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反抗期編
不穏な影
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昼頃になるとアステルはステラを連れて街へ出掛けた。二度目の街の景色をステラは興味深げに見渡して、目を輝かせている。しばらく歩いていると、アステルはステラが何かを見つめていることに気づいた。
「どうしたの?何か気になるものがあった?」
「あれ何?」
ステラが指差したのは小さなアクセサリーショップだった。ショーウインドーには可愛らしい小物が並べられており、ステラの瞳もキラキラと輝く。アステルがステラの視線を追うと、そこには指輪があった。
「あぁ……あの指輪ね。可愛い、欲しいの?」
「ううん、違うの。ただ、綺麗な石がついてるなと思って……あ、ほらお母さんのペンダントと同じ色の」
「そうね……同じ」
ステラの言っているペンダントは昔、シリウスがプレゼントをしてくれたルビーのペンダントのことだ。大事に、厳重にしまっておいたのに攫われた時に家の金目の物と一緒に盗まれてしまったので今は手元には無い。今はシリウス本人がそばにいるが、彼がいなかった時はペンダントを眺めて自分をよく元気づけていた大切な宝物である。
アステルはステラの言う宝石を見ると、確かにその色は彼女の言う通り、シリウスがくれたものとよく似ていた。
「こんにちは。もしかして貴女がアステル?」
アステルがじっと指輪を見て考え込んでいると、後ろから声をかけられた。振り返るとそこには茶髪の若い女性、シリウスの上司の妻だ。腕の中にはステラよりも幼い男の子が抱かれている。
「はい、アステルですが……あなたは……」
「私はカレン。ガレッド騎士団長の妻よ」
「どうして私のことを?」
「シリウスが話していたからよ。すごく綺麗な人だって」
「そ、そんなこと……」
アステルは照れ臭そうにすると、カレンはクスクス笑った。
「ねぇ、お茶しない?一度シリウスの奥さんと話をしてみたかったの!」
「えっ」
「決まりね。行きましょう!」
アステルは突然の提案に驚いたが、断る間もなくカレンはアステルの手を引いて店に入った。
中に入った店は女性客が多く、甘い匂いが漂っている。ステラは見知らぬ人ばかりの場所に戸惑い、不安そうな表情を浮かべてアステルの服を掴んだ。
しかし、カレンはお構いなしと店員に人数分の席を用意してもらうと、注文をした。
「アステル、って呼んでもいい?私のことはカレンでいいから」
「あ、はい」
強引に連れて来たのに意外にも優しく接してくれるカレンにアステルはホッとした。彼女はステラの存在に気づくとニッコリと笑いかけた。
「久しぶりね。ステラ」
「あ、この前のお姉さん」
前にアステルが連れ去られた時、カレンと一緒に宿屋でシリウスの帰りを待っていたのをステラは覚えていた。ステラの顔を覚えていたのでカレンはアステルの正体がわかったのだ。
「ステラ、好きなものを食べていいからね」
「あ、ありがと……」
ステラはペコッとお辞儀をすると、ちょうどケーキと飲み物がテーブルに運ばれ、アステルの前にある生クリームと苺がたっぷりと乗ったをケーキを自分の元に寄せると黙々と食べ始めた。
「ここでの暮らしはもう馴れた?」
「便利なものが多いから生活はとても楽になりました。でもまだわからないことが多くて……」
「この国に来た人はみんな、そんなもんよ。ガレッドもシリウスも最初は戸惑っていたけど、今では慣れたみたいだし、慣れればこの国は住みやすいの。仕事もたくさんあるから退屈はしないと思うわ」
「色々ありますからね。物も建物も人も……」
街を歩いていて、アステルは色んな種族とすれ違った。獣人やドワーフ、竜人など、この国にはたくさんの人種が存在している。そしてほとんどが純血種ではなくどちらかと言えば人間とのハーフが多かった。
そしてエルフを見かけたのはほとんどハーフエルフかクォーターエルフばかりで純血のエルフは男のエルフ二人ぐらいだったのを思い出した。やはり女のエルフはどの地方でも外の世界にでるのは禁じられているようだ。
「私、女性のエルフを見たのはアステルが初めて!こんなに綺麗な人が想い人ならシリウスも他の女の子にアプローチをされても目移りなんてしないわけだ」
「そんなことは、ないです……」
アステルはカップの紅茶を飲んで目を伏せた。どんなに綺麗でも、どんなに愛を育んでも奪われる時はあっさり奪われてしまう。それは自分の両親をみてきたので嫌というほどわかっている。人の心を繋ぎ止めるのはとても難しい。
「アステルは薬を作っているのよね?今も?」
「今はまずこの生活に馴れてから、しばらくは薬草作りに専念するつもりです」
薬草は買うことはできるが、アステルがいつも扱う薬草はこの国では気軽に買えない。常に種に保存をしていたので今は新しく育てているのだ。それに薬を作るようになるのは設備も揃えてからになるだろう。
シリウスは働かなくても自分の稼ぎだけで養えると言ってくれたが、何もせずにただ与えられるだけの生活というのは性分的に無理なので何かしたいと思っている。
「ガレッドが言ってたわ。アステルの作る薬は他の薬師とは比べ物にならないくらい効果が高いって。だからきっと、アステルはすごい薬師なんだろうなって」
「あ、ありがとうございます」
カレンの言葉にアステルは嬉しそうに微笑むと、ステラがジッとこちらを見ていることに気づいた。
「どうしたの?もっと食べたいの?でも晩御飯が食べられなくなるから少しだけよ」
「ううん……お母さんのペンダントと同じ色の石がついてる指輪が欲しいの」
「指輪?」
カレンが首を傾げると、アステルはハッとして慌てて首を振る。
「ち、違うんです。シリウスがくれたペンダントとよく似た石がついていたので気になって……」
「シリウスがプレゼントを?」
「えぇ、昔……もらったもので……」
「へー……シリウス、そういうことするんだ」
カレンは意外そうな顔をすると、アステルは苦笑を浮かべた。
「ずっと大事にしまっておいたのに盗まれてしまったから手元にはないのですが」
「そうなの……戻ってくると良いんだけど……」
カレンは心配そうに言った後、ケーキを一口食べた。
アステルとカレンはそれからしばらく話をし、道案内がてらに買い物に付き合うと言って一緒に店を出た。
「何が欲しいの?」
「食べ物を」
「わかった。それじゃあ行きま……」
カレンが息子を抱き抱えたまま歩き出そうとしたとき、急に立ち止まると顔を引きつらせていたのでアステルは疑問に思いつつ彼女の視線の先を見ると見知らぬ人間の女性と獣の耳を持つ、ステラぐらいの年頃の少年がこちらをじっと見ていた。少年は恐らく人間と獣人のハーフなのだろう。
「アステル、こっち」
カレンは素早くアステルの腕を掴むとそのまま歩き出した。
「野菜を選びながらでいいから聞いて。さっきの親子、獣人の旦那さんがいたんだけどこの前の戦争で亡くなったの」
カレンはアステルにだけ聞こえる小声で話しながら手を引いて早足で歩くと、野菜を売っている店の前で立ち止まった。突然、よく知りもしない家族の話をされても困ってしまうが、アステルは買いたい野菜を見ながら黙ったまま頷いて聞いていた。
「それでまあ……息子のレオは父親の顔を覚えてないまま育ってね、母親の方も戦争で夫を亡くしたから再婚相手を探していて……」
アステルはカボチャを手に取ったままカレンの次の言葉を待つ。
「で、息子のレオが気に入ってしまったのがシリウスなの」
「ステラ、こっちにおいで」
アステルは少し離れた所で興味津々に猫を見ていたステラを連れ戻しながらカレンの言葉に耳を傾けていた。
「もちろん、シリウスはちゃんと断っているけど、しつこくてね。他の迫ってくる女性と違って同情する要素があるからあまり強く邪険にもできないみたいで……」
カレンはため息をつくと、店の奥から店主が出てきたので野菜の会計を済ませるとすぐに別の店に移動をした。
「シリウスがちゃんと断っているなら大丈夫かと……」
肉屋の前まで来ると、アステルは大きな肉を見ているステラを眺めながらぽつりと呟いた。
「そうなんだけどね。この前、アルム……シリウスの同僚が教えてくれたんだけどシリウスに奥さんと子供がいるって伝えたらレオがすごく泣いて落ち込んでしまって……」
「そうなの……」
「何かするような人達ではないと思うけどアステル達はあまり近寄らない方がいいと言うか……気をつけて」
「わかったわ、教えてくれてありがとう」
アステルは素直に返事をするとシリウスとステラの好きな肉を選んでから買い物を続け、沢山食材を買うとカレンと別れて家に戻った。
「どうしたの?何か気になるものがあった?」
「あれ何?」
ステラが指差したのは小さなアクセサリーショップだった。ショーウインドーには可愛らしい小物が並べられており、ステラの瞳もキラキラと輝く。アステルがステラの視線を追うと、そこには指輪があった。
「あぁ……あの指輪ね。可愛い、欲しいの?」
「ううん、違うの。ただ、綺麗な石がついてるなと思って……あ、ほらお母さんのペンダントと同じ色の」
「そうね……同じ」
ステラの言っているペンダントは昔、シリウスがプレゼントをしてくれたルビーのペンダントのことだ。大事に、厳重にしまっておいたのに攫われた時に家の金目の物と一緒に盗まれてしまったので今は手元には無い。今はシリウス本人がそばにいるが、彼がいなかった時はペンダントを眺めて自分をよく元気づけていた大切な宝物である。
アステルはステラの言う宝石を見ると、確かにその色は彼女の言う通り、シリウスがくれたものとよく似ていた。
「こんにちは。もしかして貴女がアステル?」
アステルがじっと指輪を見て考え込んでいると、後ろから声をかけられた。振り返るとそこには茶髪の若い女性、シリウスの上司の妻だ。腕の中にはステラよりも幼い男の子が抱かれている。
「はい、アステルですが……あなたは……」
「私はカレン。ガレッド騎士団長の妻よ」
「どうして私のことを?」
「シリウスが話していたからよ。すごく綺麗な人だって」
「そ、そんなこと……」
アステルは照れ臭そうにすると、カレンはクスクス笑った。
「ねぇ、お茶しない?一度シリウスの奥さんと話をしてみたかったの!」
「えっ」
「決まりね。行きましょう!」
アステルは突然の提案に驚いたが、断る間もなくカレンはアステルの手を引いて店に入った。
中に入った店は女性客が多く、甘い匂いが漂っている。ステラは見知らぬ人ばかりの場所に戸惑い、不安そうな表情を浮かべてアステルの服を掴んだ。
しかし、カレンはお構いなしと店員に人数分の席を用意してもらうと、注文をした。
「アステル、って呼んでもいい?私のことはカレンでいいから」
「あ、はい」
強引に連れて来たのに意外にも優しく接してくれるカレンにアステルはホッとした。彼女はステラの存在に気づくとニッコリと笑いかけた。
「久しぶりね。ステラ」
「あ、この前のお姉さん」
前にアステルが連れ去られた時、カレンと一緒に宿屋でシリウスの帰りを待っていたのをステラは覚えていた。ステラの顔を覚えていたのでカレンはアステルの正体がわかったのだ。
「ステラ、好きなものを食べていいからね」
「あ、ありがと……」
ステラはペコッとお辞儀をすると、ちょうどケーキと飲み物がテーブルに運ばれ、アステルの前にある生クリームと苺がたっぷりと乗ったをケーキを自分の元に寄せると黙々と食べ始めた。
「ここでの暮らしはもう馴れた?」
「便利なものが多いから生活はとても楽になりました。でもまだわからないことが多くて……」
「この国に来た人はみんな、そんなもんよ。ガレッドもシリウスも最初は戸惑っていたけど、今では慣れたみたいだし、慣れればこの国は住みやすいの。仕事もたくさんあるから退屈はしないと思うわ」
「色々ありますからね。物も建物も人も……」
街を歩いていて、アステルは色んな種族とすれ違った。獣人やドワーフ、竜人など、この国にはたくさんの人種が存在している。そしてほとんどが純血種ではなくどちらかと言えば人間とのハーフが多かった。
そしてエルフを見かけたのはほとんどハーフエルフかクォーターエルフばかりで純血のエルフは男のエルフ二人ぐらいだったのを思い出した。やはり女のエルフはどの地方でも外の世界にでるのは禁じられているようだ。
「私、女性のエルフを見たのはアステルが初めて!こんなに綺麗な人が想い人ならシリウスも他の女の子にアプローチをされても目移りなんてしないわけだ」
「そんなことは、ないです……」
アステルはカップの紅茶を飲んで目を伏せた。どんなに綺麗でも、どんなに愛を育んでも奪われる時はあっさり奪われてしまう。それは自分の両親をみてきたので嫌というほどわかっている。人の心を繋ぎ止めるのはとても難しい。
「アステルは薬を作っているのよね?今も?」
「今はまずこの生活に馴れてから、しばらくは薬草作りに専念するつもりです」
薬草は買うことはできるが、アステルがいつも扱う薬草はこの国では気軽に買えない。常に種に保存をしていたので今は新しく育てているのだ。それに薬を作るようになるのは設備も揃えてからになるだろう。
シリウスは働かなくても自分の稼ぎだけで養えると言ってくれたが、何もせずにただ与えられるだけの生活というのは性分的に無理なので何かしたいと思っている。
「ガレッドが言ってたわ。アステルの作る薬は他の薬師とは比べ物にならないくらい効果が高いって。だからきっと、アステルはすごい薬師なんだろうなって」
「あ、ありがとうございます」
カレンの言葉にアステルは嬉しそうに微笑むと、ステラがジッとこちらを見ていることに気づいた。
「どうしたの?もっと食べたいの?でも晩御飯が食べられなくなるから少しだけよ」
「ううん……お母さんのペンダントと同じ色の石がついてる指輪が欲しいの」
「指輪?」
カレンが首を傾げると、アステルはハッとして慌てて首を振る。
「ち、違うんです。シリウスがくれたペンダントとよく似た石がついていたので気になって……」
「シリウスがプレゼントを?」
「えぇ、昔……もらったもので……」
「へー……シリウス、そういうことするんだ」
カレンは意外そうな顔をすると、アステルは苦笑を浮かべた。
「ずっと大事にしまっておいたのに盗まれてしまったから手元にはないのですが」
「そうなの……戻ってくると良いんだけど……」
カレンは心配そうに言った後、ケーキを一口食べた。
アステルとカレンはそれからしばらく話をし、道案内がてらに買い物に付き合うと言って一緒に店を出た。
「何が欲しいの?」
「食べ物を」
「わかった。それじゃあ行きま……」
カレンが息子を抱き抱えたまま歩き出そうとしたとき、急に立ち止まると顔を引きつらせていたのでアステルは疑問に思いつつ彼女の視線の先を見ると見知らぬ人間の女性と獣の耳を持つ、ステラぐらいの年頃の少年がこちらをじっと見ていた。少年は恐らく人間と獣人のハーフなのだろう。
「アステル、こっち」
カレンは素早くアステルの腕を掴むとそのまま歩き出した。
「野菜を選びながらでいいから聞いて。さっきの親子、獣人の旦那さんがいたんだけどこの前の戦争で亡くなったの」
カレンはアステルにだけ聞こえる小声で話しながら手を引いて早足で歩くと、野菜を売っている店の前で立ち止まった。突然、よく知りもしない家族の話をされても困ってしまうが、アステルは買いたい野菜を見ながら黙ったまま頷いて聞いていた。
「それでまあ……息子のレオは父親の顔を覚えてないまま育ってね、母親の方も戦争で夫を亡くしたから再婚相手を探していて……」
アステルはカボチャを手に取ったままカレンの次の言葉を待つ。
「で、息子のレオが気に入ってしまったのがシリウスなの」
「ステラ、こっちにおいで」
アステルは少し離れた所で興味津々に猫を見ていたステラを連れ戻しながらカレンの言葉に耳を傾けていた。
「もちろん、シリウスはちゃんと断っているけど、しつこくてね。他の迫ってくる女性と違って同情する要素があるからあまり強く邪険にもできないみたいで……」
カレンはため息をつくと、店の奥から店主が出てきたので野菜の会計を済ませるとすぐに別の店に移動をした。
「シリウスがちゃんと断っているなら大丈夫かと……」
肉屋の前まで来ると、アステルは大きな肉を見ているステラを眺めながらぽつりと呟いた。
「そうなんだけどね。この前、アルム……シリウスの同僚が教えてくれたんだけどシリウスに奥さんと子供がいるって伝えたらレオがすごく泣いて落ち込んでしまって……」
「そうなの……」
「何かするような人達ではないと思うけどアステル達はあまり近寄らない方がいいと言うか……気をつけて」
「わかったわ、教えてくれてありがとう」
アステルは素直に返事をするとシリウスとステラの好きな肉を選んでから買い物を続け、沢山食材を買うとカレンと別れて家に戻った。
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