「君は健康だから我慢できるだろう」と言われ続けたので離縁しました。――義妹の嘘が社交界で暴かれます

暖夢 由

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これで……終わり


「もし私が体調を崩したら、どうされますか?」

 クラリモンドは少し驚いた顔をした。

「君が?」

「はい」

「……君は健康だろう」

 その答えに、マリアは思わず笑ってしまった。

「ええ。そうですね」

「だからそんな心配は――」

「では」

 マリアは言葉を続けた。

「もし私とシャリルンが同時に倒れたら?」

 クラリモンドは少しだけ考えた。

 そして、何の迷いもなく答えた。

「それはもちろんシャリルンだ」

 マリアは目を閉じた。

 やはりそうなのだ。

「君は強い」

 クラリモンドは言う。

「健康だし、回復も早いだろう」

 そして当たり前のように続けた。

「だがシャリルンは違う。あの子は弱いんだ」


 マリアの胸の奥で、何かが静かに切れた。

 怒りではない。

 悲しみでもない。

 もっと静かなもの。

 諦めだった。

 マリアは立ち上がった。

「クラリモンド様」


「なんだ?」

「もう行って差し上げてください」

「え?」

「シャリルン様が待っているのでしょう?」

 クラリモンドは少しほっとした顔をした。

「ああ、すまない」


 そして部屋を出て行こうとする。

 その背中を見ながら、マリアは思った。

 きっと彼は悪い人ではない。

 ただ――

 優しさの向け方を間違えている。

 ドアに手をかけたクラリモンドが振り返る。

「マリア」

「はい」

「今日は悪かったな」

 その言葉は軽かった。

 とても軽く。

 マリアの一年よりも軽い。

「いえ」

 マリアは微笑んだ。

「慣れていますから」

 クラリモンドは気づかなかった。

 その言葉が、もう妻としてのものではないことに。

 ドアが閉まると部屋は静かになった。

 マリアは机に向かった。

 引き出しを開け、白い紙を取り出す。

 そしてペンを握った。

 インクが紙に染み込んでいく。

 一文字ずつ、ゆっくりと書きこむ。

 やがて、マリアはペンを置いた。

 紙の上にははっきりと書かれている。

 離婚届。

 マリアはそれを見つめながら、小さく息を吐いた。

「これで……終わりですね」

 その声は、驚くほど穏やかだった。


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