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許されない男
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廊下を歩いていると屋敷の使用人たちが私に気づくと目を背けて通り過ぎていく。私は勇気を振り絞って、すれ違ったメイドに尋ねることにした。
「ヴィクトル様はどこ?」
するとメイドは少し驚いた顔をしながらも、気まずそうに答えてくれた。
「……外に出ました」
ヴィクトル様が外に出た?どうして?何か嫌なことが起こる予感がして、ウエディングドレスの裾を手に取って、私は思い切り走り出した。
足元が不安定で素足の痛みがじんわりと広がってくるがそんなことを気にしている余裕はなかった。心の中に湧き上がる不安と焦りが私を駆り立てている。
私は息を切らしながら、屋敷の外へ向かって走り続ける。ドレスの裾が風にひらひらと揺れ、足元が痛むたびにその痛みが現実を突きつけてくる。そんな痛みすらも今の私にはどうでもよかった。心配なのはヴィクトル様のことだけ。
屋敷を抜け出し、大きな門をくぐった先には降りしきる雨の中、ヴィクトル様の後ろ姿が見えた。
私の足元は滑りやすく、痛みが走るが私は止まらなかった。ヴィクトル様の背中があまりにも遠く感じられ、必死にその距離を縮めようとした。
近づくと数人の軍人が彼の周囲に立ち、視線を鋭くしている。そして、その先に──シオン様がまるで何かを諦めたかのような、残念そうな表情でヴィクトル様を見つめているのが見えた。
ああ、そうだ。私はヴィクトル様に誘拐されたんだ。だから、今の彼は犯罪者。彼に罪を私は背負わせたくない。だから、私がすべきなのは……
「待ってください!私がヴィクトル様にお願いをしました!ですからヴィクトル様は何も悪くありません!」
そう叫びながら、私は駆けて彼に近づき、無我夢中でヴィクトル様の腕に抱きついた。すらすらと嘘を並べ、必死に懇願する。
私のせいで犯罪なんてヴィクトル様に背負わせたくなかった。たとえそれが間違っていたとしても、私の頭に浮かぶ唯一の道はヴィクトル様を守ることだった。
「……ユミル」
驚きと疑念が交錯したような表情でヴィクトル様が私を見下ろす。
「陛下……彼女の精神状態は私が追い詰めたせいで酷く不安定になっています。彼女は被害者です」
「そんなことはありません!わ、私は……私は……大丈夫です!」
私は必死に言葉を紡ぐ、ヴィクトル様を守りたくてたまらなかった。でもヴィクトル様は私を引き離そうとして、冷たく私の肩を掴む。
しかし、私はそれを拒むようにヴィクトル様の腕を掴んで離さなかった。
「ヴィクトル様は悪くないんです。私が彼を唆して……」
「……お前は帰るんだ」
ヴィクトル様の呆れたような声に涙が溢れそうになったが私は下唇を噛んで必死に耐えた。もう一度言葉を続ける。
「お願いします。ただ話をしただけなんです……まだ、終わってなくて……」
「ユミル!」
ヴィクトル様はついに怒りを露わにし、私を振りほどいた。両手で私の二の腕を掴み、鋭い声で言い聞かせるように言った。ヴィクトル様の赤い長い髪が雨に濡れ、暗い空の下で重くたれさがり、しっとりと頬にまとわりついている。
「いいか、俺はお前にそんなことを望んでいない!」
「でも、ヴィクトル様は……私を……」
私は必死でしがみついて、彼を引き止めようとしたがヴィクトル様は首を横に振り、冷たい目で私を見下ろした。
「連れていけ」
シオン様の一言が響き、他の軍人が私の腕を掴んだ。その瞬間、私は必死に抵抗して、ヴィクトル様に手を伸ばした。しかし、ヴィクトル様はそれを無視をし、無言で背を向けて歩き出した。
「いやです!待ってください!」
私は叫んだが軍人たちの力には敵わず、ヴィクトル様はどんどん遠くなっていった。足をもつれさせ、涙が溢れる。
「やめろユミル、暴れるんじゃない」
シオン様の冷たい声が耳に届き、まるで別人のようなその声音に恐怖すら感じるほどだった。しかし、そんなことはどうでもよかった。頭の中にはただ、ヴィクトル様のことだけしかなかった。
「嫌!お願い!放して!」
その叫びが私を支配するすべての思いを代弁していた。暴れたが軍人たちは容赦なく私を馬車に押し込んだ。扉が閉まる瞬間、私は必死で窓を叩きながら叫んだ。
「待って!ヴィクトル様!」
馬車は重い雨に濡れたぬかるんだ道を走り出し、ヴィクトル様はどんどん小さくなっていった。何もできなくて、降りしきる雨の中で泣くことしかできなかった。
ヴィクトル様は私を愛しているって、どこにも嫁がないでって、言ったのに……どうして……
「ヴィクトル様はどこ?」
するとメイドは少し驚いた顔をしながらも、気まずそうに答えてくれた。
「……外に出ました」
ヴィクトル様が外に出た?どうして?何か嫌なことが起こる予感がして、ウエディングドレスの裾を手に取って、私は思い切り走り出した。
足元が不安定で素足の痛みがじんわりと広がってくるがそんなことを気にしている余裕はなかった。心の中に湧き上がる不安と焦りが私を駆り立てている。
私は息を切らしながら、屋敷の外へ向かって走り続ける。ドレスの裾が風にひらひらと揺れ、足元が痛むたびにその痛みが現実を突きつけてくる。そんな痛みすらも今の私にはどうでもよかった。心配なのはヴィクトル様のことだけ。
屋敷を抜け出し、大きな門をくぐった先には降りしきる雨の中、ヴィクトル様の後ろ姿が見えた。
私の足元は滑りやすく、痛みが走るが私は止まらなかった。ヴィクトル様の背中があまりにも遠く感じられ、必死にその距離を縮めようとした。
近づくと数人の軍人が彼の周囲に立ち、視線を鋭くしている。そして、その先に──シオン様がまるで何かを諦めたかのような、残念そうな表情でヴィクトル様を見つめているのが見えた。
ああ、そうだ。私はヴィクトル様に誘拐されたんだ。だから、今の彼は犯罪者。彼に罪を私は背負わせたくない。だから、私がすべきなのは……
「待ってください!私がヴィクトル様にお願いをしました!ですからヴィクトル様は何も悪くありません!」
そう叫びながら、私は駆けて彼に近づき、無我夢中でヴィクトル様の腕に抱きついた。すらすらと嘘を並べ、必死に懇願する。
私のせいで犯罪なんてヴィクトル様に背負わせたくなかった。たとえそれが間違っていたとしても、私の頭に浮かぶ唯一の道はヴィクトル様を守ることだった。
「……ユミル」
驚きと疑念が交錯したような表情でヴィクトル様が私を見下ろす。
「陛下……彼女の精神状態は私が追い詰めたせいで酷く不安定になっています。彼女は被害者です」
「そんなことはありません!わ、私は……私は……大丈夫です!」
私は必死に言葉を紡ぐ、ヴィクトル様を守りたくてたまらなかった。でもヴィクトル様は私を引き離そうとして、冷たく私の肩を掴む。
しかし、私はそれを拒むようにヴィクトル様の腕を掴んで離さなかった。
「ヴィクトル様は悪くないんです。私が彼を唆して……」
「……お前は帰るんだ」
ヴィクトル様の呆れたような声に涙が溢れそうになったが私は下唇を噛んで必死に耐えた。もう一度言葉を続ける。
「お願いします。ただ話をしただけなんです……まだ、終わってなくて……」
「ユミル!」
ヴィクトル様はついに怒りを露わにし、私を振りほどいた。両手で私の二の腕を掴み、鋭い声で言い聞かせるように言った。ヴィクトル様の赤い長い髪が雨に濡れ、暗い空の下で重くたれさがり、しっとりと頬にまとわりついている。
「いいか、俺はお前にそんなことを望んでいない!」
「でも、ヴィクトル様は……私を……」
私は必死でしがみついて、彼を引き止めようとしたがヴィクトル様は首を横に振り、冷たい目で私を見下ろした。
「連れていけ」
シオン様の一言が響き、他の軍人が私の腕を掴んだ。その瞬間、私は必死に抵抗して、ヴィクトル様に手を伸ばした。しかし、ヴィクトル様はそれを無視をし、無言で背を向けて歩き出した。
「いやです!待ってください!」
私は叫んだが軍人たちの力には敵わず、ヴィクトル様はどんどん遠くなっていった。足をもつれさせ、涙が溢れる。
「やめろユミル、暴れるんじゃない」
シオン様の冷たい声が耳に届き、まるで別人のようなその声音に恐怖すら感じるほどだった。しかし、そんなことはどうでもよかった。頭の中にはただ、ヴィクトル様のことだけしかなかった。
「嫌!お願い!放して!」
その叫びが私を支配するすべての思いを代弁していた。暴れたが軍人たちは容赦なく私を馬車に押し込んだ。扉が閉まる瞬間、私は必死で窓を叩きながら叫んだ。
「待って!ヴィクトル様!」
馬車は重い雨に濡れたぬかるんだ道を走り出し、ヴィクトル様はどんどん小さくなっていった。何もできなくて、降りしきる雨の中で泣くことしかできなかった。
ヴィクトル様は私を愛しているって、どこにも嫁がないでって、言ったのに……どうして……
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