「君は健康だから我慢できるだろう」と言われ続けたので離縁しました。――義妹の嘘が社交界で暴かれます

暖夢 由

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“お姫様になる”

侯爵が静かに言う。

「子どもがこう書く時、大抵は、二つです」

マリアが顔を上げる。

「二つ?」

「ええ」

侯爵は落ち着いた声で続けた。

「本当に誰かに傷つけられているか、あるいは……」

ほんのわずか間を置く。

「世界すべてが敵だと思っているか」

マリアの胸がわずかに締めつけられる。侯爵は紙を机に戻した。

「どちらにせよこの言葉は……“助けを求める言葉”ではありません」

マリアが息をのむ。侯爵は続けた。

「これは……宣言です」

その言葉が、部屋の中に落ちた。修道女が小さく目を伏せる。

「……ええ。私も、そう思いました」

マリアは再び紙を見た。短い言葉。だが、そこには確かな意志がある。
守る。自分で。
マリアの胸に、ふとある記憶がよぎる。
シャリルンが泣いていた日。青白い顔、震える肩。そして涙の奥で、ほんの一瞬だけ見えた――あの目。
マリアはゆっくり目を閉じた。そして小さく言う。

「……あの子は」

言葉を探す。侯爵が静かに待っている。マリアは続けた。

「誰かに守られたかったのではなく、自分で守ることを選んだ」

侯爵の口元がわずかに動く。

「ええ」

静かな肯定だった。マリアは紙をそっと机に戻した。その時だった。修道女が、ふと思い出したように言った。

「そういえば」

二人が視線を向ける。修道女は少し迷ったあと、続けた。

「もう一枚、紙がありました」

マリアの眉がわずかに動く。

「もう一枚?」

修道女は頷く。

「ええ、ですが、それは」

少し声を落とす。

「ここにはありません」

侯爵が静かに聞いた。

「ではどこに」

修道女は答えた。

「男爵家に引き取られる日に、あの子が自分で持って行きました」

マリアの胸が、どくんと鳴った。侯爵が低く聞く。

「その紙には」

修道女は窓の外を見た。遠くの庭。子どもたちがかつて遊んでいた場所。そして、静かに言った。

「……こう書いてありました――“お姫様になる”」

マリアの呼吸が、わずかに止まった。

「……お姫様?」

思わず、聞き返していた。修道女はゆっくり頷く。

「ええ」

静かな声だった。

「幼い子どもが書いたものですから、その言葉自体は、珍しいものではありません」

確かにそうだ。子どもたちは夢を描く。 ”お姫様” ”王子様” ”物語の主人公”

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