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見たいものだけを見た代償
「トラブルを起こす。悪者を仕立て、孤立させる。そして――消えても不自然ではない状況を作る。
ねえ、シャリルン嬢?」
「……え?」
「あなたが泣いた日に、誰かが消えている」
流れる沈黙。シャリルンが首を振る。
「そんな……違う……!
私は……何もしていない……!」
侯爵は淡々と続ける。
「証言、記録、金の流れ。すべてが揃っています」
一枚の書類が、静かに差し出される。示される証拠に逃げ場はなかった。
「……まさか」
「そんなことが……」
ざわめきが広がる。キョロキョロとあたりを確認するように頭を動かし、周りの様子を確認するシャリルン。耐えかねるようにシャリルンの呼吸が乱れる。
「本当に違うの……私は……ただ……」
その声が揺れる。
「院長に脅されたの……」
かすれた声。
「仕方ないじゃない…やらなければ、自分が――お願い……信じて」
潤んだ瞳で、侯爵を見つめる。そして、縋るように隣の男爵へと視線を向けた。だが――誰も、動かなかった。その言葉を、信じる者は一人もいない。その隣で、クラリモンドはただ立ち尽くしていた。
「……そんな……」
信じていたものが崩れていく。
「マリア……」
思わず、その名を口にする。 その時、静かに扉が開く。その先に――マリアがいた。その場にいた全員の視線が、一斉に向けられる。
「……マリア」
クラリモンドが、弾かれたように駆け寄る。
「俺は騙されていたんだ……!」
声は焦りに満ちていた。
「人身売買なんて……こんな性悪……」
一瞬、言葉に詰まる。
「俺の妹なんかじゃない!」
そして、手を伸ばす。
「お前は分かってくれるよな?」
縋るような声。
「俺にはお前だけなんだ。戻ってきてくれ」
――その言葉に会場が、しんと静まり返る。その静寂を――甲高い声が引き裂いた。
「なっ……!」
シャリルンだった。よろめくように一歩踏み出し、クラリモンドの腕にしがみつく。
「私がいれば、それでいいって言ったじゃない……!」
震える声。
「お兄様……!」
だがクラリモンドは――動かなかった。視線は、ただ一人。マリアに向けられている。
「……マリア」
かすれた声。
「頼む……愛してるんだ………」
マリアは、静かに二人を見ていた。そしてゆっくりと、口を開く。
「あなたは騙されていたのではありませんよね」
確認するように落ち着いた声で尋ねた。クラリモンドはマリアをただただ見つめた。その視線には、消えきらない期待が残っていた。だが続く言葉はその期待を裏切るものだった。
「見たいものだけを見たいように見ていただけでしょう」
クラリモンドの顔が固まる。 マリアは続ける。
「そして見たくないものから、目を逸らし続けた。私からも…そして今はあれだけかばい続けたシャリルン様からも」
クラリモンドは何も言えなかった。
やがて―― 憲兵が動く。 シャリルンは連れて行かれた。 最後まで泣き続けながら。 だが、その涙はもう誰にも届かなかった。
ねえ、シャリルン嬢?」
「……え?」
「あなたが泣いた日に、誰かが消えている」
流れる沈黙。シャリルンが首を振る。
「そんな……違う……!
私は……何もしていない……!」
侯爵は淡々と続ける。
「証言、記録、金の流れ。すべてが揃っています」
一枚の書類が、静かに差し出される。示される証拠に逃げ場はなかった。
「……まさか」
「そんなことが……」
ざわめきが広がる。キョロキョロとあたりを確認するように頭を動かし、周りの様子を確認するシャリルン。耐えかねるようにシャリルンの呼吸が乱れる。
「本当に違うの……私は……ただ……」
その声が揺れる。
「院長に脅されたの……」
かすれた声。
「仕方ないじゃない…やらなければ、自分が――お願い……信じて」
潤んだ瞳で、侯爵を見つめる。そして、縋るように隣の男爵へと視線を向けた。だが――誰も、動かなかった。その言葉を、信じる者は一人もいない。その隣で、クラリモンドはただ立ち尽くしていた。
「……そんな……」
信じていたものが崩れていく。
「マリア……」
思わず、その名を口にする。 その時、静かに扉が開く。その先に――マリアがいた。その場にいた全員の視線が、一斉に向けられる。
「……マリア」
クラリモンドが、弾かれたように駆け寄る。
「俺は騙されていたんだ……!」
声は焦りに満ちていた。
「人身売買なんて……こんな性悪……」
一瞬、言葉に詰まる。
「俺の妹なんかじゃない!」
そして、手を伸ばす。
「お前は分かってくれるよな?」
縋るような声。
「俺にはお前だけなんだ。戻ってきてくれ」
――その言葉に会場が、しんと静まり返る。その静寂を――甲高い声が引き裂いた。
「なっ……!」
シャリルンだった。よろめくように一歩踏み出し、クラリモンドの腕にしがみつく。
「私がいれば、それでいいって言ったじゃない……!」
震える声。
「お兄様……!」
だがクラリモンドは――動かなかった。視線は、ただ一人。マリアに向けられている。
「……マリア」
かすれた声。
「頼む……愛してるんだ………」
マリアは、静かに二人を見ていた。そしてゆっくりと、口を開く。
「あなたは騙されていたのではありませんよね」
確認するように落ち着いた声で尋ねた。クラリモンドはマリアをただただ見つめた。その視線には、消えきらない期待が残っていた。だが続く言葉はその期待を裏切るものだった。
「見たいものだけを見たいように見ていただけでしょう」
クラリモンドの顔が固まる。 マリアは続ける。
「そして見たくないものから、目を逸らし続けた。私からも…そして今はあれだけかばい続けたシャリルン様からも」
クラリモンドは何も言えなかった。
やがて―― 憲兵が動く。 シャリルンは連れて行かれた。 最後まで泣き続けながら。 だが、その涙はもう誰にも届かなかった。
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