【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】

暖夢 由

文字の大きさ
10 / 166
第1章

初めて呼ばれた名前


トムと手分けして書類を作成した父は翌朝には裁判所へ申請書類を提出しに行った。一晩経っても怒りは収まらなかったらしく、気合十分に「裁判所へ行ってくる」と行った。
これであちらが婚約破棄の書類にサインさえすれば婚約破棄成立になる。


あんなに多くの招待客がいる前での婚約破棄宣言。サインしない選択肢はない……はず。
憂鬱な婚約ではあったけど、困った婚約者程度に思っていた。いや、実際はそれよりも嫌だとは思っていたけれど。
いずれこの人と家庭を作る。子どもでもできたらもっと親密になり、歩み寄ることができるだろうか、安心できる存在になるだろうかと。そんなことも考えていた。
だが、昨日のあれで困った婚約者ではなく、大嫌いな元婚約者になってしまったので一日でも早く婚約破棄が成立してほしい。




翌日私は普段通り馬車で貴族校へ向かい、いつも通り学校の近くで下ろしてもらいそこから歩き始める。すると、その先にロディ様が立っているのが目に入る。


すでに卒業している方が学校の前にいるとは何事か。
パーティー後初めてみるロディ様はトムが言っていた通り、左頬が腫れ、青くなっている様子は少し痛々しい。そして彼が言っていた不貞腐れていたというのはこんな様子だったのだろう。確かに不本意そうな顔をしてそこに立っている。その顔を見てか、騒ぎを知っているからか、通り過ぎる人たちも彼の様子をちらちらと窺っていることがわかる。だがすでに私とはなんの関係もない人。だからそのまま目の前を過ぎようとすると私の名が呼ばれてしまった。


「サリー!」


あら、私の名前覚えてらっしゃったのね。
7年間婚約していたが、名前を呼ばれた記憶は一度もなかった。
そんな人に婚約破棄した後に名を呼ばれるだなんて、不愉快でしかない。


「ごきげんよう、ドルマン侯爵令息。大変申し訳ございませんが名前で呼ぶのはご遠慮いただけますか。周りから親しい仲と勘違いされてしまっては不愉快ですので」


「なっ!!!!

そ、そういう態度が、侯爵家にはふさわしくないんだ!」


私が不愉快と言うと、まるで子どもが地団駄でも踏むかのように足を地面にダンと落とし、侯爵家にふさわしくないと言う。今日は珍しく私の方を見て話をしてくれるらしい。
確かに私は侯爵家にふさわしくないかもしれないけど、ふさわしくある必要はすでにない。


「そうですか。しかし私、侯爵家とは何ら関りがございませんので、ふさわしくある必要がございません」


「ま、まだ私たちは婚約関係にある!」


あんなに多くの人の前で堂々と婚約破棄を宣言しておいて恥ずかしげもなくこんなことを言えるなんて、なんて器が小さくて、頭が足りない男なのかしら。
そう少しだけ感心してしまう。それと同時にこんな男と結婚することにならなくてよかったと心の底から思ってしまう。
こんな私たちのやり取りを学校に向かう生徒たちは足を止め、遠巻きに見ている。できればこれ以上注目される前にこの場を離れたいわ……


感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」 ――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。 処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。 今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!? 己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?! 襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、 誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、  誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。 今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです

早奈恵
恋愛
 ざまぁも有ります。  クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。  理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。  詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。  二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。

妹に幼馴染の彼をとられて父に家を追放された「この家の真の当主は私です!」

佐藤 美奈
恋愛
母の温もりを失った冬の日、アリシア・フォン・ルクセンブルクは、まだ幼い心に深い悲しみを刻み付けていた。公爵家の嫡女として何不自由なく育ってきた彼女の日常は、母の死を境に音を立てて崩れ始めた。 父は、まるで悲しみを振り払うかのように、すぐに新しい妻を迎え入れた。その女性とその娘ローラが、ルクセンブルク公爵邸に足を踏み入れた日から、アリシアの運命は暗転する。 再婚相手とその娘ローラが公爵邸に住むようになり、父は実の娘であるアリシアに対して冷淡になった。継母とその娘ローラは、アリシアに対して日常的にそっけない態度をとっていた。さらに、ローラの策略によって、アリシアは婚約者である幼馴染のオリバーに婚約破棄されてしまう。 そして最終的に、父からも怒られ家を追い出されてしまうという非常に辛い状況に置かれてしまった。

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

王子に婚約破棄されて国を追放「魔法が使えない女は必要ない!」彼女の隠された能力と本来の姿がわかり誰もが泣き叫ぶ。

佐藤 美奈
恋愛
クロエ・エルフェシウス公爵令嬢とガブリエル・フォートグランデ王太子殿下は婚約が内定する。まだ公の場で発表してないだけで、王家と公爵家の間で約束を取り交わしていた。 だが帝立魔法学園の創立記念パーティーで婚約破棄を宣言されてしまった。ガブリエルは魔法の才能がある幼馴染のアンジェリカ男爵令嬢を溺愛して結婚を決めたのです。 その理由は、ディオール帝国は魔法至上主義で魔法帝国と称される。クロエは魔法が一番大切な国で一人だけ魔法が全然使えない女性だった。 クロエは魔法が使えないことに、特に気にしていませんでしたが、日常的に家族から無能と言われて、赤の他人までに冷たい目で見られてしまう。 ところがクロエは魔法帝国に、なくてはならない女性でした。絶対に必要な隠された能力を持っていた。彼女の真の姿が明らかになると、誰もが彼女に泣いて謝罪を繰り返し助けてと悲鳴を上げ続けた。

大勢の前で婚約破棄を言い渡されましたが、それは幸せへの道の第一歩でした

明衣令央
恋愛
 アリア・ファインズ公爵令嬢は、ウクブレスト王から王太子のディスタル・ウクブレストの婚約者にと望まれたが、それが気に入らない王太子ディスタルとその恋人に嵌められ、大勢のギャラリーの前で、婚約破棄を言い渡された上、毒と呪いで喉を潰されてしまった。  傷ついたアリアは、静養も兼ねて姉が嫁いだ隣国のフデルデントへと向かう。  そこで彼女は王太子リカルド・フレルデントに出会い、フレルデントの大自然に触れ、リカルドのそばで心身ともに少しずつ回復していく。  彼女は大勢の前で婚約破棄を言い渡されて傷つけられたが、それは本当の幸せへの第一歩だった。