25 / 104
予期せぬ訪問者
しおりを挟む
次の日、いつもよりも少し遅く目覚めるとアステルはステラを探して家中を歩き回った。しかしどこにもいない。外に遊びに行ったのかと思って玄関に向かうとやはり鍵が開いていた。
最近は友達と遊ぶことが好きで好きで仕方がないのか母に黙って出て行くことが度々あった。子供は元気が一番だと思っているが、心配なことに変わりはない。もし誘拐されたらと不安になり、探しに行こうと扉を開けるとアステルはまさかの再会に驚いてしまった。
「ああ、どうも」
「な、何をしているんですかラーシェルドさん」
そこに居たのはエルフの吟遊詩人のラーシェルドが切り株の上に立っているヴァンに向かって何かを話しかけていたところであった。そのヴァンは何やら不機嫌そうな顔で唸っている。
「ちょっと重力魔法を彼に掛けましてね。それで今、話をしていたんですよ」
「やめてください!今すぐ解いてください!」
笑顔でとんでもないことを言うラーシェルドにアステルは慌てて駆け寄ると彼は肩をすくめて魔法を解いた。重力魔法から解き放たれたヴァンは逃げるようにアステルの肩に飛び乗ってきた。アステルはほっと胸をなで下ろすと、ラーシェルドはクスリと笑みを浮かべる。
「彼はとても珍しいフクロウですね」
「そうですか?普通のフクロウにしか見えませんけど……」
「よく見てくださいよ。一部の羽の色が他のフクロウと違っているでしょう?」
確かに言われてみると白に近い灰色の中にほんのりと赤っぽい部分がある。あまり気にしていなかったが、意識すれば気になる程度のものだ。今までほかの誰かに指摘されたことはなかったので気にしたことがなかった。
「そのフクロウは非常に珍しい『ヴァイスハイトフクロウ』です。エルフの森にしか生息していない。非常に賢く、とても長生きします」
「知りませんでした……」
アステルは感心した様子を見せると彼は何故か満足げに微笑む。
「わかる人にはわかるんです。相談なんですけど彼を私に売ってはくれませんかね」
「ダメです。ヴァンは私達の大切な家族ですから、お断りします」
突拍子もない提案にアステルは断固拒否の姿勢を示すと、今度は金貨の袋を懐から取り出した。
「じゃあこれならいかがでしょうか」
「お金に困ってませんから結構です」
「残念ですね……貴女がエルフじゃなければ寿命が尽きるのを待っていたのですが……」
「ですからヴァンは私の所有物ではなくて……」
「せめて彼に歌だけでも聞かせてあげたいものですねぇ……」
金貨の袋をしまうと今度は勝手にハープを弾き始め、その美しい音色に耳を傾けていると悲しかった気分が癒されるような気がしてアステルはつい聴き入ってしまった。
「お母さん、お母さん」
すると、いつの間にか帰ってきて、アステルの隣にやってきたステラまでもじっとその演奏に聞き惚れていた。やがて曲が終わり、小さく拍手をするとアステルは思わず感想を口にした。
「素敵でした……まるでおとぎ話の世界に入ったみたいで……こんな曲初めて聴いたわ……一体どこで習ったのですか?」
「これは私が昔、旅をしている時に森の中で偶然見つけた古い本に書いてありました。タイトルは確か……」
ラーシェルドの旅の話を興味深く聞いているとあっという間に時間が過ぎていった。それからしばらくしてアステルはステラを連れて家に戻ると早めの夕食の準備に取り掛かった。
さっきからステラの様子がおかしい。どこかそわそわしているというか、落ち着きがなく、自分の部屋に籠ってしまっている。
だが、アステルはあえて何も聞かずにいた。きっと昨日のシリウスの話を聞いて何か思うことがあったのだろう。なので今日は久々にステラの大好きなハンバーグを作ろう、彼女の好きな食べ物で元気になってもらいたい。
クリームシチューとハンバーグと卵サラダが完成するとテーブルに並べ、ステラを呼ぼうとした時、玄関の扉をノックする音が聞こえてきた。
「どなたですか?」
「……王都から来た騎士のものです。薬についてお聞きしたいことがあります」
玄関に向かうと扉の向こう側から声が聞こえる。そう言えば村中に騎士の姿を何度か目撃をしていたが、自分の作った薬に何か問題でもあったのだろうかと不安になりながらもステラのいる部屋の扉をちらりと見やった後、耳を隠すための頭巾を付けてからゆっくりとドアノブに手をかけた。
そして開かれた隙間から見えた人物を見てアステルは慌てて閉めようとしたが無理矢理こじ開けられてしまった。
「えっ、なっ……」
そこに居たのは騎士ではなく黒いローブに身を包んだ長身の男だった。フードを被っていて顔はよく見えないが、髪の色が銀色で古傷だらけの肌は褐色しており、瞳が赤く、口元に笑みを浮かべているのはわかった。
男は一歩前に出ると、腰にぶら下げてあった剣を抜き、それをこちらに刃先を向けてきたのだ。突然の出来事に頭が真っ白になり、体が動かない。
「大人しくしろ」
「な、何なんですかあなた達は……」
「黙れ!」
男に怒鳴られ、アステルはびくりとする。恐怖で足が震え、その場に立ち尽くして動けなくなってしまった。
「おい、抑えておけ」
「はい」
剣を持った男が合図をすると同時に他の男達がアステルの腕を掴み、一歩も動かせないように押さえつけた。
「しばらく眠っていてもらうぞ」
「待ってくださ……」
娘には何もしないでほしい。と頼む前に男が彼女の額を掴みながら直接睡眠魔法を唱えると、アステルはそのまま意識を失った。
最近は友達と遊ぶことが好きで好きで仕方がないのか母に黙って出て行くことが度々あった。子供は元気が一番だと思っているが、心配なことに変わりはない。もし誘拐されたらと不安になり、探しに行こうと扉を開けるとアステルはまさかの再会に驚いてしまった。
「ああ、どうも」
「な、何をしているんですかラーシェルドさん」
そこに居たのはエルフの吟遊詩人のラーシェルドが切り株の上に立っているヴァンに向かって何かを話しかけていたところであった。そのヴァンは何やら不機嫌そうな顔で唸っている。
「ちょっと重力魔法を彼に掛けましてね。それで今、話をしていたんですよ」
「やめてください!今すぐ解いてください!」
笑顔でとんでもないことを言うラーシェルドにアステルは慌てて駆け寄ると彼は肩をすくめて魔法を解いた。重力魔法から解き放たれたヴァンは逃げるようにアステルの肩に飛び乗ってきた。アステルはほっと胸をなで下ろすと、ラーシェルドはクスリと笑みを浮かべる。
「彼はとても珍しいフクロウですね」
「そうですか?普通のフクロウにしか見えませんけど……」
「よく見てくださいよ。一部の羽の色が他のフクロウと違っているでしょう?」
確かに言われてみると白に近い灰色の中にほんのりと赤っぽい部分がある。あまり気にしていなかったが、意識すれば気になる程度のものだ。今までほかの誰かに指摘されたことはなかったので気にしたことがなかった。
「そのフクロウは非常に珍しい『ヴァイスハイトフクロウ』です。エルフの森にしか生息していない。非常に賢く、とても長生きします」
「知りませんでした……」
アステルは感心した様子を見せると彼は何故か満足げに微笑む。
「わかる人にはわかるんです。相談なんですけど彼を私に売ってはくれませんかね」
「ダメです。ヴァンは私達の大切な家族ですから、お断りします」
突拍子もない提案にアステルは断固拒否の姿勢を示すと、今度は金貨の袋を懐から取り出した。
「じゃあこれならいかがでしょうか」
「お金に困ってませんから結構です」
「残念ですね……貴女がエルフじゃなければ寿命が尽きるのを待っていたのですが……」
「ですからヴァンは私の所有物ではなくて……」
「せめて彼に歌だけでも聞かせてあげたいものですねぇ……」
金貨の袋をしまうと今度は勝手にハープを弾き始め、その美しい音色に耳を傾けていると悲しかった気分が癒されるような気がしてアステルはつい聴き入ってしまった。
「お母さん、お母さん」
すると、いつの間にか帰ってきて、アステルの隣にやってきたステラまでもじっとその演奏に聞き惚れていた。やがて曲が終わり、小さく拍手をするとアステルは思わず感想を口にした。
「素敵でした……まるでおとぎ話の世界に入ったみたいで……こんな曲初めて聴いたわ……一体どこで習ったのですか?」
「これは私が昔、旅をしている時に森の中で偶然見つけた古い本に書いてありました。タイトルは確か……」
ラーシェルドの旅の話を興味深く聞いているとあっという間に時間が過ぎていった。それからしばらくしてアステルはステラを連れて家に戻ると早めの夕食の準備に取り掛かった。
さっきからステラの様子がおかしい。どこかそわそわしているというか、落ち着きがなく、自分の部屋に籠ってしまっている。
だが、アステルはあえて何も聞かずにいた。きっと昨日のシリウスの話を聞いて何か思うことがあったのだろう。なので今日は久々にステラの大好きなハンバーグを作ろう、彼女の好きな食べ物で元気になってもらいたい。
クリームシチューとハンバーグと卵サラダが完成するとテーブルに並べ、ステラを呼ぼうとした時、玄関の扉をノックする音が聞こえてきた。
「どなたですか?」
「……王都から来た騎士のものです。薬についてお聞きしたいことがあります」
玄関に向かうと扉の向こう側から声が聞こえる。そう言えば村中に騎士の姿を何度か目撃をしていたが、自分の作った薬に何か問題でもあったのだろうかと不安になりながらもステラのいる部屋の扉をちらりと見やった後、耳を隠すための頭巾を付けてからゆっくりとドアノブに手をかけた。
そして開かれた隙間から見えた人物を見てアステルは慌てて閉めようとしたが無理矢理こじ開けられてしまった。
「えっ、なっ……」
そこに居たのは騎士ではなく黒いローブに身を包んだ長身の男だった。フードを被っていて顔はよく見えないが、髪の色が銀色で古傷だらけの肌は褐色しており、瞳が赤く、口元に笑みを浮かべているのはわかった。
男は一歩前に出ると、腰にぶら下げてあった剣を抜き、それをこちらに刃先を向けてきたのだ。突然の出来事に頭が真っ白になり、体が動かない。
「大人しくしろ」
「な、何なんですかあなた達は……」
「黙れ!」
男に怒鳴られ、アステルはびくりとする。恐怖で足が震え、その場に立ち尽くして動けなくなってしまった。
「おい、抑えておけ」
「はい」
剣を持った男が合図をすると同時に他の男達がアステルの腕を掴み、一歩も動かせないように押さえつけた。
「しばらく眠っていてもらうぞ」
「待ってくださ……」
娘には何もしないでほしい。と頼む前に男が彼女の額を掴みながら直接睡眠魔法を唱えると、アステルはそのまま意識を失った。
78
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる