【完結】悪役令嬢、推しカプのために動いたらオレ様系狼王子に求愛される

白滝春菊

文字の大きさ
2 / 36

狼王子に嫌われた

 今日、私はシルヴィアとして初めての外出を控え、特別に仕立てられたドレスを着ていた。淡い薄紫のシルクのドレスは、胸元に繊細なレースが施され、ふわりと広がるスカートが軽やかに揺れる。
 ドレスの裾は、きちんと整えられているが、絵のような美しさを感じさせてくれる。髪は銀色の光沢を持つ長い髪が豪華な金のティアラで整えられ、どこから見ても「令嬢」としての品格を感じさせるものだった。

 ウルファとの初対面の瞬間、私は緊張と期待が入り混じる心情を抱えていた。豪華なホールの中でお父様の背中を追いながら進んでいくと、まず目に入るのはウルファの家族だった。
 獣人の王家らしい荘厳な雰囲気に包まれた彼らはまさに王族というべき威厳を漂わせている。私の視線は自然とその中で一際小さな影を捉えた。それがウルファだろう。

 黒い毛髪が艶やかに光を反射し、金色の瞳が私をじっと見つめている。その瞳はまだ子供らしさを残しつつも、どこかクールな雰囲気を醸し出していた。
 将来王として君臨するに違いない威厳を感じさせるが、どこか硬く、大人しい印象も抱かせる。
 彼の静かな眼差しの中にまだ幼さと無邪気さが残っていることに気づき、少し安心する反面、私の心の中で警鐘が鳴り響いた。

「シルヴィア、お前も挨拶を」

 お父様の声が私を引き戻し、私は意を決してウルファの方へと歩み寄った。彼の目が再びこちらに注がれ、その瞬間、警戒心を隠しきれないのを感じ取る。
 足音がやけに大きく響くようで鼓動が速くなるのを抑えながら、私は目の前で一礼をした。

「はじめまして、ウルファ様。グレイハウンド家のシルヴィアです」

 その瞬間、ウルファの耳が微かにピクリと動き、私は息を呑んだ。しかし、言葉が返ってくることはなかった。
 彼は無言で私を見つめている。沈黙が長く続き、私はどうしたらよいかわからず、さらに言葉を絞り出した。

「お会いできて嬉しいです。あの……」

 言葉が途切れそうになった瞬間、ウルファは静かに目を伏せ、そして一歩引いた。その動作はまるで私を遠ざけるような冷たい仕草だった。
 胸が痛むのを感じながらも私はぎこちない笑顔を作り、必死で話題を続けようとした。

「ウルファ様、先ほど厨房の方が特別な肉料理を用意してくださいました。ウルファ様のためにと思いまして……」

 ゲームの情報によると、ウルファは肉料理が大好きで、特に甘辛いタレで味付けされたものがお気に入りだったはず。
 しかし、シルヴィアは料理ができない。そこで、厨房の料理人たちに頼んで、特製の肉料理を用意してもらうことにした。
 私は良い感じに仕上がった肉の乗った皿を彼の前にそっと置く。ウルファはその皿を一瞥した後、静かに黒い尻尾を動かした。
 ほんのわずかな反応ではあったが、興味を引けた証拠だろうか。その僅かな変化に私は内心でほっと息をついた。

「……肉料理?」

 彼の声には興味と共にわずかな驚きが滲んでいるように感じられた。しかし、その一言で彼は再び静かに目を逸らし、淡々と返した。

「……いらない」

 その冷たくもどこか距離を置いた返事に一瞬息が詰まりそうになる。しかし、諦めるわけにはいかない。
 彼の警戒心を解くには時間がかかる。しかし、私はここで怯まない。少しずつでもウルファとの距離を縮めていくつもりだから。

「わかりました。お口に合わなければ無理にお召し上がりくださいとは言いません」

 私は少しだけ軽く微笑み、皿を戻しながら言った。彼の反応が冷たくてもその冷たさを受け入れ、そして次に進むことこそが大事だと自分に言い聞かせた。
 まだ一歩目に過ぎない。これから、少しずつ彼の心を開いていくつもりだ。それが私の役目だから。

 ◆

 部屋に戻った私は深いため息と共に豪華なソファに身を投げ出した。全身に疲れが広がり、頭の中はウルファとのやり取りでいっぱいだった。
 あの会合でどれだけ頑張っても結局何も得ることができなかった。むしろ、彼との距離がますます広がったような気さえする。

「うう……ダメだ、全然うまくいってない」

 心の中で溜まる焦燥感に頭を抱えたくなった。その努力が裏目に出たことが悔しくて仕方ない。
 無邪気に振る舞ったり、丁寧に接したりしたけれど、ウルファにはまったく通じなかった。
 あんなに一生懸命だったのにすれ違っているだけのようで何も変わっていないような気がする。シルヴィアもこんな気持ちだったのかな?

「よく考えたら、これゲームのシルヴィアもやってたやつじゃん……」

 ゲーム本編でのシルヴィアも最初はウルファに好かれようと必死になっていた。その結果、どうなったか。
 結局、彼女の努力はことごとく裏目に出ていたのだ。ウルファのようなクールで自立心の強い人物に対して、無理にアプローチすればするほど、警戒されて距離を取られるだけ。ゲームのシルヴィアが苦しんだ道を私も歩んでしまっていた。

「私は主人公じゃないから、ゲームみたいに何をしても最終的に好かれるわけじゃないんだよね……」

 冷静になってみれば確かにその通りだ。ウルファに近づくことが逆効果だということはもうよく分かっている。
 彼の警戒心を解くためには無理に距離を縮めようとするのではなく、逆に少し距離を置くことが必要だろう。

 膝を抱えながら、ふわふわと揺れる自分の尻尾を眺めていると、少し冷静さを取り戻した。こんなに焦る必要はなかったのだ。私がやるべきことは今までのアプローチを捨てて、別のやり方を見つけることだ。

「じゃあ、どうすればいいの?」

 考え込むようにウルファの性格を改めて思い出す。彼は確かにクールで自立心が強く、誰かに頼られることを好まないタイプだ。
 そんな彼には余計な気遣いや積極的なアプローチよりも自分のペースを尊重する姿勢が大事なのではないかと思った。
 それに私は悪役令嬢なのだ。ヒロインのように振る舞ってもうまくいくはずがない。

「そうだ……私らしく、自然体でいればいいのかも」

 ウルファに興味を持ってもらおうとするのではなく、まずは彼の視界に入る程度で留めておく。そして、時間をかけて少しずつ警戒心を解いていく。焦らずにゆっくりと関係を築いていけばいいのだ。

 心の中でその決意を固めた私はもう一度気を引き締め、次にウルファと会う時にどう振る舞うかを考え始めた。彼にとって、私はあくまで無理のない存在であるべきだ。そして、それが私にできる唯一の方法なのだと、深く心に刻み込んだ。

 私は心を決めた。ウルファに何かをしようとするのはもうやめよう。
 過去のシルヴィアが陥った罠に自分も飛び込むわけにはいかない。

 その代わり、私は自分自身を磨くことに専念する。ウルファに話しかけられたときにはにこやかに返事をするだけ。無理に接触を図るのではなく、自然な関係を築けるよう努めよう。

 ◆

 今日もお父様から「令嬢としてのたしなみを身につけよ」と指導を受けている。歩き方、話し方、礼儀作法――そのすべてが、お父様の厳しい目でチェックされていく。

「シルヴィア、背筋を伸ばしなさい。気品が滲み出る姿勢が重要だ」
「はい、お父様」

 お父様の言葉に従い、私は背筋を伸ばし、優雅に歩く。これもまた、シルヴィアというキャラクターを変えるための努力の一環だ。悪役令嬢ではなく、誰からも尊敬される高貴な令嬢になるために。

 さらに私は「狼獣人」としての力を鍛えることも決めた。狼族の一員として、持ち前の身体能力や戦闘技術を磨くことは重要だ。
 ゲーム本編では「主人公を襲おうとするシルヴィア」という悪いイメージが強調されていた。
 だが、もし自分の力を主人公を守るために使えばそのイメージを覆すことができるかもしれない。

 訓練場に向かった私は銀色の髪を一つに束ね、軽く準備運動をした。
 ゲームの知識ではシルヴィアは戦闘力が高い設定だったが、それを逆手に取る。
 原作以上に戦闘スキルを身につければ万が一の時でも自分を守れるし、主人公を守ることでウルファや周囲の信頼を得られるかもしれない。

「ふっ!」

 木剣を振り下ろし、鍛錬を始めた。今はまだ小さな体だが、狼獣人特有の筋力と反射神経を駆使して、繰り返し練習を続ける。

「私がやるべきなのはウルファに執着することじゃない。自分の人生を良いものにすることなんだから」

 小さな声で自分に言い聞かせながら、私は汗を流し続けた。努力はいつか報われる。そう信じて。
感想 0

あなたにおすすめの小説

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~

麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。 夫「おブスは消えなさい。」 妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」 借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】