【完結】悪役令嬢、推しカプのために動いたらオレ様系狼王子に求愛される

白滝春菊

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悪役令嬢に転生しました

 私は乙女ゲームが好きだ。特にあの獣人たちとのロマンチックな恋愛を描いたゲーム『獣人たちの愛咲く学園』は何度もプレイしている。
 ヒロインは人間の平凡な男爵令嬢で獣人たちに囲まれながら彼らの心を開き、真実の愛を見つけるというストーリー。
 攻略対象はそれぞれ個性的で魅力的な獣人たち。ライオン、虎、狼、鹿……どのキャラクターも素晴らしいが、私の一番のお気に入りは狼族の王子「ウルファ」である。

 ウルファは冷静沈着で優雅な物腰を持ちながら、時折見せる激しい一面がプレイヤーの心を鷲掴みにする。
 特にヒロインを守るために悪役令嬢に立ち向かうあのシーン……!「俺は彼女のためなら何度でも貴様に牙を剥く!」という台詞はもはや名言。
 彼のルートをクリアするたび、胸が熱くなり、涙を流してしまう。

 そこで問題がある。このゲームには「悪役令嬢」として存在するキャラクターがいるのだ。
 彼女の名前は狼獣人の悪役令嬢シルヴィア。高貴な生まれと美貌を持ちながらもヒロインに嫉妬し、様々な悪事を働く典型的な悪役。
 そして、ハッピーエンドでの彼女の最期は悲惨だ。父親に見捨てられて命を落とす救いのない結末を迎えるのが常だった。

 そう、私はシルヴィアとして前世の記憶を取り戻した。そして、その瞬間、私は静かに悟った。

 ――終わった。私の人生、完全に詰んだ。

 獣人たちとの恋愛を描いた大好きな乙女ゲーム『獣人たちの愛咲く庭園』の悪役令嬢に転生するなんて、こんな理不尽な話があるだろうか?
 シルヴィアはヒロインをいじめる悪役令嬢で最後は必ず悲惨な結末を迎える典型的な"ざまぁ枠"のキャラだ。
 プレイヤーからは嫌われ、ヒロインの幸せを引き立てるためだけに存在する役割。そんな彼女になってしまったなんて……

 銀色に輝く長い髪はまるで月光を纏ったように綺麗。耳の上にはふわふわした狼の耳が音に反応してぴょこんと立ち、微かに動いている。
 大きなアメジストのような紫の瞳は冷たい印象を与え、長い睫毛がその鋭さを際立たせる。
 さらに腰には銀の毛並みの尻尾がゆるやかに揺れており、これもまた無駄に美しい。

「……これはただの美の暴力だわ」

 そう、容姿だけは完璧なのだ。顔だけは最高な美少女な悪役令嬢だからね。基本は今見たような獣耳人間なんだけど獣化すると一部のマニアから絶賛されるぐらいデザインが優れていた。
 こんな見た目をしているのにやることといえばヒロインへの嫉妬と嫌がらせだ。

「あぁ……どうして私がこんなキャラに……」

 私は豪華な部屋のベッドに倒れ込んだ。ここはシルヴィアの家、グレイハウンド家の領地にある屋敷だ。
 家具は全て金や銀で装飾されており、絢爛豪華。しかし、この美しい環境が私の心を癒してくれるわけではなかった。

 よし、決めた。

「まだ間に合う……まだ私は悪役令嬢になっていない!」

 鏡に映る自分を見つめながら、私はそっと呟いた。まだ幼いシルヴィアだ。ヒロインに嫌がらせをするどころか、彼女と出会う前の段階。
 今なら選択肢はある。悪役にならず、むしろヒロインの友達になる……いや、それ以上に彼女を大事に守り抜けばいいのでは?

 好感度を稼げば悪役フラグも消せるはず!

 さらに私には重大な使命がある。この世界に転生したからには推しカプであるウルファ×ヒロインを全力で支援することだ。
 私が悪役にならずに済めばウルファルートの障害が一つ消える。それどころか、ヒロインの支えとなれば二人が結ばれる可能性がさらに高まるはず。
 特等席で推しカプを眺められると考えればこの転生も素晴らしいものになるのかもしれない。

 その時、ドアの向こうから足音が近づいてくるのを聞いた。この耳はとても高性能。すぐにメイドのセリカだとわかった。彼女はいつも私の部屋に静かにやって来る。

「シルヴィア様……旦那様がお呼びです」

 少しして、セリカの声がドア越しに聞こえた。いつもよりも、やや震えている。
 一瞬冷たいものが走るのを感じた。旦那様――私の父が呼んでいる。父に呼ばれるのは何かしらの命令か、もしくは罰のようなものが待っている気がしてならない。
 私はベッドからゆっくりと起き上がり、鏡に映る自分の姿を見つめた。銀色の髪が乱れている。少しだけ深呼吸をしてから、私はセリカに返事をする。

「わかったわ、すぐに行く」

 扉を開ける音が静かに響き、セリカの姿が現れた。彼女は私と同じく狼獣人の血を引いており、灰色の髪を一つ結びにしている。
 その髪はやや長めで、控えめにまとめられているため、彼女の顔立ちが優しく際立って見える。狼の耳と尾が特徴的だが、シルヴィアほど目立つほど大きくはなく、耳は小さく、尾も少し控えめだ。そのためか、彼女の全体的な印象は、シルヴィアとは少し違って穏やかで、どこか柔らかさを感じさせる。
 私は彼女がどれほど私に対して恐れているかを理解している。私が幼い頃から、ずっと冷酷無慈悲な悪役令嬢だったから。

 ◆

 セリカに導かれながら豪華な扉の前に立つ。この扉の向こうにはシルヴィアと同じ冷酷無慈悲な父が待っている――ゲームの中で何度も見た、恐ろしく圧倒的な存在。
 彼の悪名高い「人間軽視」の思想はヒロインにとって最悪の障害であり、ラスボスとしてプレイヤーを苦しめた要因そのものだ。
 セリカが静かに扉を開けると、中には壮麗な調度品が並ぶ広い執務室があった。そしてその中心に、書類を片手にして椅子に深く座る父、アルジャンの姿がある。

 銀髪に鋭い紫の瞳――その美貌は私と酷似しているが、彼の目は冷たく光を宿していない。その表情に一切の感情が感じられず、まるで氷の彫刻を思わせる。

「来たか、シルヴィア」

 低く響く声が部屋に満ちる。冷たさと威圧感がその声には宿り、私の身体は思わず震えた。

「お、お呼びでしょうか、お父様……?」

 ゲームでは「父」としてのアルジャンの描写はほとんどなかった。彼の家庭内での姿は謎に包まれており、シルヴィアもただ「従う存在」として描かれていたに過ぎない。だが、今こうして彼の娘として向き合うと、その恐ろしさが染みる。そしてアルジャン……お父様は書類を机に置き、鋭い視線を私に向けた。

「近々、皇帝陛下が視察にいらっしゃる」

 皇帝陛下。ゲームの中でも強力なポジションに位置する彼がここに来るというのか。

「陛下には最上級のもてなしを用意しろ」

 冷たい言葉が容赦なく放たれる。その内容自体は至極まっとうなものであるはずだが、お父様の態度がそれを単なる命令以上の「圧力」に変えていた。

「かしこまりました、お父様」

 そして、その瞬間、お父様の目がさらに鋭くなった。嫌な予感しかしない。

「お前にはもう一つ、役目がある。殿下の花嫁としての振る舞いを学べ」
「花嫁……?」
「そうだ。皇帝陛下はお前を殿下の妃候補としてご覧になる予定だ」

 つい気の抜けた声が漏れる。それに対し、お父様はわずかに眉をひそめただけで無表情を崩さない。
 シルヴィアは最初、ウルファと婚約していた。ウルファは狼族の王子で、冷徹で優雅な雰囲気を持ち、シルヴィアの婚約者として多くのプレイヤーが彼に心を奪われた。

 だが、その婚約はシナリオが進むと突然破棄される。ウルファルートでもウルファルートでなくてもだ。
 シルヴィアはそのショックと怒りから、主人公に対して攻撃的な態度を取ることになる。シルヴィアがヒロインを襲うシーンは乙女ゲームの中でも印象的な一幕だった。

 私は彼との関係を改善するための計画を立てることにした。ゲームの設定ではシルヴィアとウルファは幼少期から顔見知りだが、シルヴィアが何度もウルファに無礼を働いてきたため、好感度はマイナスのスタート。

 つまり、私が彼と接するたびに怒りを買う行動を取らなければ少なくとも普通までは上げられるはず。 それができればゲーム開始時点では「ただの顔見知り」くらいの状態でいられる。頑張るぞ!
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