクヤは不思議そうにじっとララを見つめる。
反応のないララに近付こうとした時、
「……さ、ない……」
両手で目を覆ったまま、ララがぼそりと呟いた。
「何?」
聞き返しながらタクヤがララを覗き込もうとした時、ララがぱっと顔を上げた。
睨み付けているその大きな目からは血が流れ出ていた。
「なっ……」
なぜこんなことになったのか。タクヤは言葉を失った。
「こんなことしてっ……アオイが許さないんだからねっ!」
「そうだね」
ララが声を上げた瞬間、どこからか少年のような声が聞こえた。
イズミの声によく似ている。
タクヤはハッとしてイズミを振り返る。
しかし、イズミもまた周りを見回していた。
「もう少しできるかと思ったんだけどなぁ」
少し離れた建物の上からその声は聞こえた。
「っ!?」
タクヤとイズミはその姿を見て、同時に言葉を失った。
ふたりの視線の先には、イズミそっくりの少年が残念そうな顔でこちらを眺めていたのだ。
さらりとした肩より少し短めの黒髪。そして青い瞳の少年。年も背格好もイズミとよく似ている。
「アオイっ!」
ララが嬉しそうに声を上げる。
「もういらないや」
「えっ……アオイ? どうして?……いやっ!!」
少年がぼそりと呟いた言葉に、ララは真っ青な顔で必死に声を上げる。
「ゲームオーバー」
少年の冷ややかな言葉の後、空気を切り裂くような音と共に、ララの首が、飛んだ……。
タクヤと少女の横に大量の瓦礫が落ちてきた。間一髪間に合ったように見えたが、瓦礫の一部がタクヤの左肩へと落ち、怪我を負ってしまった。
「タクヤっ!」
イズミはタクヤより一歩遅れて駆けつけたが、既にタクヤが負傷した後であった。
「いってぇ……」
少女を抱き上げたまま痛みで顔を顰めながら膝をつく。
左肩の負傷した箇所から出血しているのか、タクヤの左手を伝って地面に血がぽたりと落ちた。
「っ!?」
それを見た瞬間、イズミは真っ青な顔でタクヤに駆け寄る。そして両膝をつくとタクヤの左肩をしっかりと押さえて止血する。負傷したタクヤよりも辛そうな顔をしている。
そしてタクヤはちらりとイズミを見るとそっと地面に少女を下ろした。
「バカが……何やってんだよ」
発した言葉と表情とが全く合っていない。イズミは眉間に皺を寄せながら傷を治そうと必死に念じている。
心配しているのがタクヤでも分かるくらいであった。
「……ごめん。この子を助けようとしたんだけど、少し間に合わなかった」
タクヤのせいではないのだが、なんとなく謝ってしまう。イズミを心配させたことへの謝罪だった。
「うるせぇ黙ってろ。集中できねぇ」
「……ごめん」
イズミが本当に怒っているわけではないことは分かっている。
しかし、冷静さを失っているように見えるイズミをタクヤは心配そうに見つめていた。
「ララは悪くないもん」
いつの間にかふたりの横に立っていた少女が突然声を発した。
「っ!」
その声でハッとしたイズミはタクヤの肩から手を離し、タクヤを守るように少女とタクヤの間にそっと移動する。
肩まで伸びた金色の少しパーマのかかった柔らかそうな髪。大きな青い瞳。真っ白なフリルの付いたワンピースを着たその姿は、まるで人形のようであった。
思わずあの時の『人形』を思い出す。
「ララは悪くないもん」
不機嫌な顔をしてララは同じ言葉を繰り返した。
そしてイズミを睨み付けるようにじっと見下ろしている。
「……お前、どこから来た」
警戒心を露にしながらイズミはじろりとララを睨み付ける。こんな子供が廃墟にいる筈がない。
「あんたなんか全然キレイじゃない。アオイのがずっとキレイ」
「っ!?」
「ちょっとっ! イズミは綺麗だよっ! 何言ってんのっ!」
ララの言葉にイズミはなぜだか胸に何かが突き刺さったような感覚を受けた。
そしてイズミの後ろからタクヤが左肩を押さえながらララに向かって怒鳴る。苛ついた顔で睨み付けている。
「ララはアオイから頼まれたの。同じ『モノ』はいらないって」
まるで話が通じていないようだった。一体なんの話をしているのか、『アオイ』とは誰なのか。
「さっきから言ってる『アオイ』って誰だよっ?」
答えが返ってくるかは分からないが、タクヤはじっと睨み付けながらララに問い掛ける。
「ララの大事な人。アオイの言うことは絶対なの。だから、おにいちゃん達死んで」
そう言うとララは地面を蹴って高く跳んだ。
少し離れた所に着地すると、じっとふたりを睨み付けている。
「っ!」
軽やかに跳んだララの姿に思わずタクヤもイズミも呆然としてしまった。
こんなことがあんな小さな子供にできるのか?
しかし、すぐに冷静になったイズミがララに向かって再び問い掛ける。
「お前、何者だ。『アオイ』に頼まれたとか言ったな。そいつは何者なんだ。なぜ俺たちを狙う」
「知らない。ララは頼まれただけ。だから殺す」
無表情のまま淡々と機械のように答えると、ララはふたりに向かって両手を翳した。
すると手の平から突然光のようなものが現れ、ふたりの方へと飛んできた。
「っ!」
ハッとしてイズミはすぐに左手を翳す。その瞬間、バチっという音と共に光が跳ね返された。
「イズミっ!」
思わずタクヤが声を上げた。
イズミの左手から瞬時に光が出て、それは一瞬にして広がったかと思うと、ふたりの前に光の壁を作っていたのだ。それによってララが放った光は跳ね返され、そのまま飛び散っていた。
しかし、光の威力が強かったのか、ぶつかった瞬間の衝撃の後、イズミは苦痛の表情を浮かべている。
「イズミ? 大丈夫か?」
タクヤが心配そうに声を掛ける。しかし、タクヤ自身も左肩からじわりと血が滲み出ていた。
「あぁ……あのガキ、魔法使いだ」
眉間に皺を寄せながらイズミは舌打ちをする。
「魔法使い? あんなに小さいのに?」
驚いた表情をしながらタクヤはちらりとララを見る。
「稀に生まれ持ってそういう力がある人間がいる。あのガキもそういう類だろう」
そう話したイズミの言葉に、タクヤはふとルカのことを思い出していた。
しかし次の瞬間、再びララからの攻撃がふたりを襲った。
すぐにイズミが光の壁で防ぐが、ララからの攻撃が連続的になり、段々持たなくなってきていた。
更に苦しそうに顔を歪めている。
「イズミっ! ダメだっ、イズミが倒れちゃうよ。俺がなんとかしてみるっ」
そう言ってタクヤが立ち上がろうとする。
「ダメだ。お前じゃ無理だ。相手は人間なんだぞ。この前の人形とは違う」
すぐにイズミが制止する。そしてララの方を向いたまま厳しい口調で言い返した。
「分かんないけど、魔法なら、魔剣でなんとかできるかも」
そう言ってタクヤは右手に念を込める。
「お前、まだ怪我が治ってないのに、無茶だっ」
「大丈夫」
タクヤはぎゅっと両手で魔剣を握り締めララを見つめる。
そして右手に魔剣を持ち立ち上がると、地面を蹴り、ララを目掛けて高く跳んだ。
ぎゅっと魔剣を強く握り、剣を振り上げる。
その瞬間、タクヤが首に掛けていた青い石のペンダントが強い光を放った。
まるでフラッシュのようにカッと強い光が発せられ、思わず目を瞑る。
「キャアッ!!」
すると突然ララの叫び声がした。
タクヤは剣を振り下ろすことなくそのまま地面に着地する。
眩しさで目を細め、手を翳しながらイズミとララの姿を探す。
そして段々光が弱くなり、目の前にララの姿が見えてきた。両手で目を覆うようにして蹲っている。
「……?」
一体何が起きたのか。全く理解できず、タクヤは不思議そうにじっとララを見つめる。
反応のないララに近付こうとした時、
「……さ、ない……」
両手で目を覆ったまま、ララがぼそりと呟いた。
「何?」
聞き返しながらタクヤがララを覗き込もうとした時、ララがぱっと顔を上げた。
睨み付けているその大きな目からは血が流れ出ていた。
「なっ……」
なぜこんなことになったのか。タクヤは言葉を失った。
「こんなことしてっ……アオイが許さないんだからねっ!」
「そうだね」
ララが声を上げた瞬間、どこからか少年のような声が聞こえた。
イズミの声によく似ている。
タクヤはハッとしてイズミを振り返る。
しかし、イズミもまた周りを見回していた。
「もう少しできるかと思ったんだけどなぁ」
少し離れた建物の上からその声は聞こえた。
「っ!?」
タクヤとイズミはその姿を見て、同時に言葉を失った。
ふたりの視線の先には、イズミそっくりの少年が残念そうな顔でこちらを眺めていたのだ。
さらりとした肩より少し短めの黒髪。そして青い瞳の少年。年も背格好もイズミとよく似ている。
「アオイっ!」
ララが嬉しそうに声を上げる。
「もういらないや」
「えっ……アオイ? どうして?……いやっ!!」
少年がぼそりと呟いた言葉に、ララは真っ青な顔で必死に声を上げる。
「ゲームオーバー」
少年の冷ややかな言葉の後、空気を切り裂くような音と共に、ララの首が、飛んだ……。
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