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第13章『秘密』
1話
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冷たい雨が静かに降っている。
地面をしっとりと濡らし、小さな水溜りをいくつも作っている。
冷えた窓を指でくるくると円を描きながらタクヤはぼんやりと外を眺めた。
はぁっと窓に息を吹きかけると、うっすらと白く曇る。
そこにキュッキュッと指で『イズミ』と書いていく。
「……勝手に名前を書くな」
ベッドに仰向けになっていたイズミはちらりと窓の前に立つタクヤを眺め、呆れた顔でぼそりと呟いた。
「なぁ……あの森さ、なんだったんだろうな?」
タクヤはイズミの呟きを気にすることなく、『イズミ』と書いた周りに大きくハートマークを書いていた。
そして後ろを振り返ることなくイズミに問い掛ける。
「知るか……だからやめろっての」
面倒臭そうに答えると、イズミはタクヤの書いたものを見て嫌そうに顔を顰めた。
☆☆☆
再び4人が揃った時、すぐ近くに出口を発見した。
いや、発見したというよりも、突然現れたといった方が正しいかもしれない。
先が見えない程の暗闇はなく、明るくはないが、はっきりと周りを確認することができる。
森を覆っていたはずの木の葉の間からも微かに空が見える。
広く思えた森は、入り口と出口がはっきりと確認できる程の広さで、100メートルにも満たないだろう。
木々もさほど大きくはなく、触れられる位置にも枝や葉が生えている。
足元には草花も見られた。
まるで、別の森に瞬間移動でもしたかのようだった。
出口まで来ると雨は小雨になっていた。
そして、少し先には町が見える。
森に入る前、町や村などは全く見えていなかったはずだ。
町を目の前にしてタクヤは迷っていた。
森が幻であったのか、それとも今見えている世界が幻なのか……。
「どうする? あの町本物だと思う?」
腕を組み、首を傾げながらタクヤは横に立つイズミを見つめる。
「さぁな……幻だったとしても、ここに留まる訳にはいかないだろう」
イズミはタクヤを見ることなく難しい顔をして答える。
「全部が幻かも?」
後ろでふたりの会話を聞いていたカイは悪戯っぽく笑っている。
「ええっ! 俺もう疲れたよぉ。ちょっと休みたい~」
カイの言葉にぎょっとすると、リョウはカイの上着の裾を掴みながら口を尖らせた。
「ふふ。リョウ、冗談だよ。あの町には見覚えがある。幻ではないと思うよ」
「ほんとっ?」
「あぁ、本当だよ」
嬉しそうに目を輝かせるリョウを、カイはにこりと笑いながら見下ろす。
「そうなのか?」
後ろを振り返りタクヤがカイに問い掛ける。
「罠かもしれないぞ」
すると勝手についてきていたアキラが横から口を挟んだ。
先程は暗がりの為、はっきりとは分からなかったが、濃い茶色の短めの髪に少し目尻の上がった赤い瞳をしている。身長と年齢はやはりタクヤと同じくらいのようだ。
「じゃあアンタは来なければいいじゃん。行こう、イズミ」
ちらっとアキラを睨み付けると、タクヤはイズミに声を掛けて歩き出した。
「そうだな」
イズミは淡々と答えるとゆっくりとタクヤに続いた。
「えっ! イズミ待って、俺も行くっ!」
タクヤを睨み返していたアキラだったが、ぎょっとした顔をすると慌ててイズミを追い掛ける。
「……大丈夫かなぁ」
先を歩く3人を見ながらリョウはぼそりと独り言を呟いていた。
「ん? 何が?」
カイはリョウの独り言に反応してきょとんとした顔で首を傾げる。
「……うん。タクヤとイズミ。なんかあの人に邪魔されなきゃいいなって」
ふぅっと深く溜め息を付くと、リョウは心配そうな顔でじっとカイを見上げる。
「心配ないよ。さ、俺たちも行こう」
柔らかく笑い、カイはリョウの頭をぽんぽんと軽く叩くと先に歩き出した。
「もうっ、頭触るなってばっ!」
頭を押さえ、リョウは顔を赤くしながら慌ててカイの後を追う。
☆☆☆
そして今、宿屋の一室である。
それぞれ部屋を取り、タクヤはイズミと同じ部屋にいた。
窓に書いた文字はそのまま消さずにそっとベッドへと腰掛ける。
「なぁ、やっぱ変だよな? あの森」
珍しく窓側のベッドに腰掛けていたタクヤは、窓の外を眺めながらもう一度イズミに問い掛けた。
「…………」
しかし、今度はイズミからの返事はなかった。
不思議に思い、タクヤは後ろを振り返る。
すると眠ってしまったのか、イズミは仰向けのまま目を閉じていた。
首を傾げてイズミにもう一度声を掛けてみる。
「イズミ? 寝たの?」
「……起きてる」
ぼそりと声だけが返ってきた。
イズミは目を開けることなく、じっとそのままの状態で動かない。
「……どうかしたのか? 眠いの?」
首を傾げたままタクヤはベッドの上に登り、座った姿勢でじっとイズミを見つめる。
「別に」
目を開けることなく、イズミは一言ぼそりと答える。
「……ふぅーん。まぁいっか」
それ以上イズミの反応を待つことを諦めると、自分もそのままベッドの上に寝転がった。
「そういや、お前のペンダント、どうなった?」
ハッと急に思い出したように体を起こすと、イズミはじっとタクヤを見る。
今度はタクヤからの反応がない。
「おい」
ベッドから下りて近くからタクヤに声を掛ける。
すると、スースーと穏やかな寝息が聞こえてきた。
「寝てんのかよっ」
がっくりと脱力し、イズミは深く溜め息を付いた。
☆☆☆
隣の部屋では、部屋に入った途端にベッドで眠ってしまったリョウを、カイが自分もベッドに腰掛けながら複雑な表情で眺めていた。
「……俺が守るから」
ぼそりと呟き立ち上がると、そのままひとり部屋を出て行った。
「ん……カイ兄……」
パタンというドアが閉まる音で目が覚めた。
横になったままリョウはぼんやりと周りを見回す。
「……あれ?」
ふとカイがいないことに気が付き、慌てて体を起こした。
ベッドの上に座り込んだままカイを探す。
「カイ兄?」
反応がないかと声を掛けてみる。
しかし、カイからの返事はない。
「出掛けたのかなぁ?」
ゆっくりとベッドから下りると、カイを探す為、部屋の外へと出る。
廊下に出てみるがやはりカイの姿はない。
しんと静まり返った廊下をひとり、ゆっくりと歩く。
立ち止まり、廊下の窓から外を覗いてみる。
先程まで降っていた雨はすっかり止んでいた。
太陽は顔を出すことなく、どんよりとした重たい雲が空を覆っている。
「もしかして、外行ったのかな?」
ぼそりと呟くと、リョウは足早に階段を駆け下りた。
地面をしっとりと濡らし、小さな水溜りをいくつも作っている。
冷えた窓を指でくるくると円を描きながらタクヤはぼんやりと外を眺めた。
はぁっと窓に息を吹きかけると、うっすらと白く曇る。
そこにキュッキュッと指で『イズミ』と書いていく。
「……勝手に名前を書くな」
ベッドに仰向けになっていたイズミはちらりと窓の前に立つタクヤを眺め、呆れた顔でぼそりと呟いた。
「なぁ……あの森さ、なんだったんだろうな?」
タクヤはイズミの呟きを気にすることなく、『イズミ』と書いた周りに大きくハートマークを書いていた。
そして後ろを振り返ることなくイズミに問い掛ける。
「知るか……だからやめろっての」
面倒臭そうに答えると、イズミはタクヤの書いたものを見て嫌そうに顔を顰めた。
☆☆☆
再び4人が揃った時、すぐ近くに出口を発見した。
いや、発見したというよりも、突然現れたといった方が正しいかもしれない。
先が見えない程の暗闇はなく、明るくはないが、はっきりと周りを確認することができる。
森を覆っていたはずの木の葉の間からも微かに空が見える。
広く思えた森は、入り口と出口がはっきりと確認できる程の広さで、100メートルにも満たないだろう。
木々もさほど大きくはなく、触れられる位置にも枝や葉が生えている。
足元には草花も見られた。
まるで、別の森に瞬間移動でもしたかのようだった。
出口まで来ると雨は小雨になっていた。
そして、少し先には町が見える。
森に入る前、町や村などは全く見えていなかったはずだ。
町を目の前にしてタクヤは迷っていた。
森が幻であったのか、それとも今見えている世界が幻なのか……。
「どうする? あの町本物だと思う?」
腕を組み、首を傾げながらタクヤは横に立つイズミを見つめる。
「さぁな……幻だったとしても、ここに留まる訳にはいかないだろう」
イズミはタクヤを見ることなく難しい顔をして答える。
「全部が幻かも?」
後ろでふたりの会話を聞いていたカイは悪戯っぽく笑っている。
「ええっ! 俺もう疲れたよぉ。ちょっと休みたい~」
カイの言葉にぎょっとすると、リョウはカイの上着の裾を掴みながら口を尖らせた。
「ふふ。リョウ、冗談だよ。あの町には見覚えがある。幻ではないと思うよ」
「ほんとっ?」
「あぁ、本当だよ」
嬉しそうに目を輝かせるリョウを、カイはにこりと笑いながら見下ろす。
「そうなのか?」
後ろを振り返りタクヤがカイに問い掛ける。
「罠かもしれないぞ」
すると勝手についてきていたアキラが横から口を挟んだ。
先程は暗がりの為、はっきりとは分からなかったが、濃い茶色の短めの髪に少し目尻の上がった赤い瞳をしている。身長と年齢はやはりタクヤと同じくらいのようだ。
「じゃあアンタは来なければいいじゃん。行こう、イズミ」
ちらっとアキラを睨み付けると、タクヤはイズミに声を掛けて歩き出した。
「そうだな」
イズミは淡々と答えるとゆっくりとタクヤに続いた。
「えっ! イズミ待って、俺も行くっ!」
タクヤを睨み返していたアキラだったが、ぎょっとした顔をすると慌ててイズミを追い掛ける。
「……大丈夫かなぁ」
先を歩く3人を見ながらリョウはぼそりと独り言を呟いていた。
「ん? 何が?」
カイはリョウの独り言に反応してきょとんとした顔で首を傾げる。
「……うん。タクヤとイズミ。なんかあの人に邪魔されなきゃいいなって」
ふぅっと深く溜め息を付くと、リョウは心配そうな顔でじっとカイを見上げる。
「心配ないよ。さ、俺たちも行こう」
柔らかく笑い、カイはリョウの頭をぽんぽんと軽く叩くと先に歩き出した。
「もうっ、頭触るなってばっ!」
頭を押さえ、リョウは顔を赤くしながら慌ててカイの後を追う。
☆☆☆
そして今、宿屋の一室である。
それぞれ部屋を取り、タクヤはイズミと同じ部屋にいた。
窓に書いた文字はそのまま消さずにそっとベッドへと腰掛ける。
「なぁ、やっぱ変だよな? あの森」
珍しく窓側のベッドに腰掛けていたタクヤは、窓の外を眺めながらもう一度イズミに問い掛けた。
「…………」
しかし、今度はイズミからの返事はなかった。
不思議に思い、タクヤは後ろを振り返る。
すると眠ってしまったのか、イズミは仰向けのまま目を閉じていた。
首を傾げてイズミにもう一度声を掛けてみる。
「イズミ? 寝たの?」
「……起きてる」
ぼそりと声だけが返ってきた。
イズミは目を開けることなく、じっとそのままの状態で動かない。
「……どうかしたのか? 眠いの?」
首を傾げたままタクヤはベッドの上に登り、座った姿勢でじっとイズミを見つめる。
「別に」
目を開けることなく、イズミは一言ぼそりと答える。
「……ふぅーん。まぁいっか」
それ以上イズミの反応を待つことを諦めると、自分もそのままベッドの上に寝転がった。
「そういや、お前のペンダント、どうなった?」
ハッと急に思い出したように体を起こすと、イズミはじっとタクヤを見る。
今度はタクヤからの反応がない。
「おい」
ベッドから下りて近くからタクヤに声を掛ける。
すると、スースーと穏やかな寝息が聞こえてきた。
「寝てんのかよっ」
がっくりと脱力し、イズミは深く溜め息を付いた。
☆☆☆
隣の部屋では、部屋に入った途端にベッドで眠ってしまったリョウを、カイが自分もベッドに腰掛けながら複雑な表情で眺めていた。
「……俺が守るから」
ぼそりと呟き立ち上がると、そのままひとり部屋を出て行った。
「ん……カイ兄……」
パタンというドアが閉まる音で目が覚めた。
横になったままリョウはぼんやりと周りを見回す。
「……あれ?」
ふとカイがいないことに気が付き、慌てて体を起こした。
ベッドの上に座り込んだままカイを探す。
「カイ兄?」
反応がないかと声を掛けてみる。
しかし、カイからの返事はない。
「出掛けたのかなぁ?」
ゆっくりとベッドから下りると、カイを探す為、部屋の外へと出る。
廊下に出てみるがやはりカイの姿はない。
しんと静まり返った廊下をひとり、ゆっくりと歩く。
立ち止まり、廊下の窓から外を覗いてみる。
先程まで降っていた雨はすっかり止んでいた。
太陽は顔を出すことなく、どんよりとした重たい雲が空を覆っている。
「もしかして、外行ったのかな?」
ぼそりと呟くと、リョウは足早に階段を駆け下りた。
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