1/2惑星カルテット ~乙女は精霊たちと舞闘する 二年目編~

月川ふ黒ウ

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ラグリォスの集落

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「ふむ。そちらから娶られに来るとは殊勝だが、どういう心変わりだ?」

 エルガートが住まう森の入り口。入り口とは言っても森に詳しくない者からすれば見過ごしてしまうようなありふれた景観の中にあるうえ、エルガートの森は神域として一般人はもとより政府高官でさえ近づくことは禁じられている。
 入り口への道は王家にのみ伝えられ、年始の挨拶に当代の王妃がひとりで参じる時以外、これまで使われることはなかった。
 六人はディルマュラの案内の元、ここまでやってきた。
 ラグリォスの女を前に、ディルマュラとオリヴィアが並び、四人はその後ろに並んでいる。
 この中でエイヌの国籍を持つのはシーナとユーコだけ。王家以外の者に秘匿の森にライカたちが同伴しているのは、シーナとユーコはディルマュラの護衛、ライカとミューナはオリヴィアの護衛を神殿から出向している、という名目をつけている。

「それにおまえたちは、いちどここを素通りしようとしていたではないか」

 いぶかしげに鞍上の六人を睨み付けるラグリォスの女は先日の戦闘でディルマュラを吊り上げた長身の女。薄霧をそのまま固めたような、肌が透けて見える衣服を身につけている。
 こういう衣服を知識としては知っている六人だが、実際着用している者を前にして、頬を赤らめたり、呆気にとられたり、まじまじと見つめたりと反応は様々だ。

「先日は帰省のための道中でしたが、皆様方の熱いお誘いに心動かされまして。居ても立ってもいられず」

 にこやかに、しかし皮肉は込めてディルマュラは典雅にお辞儀する。

「その仲立ちとして、エウェーレル王太子であるオリヴィア殿下にもお越し頂いております」

 す、と右手で促され、オリヴィアは会釈の後、

「エウェーレル王太子、オリヴィア・ユカ・エウェーレルと申します。エウェーレル王家の名代として祝賀の日にお招きいただき、深く感謝いたします」

 自分でも驚くほどよどみなく口上を述べた。
 文言は口をついて勝手に出てきた。
 王家の血だとは思わない。こういうときにどう言えばいいか、どういう態度をとればいいかぐらい、普段読んでいる本が教えてくれる。

「……まあいいだろう。我らとて主の乱心を止めたい」

 最低限の利害は一致した。
 これで最初の関門は突破できた。
 あとは、リーゲルトだけだ。

     *     *     *

「ぼくに万が一があっても、リーゲルトくんの保護は最優先にしてほしい」

 この作戦を立案したとき、ディルマュラは珍しく神妙な面持ちでそう言った。
 無論そのつもりです、と被せるように返したのはシーナ。
 その真意が見捨てることではなく、彼女なら自力でどうにかする、という信頼によるものだとはディルマュラも理解している。

「ディルは友人です。が、王女としての彼女と縁が切れるならそれも、と常々思っていますのであしからず」
「ならぼくが王家から籍を抜けばきみは、どうする?」
「変わりませんよ。神殿であなたと一緒に修練にはげむだけです。あなたの愛なんてこれっぽっちもいらないですけど、あなたとユーコ、それにライカたちとはげむ修練は、これ以上なく楽しいものですから」

 シーナはいつも表情に乏しい。
 本人曰く、幼い頃からディルマュラの面倒を見続けて疲れた、とのこと。特に幼いころはうかつに反応するとそれを面白がって余計ないたずらをしてきたからだ、と彼女は言うがディルマュラは否定する。
 なのに、この時浮かべた表情を、五人は終生忘れないだろう。



「我が主はいま取り込み中だ。しばし待たれよ」

 森の入り口にいた長身の、アデルペと名乗った女は六人をとある小屋の前まで案内し、そう告げた。
 ライカたちの祖先と袂を分かち、機械文明を捨てて森で暮らすラグリォスだが、さすがに最低限の文明は残している。簡素だが屋根付きの丸太小屋と読んで差し支えない程度の家々が並び、煙突からは煙が昇っている家もある。
 六人はこの集落にある厩舎に乗ってきた馬を繋ぎ、徒歩でアデルペの案内を受けた。

「取り込み中ってなにやってるの」

 ミューナが少し強く問いかける。
 アデルペはつまらなさそうににらみ、「こたえる理由はない」とだけ返した。

「まさか、ぼくより先に別の誰かと初夜をお楽しみ、とかじゃないだろうね」

 口角を上げて肩をすくめながらディルマュラが言う。
 
「なにを?」
「先日来より、風の神殿から行方不明者がひとりいてね。ぼくたち風師や全ての監視カメラの目をくぐり抜けて、誘拐されたとみて捜索しているんだ」
「……そちらの不備をこちらの責任にされても」
「なによりその者は出自が、エルガートさまのご興味をひくには十分すぎるほどに異質なのでね。きみたち、なにか知っているかい?」
「知らぬ。だいいち、おまえが我が主のなにを知っているというのだ」
「ぼくの母上は毎年年始の挨拶に参じている。どのような方かぐらいはお話してもらっている。そこから好みを探ることぐらい、ぼくにだってできるさ」

 ディルマュラとアデルペの間にある空気がどんどん険悪になっていく。
 ライカはいつ殴り込むのかと退屈そうにあくびをし、オリヴィアはさっさと終わらせたいと顔に出しながらディルマュラの袖口を引っ張って挑発をやめさせようとしている。
 シーナとユーコはどちらに転んでもいいよう神妙に身構えている。

「精霊たち言ってる。ここに精霊たちから嫌われてる子がいるって。わたしたち、その子と精霊を仲直りさせたくて来たの」

 ミューナの言葉に、アデルペは口を結んだ。

「……できるのか、そんなことが」

 はじめて、アデルペに迷いが生まれたように見えた。
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