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おとんと猫
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「ただいまー」
「おかえり、おとん」
「ニャー」
「今日は早かったな。夜ごはんはさんま焼いたったでー、って、ニャー?」
「さよか、さんまか。おおきににゃ」
「ニャー」
「ちょい待てや、おとん。なんか猫の鳴き声がせえへんか?」
「なんや、別にせえへんけどにゃ。わしの名古屋弁と聞き違えしてにゃーか。わし、最近名古屋弁にはまってんねん、にゃー」
「おまえ、名古屋の人に怒られるで。『にゃー』つければ名古屋弁というわけやないからな」
「ニャー」
「ほら、やっぱ聞こえるやんけ! おまえ、さては……ちょっとそのカバン開けてみいや」
「い、嫌だにゃ。猫なんてどこにもいないんだにゃ。きっと真美ちゃんの聞き違えなんだにゃ!」
「影千代か! もはや名古屋弁のかけらもないやんけ! ちょいカバンかしてみいや! ほれ、やっぱり! おとん! これはなんや!」
「見たところ子猫のようですな。ご存知ないのでしょうか?」
「くっ! 開き直りやがったな。おまえ、あかんで。猫なんか飼ったら部屋めちゃめちゃになんで」
「猫やないで。『美智子』や」
「はあ? なんやて?」
「せやから、この子の名前やがな。『美智子』。今日から家族の一員や」
「『美智子』って出て行ったおかんと同じ名前やんか」
「せやで。あかんのか?」
「おまえ一度『美智子』に逃げられとるやんけ。そんな名前にしたらまた逃げられんで」
「くっ! 酷いことを言いよってからに……。ほんなら、この子は飼ってもええんやな!」
「なんでやねん。ほんならっておかしいやろ。あかん言うてるやん。拾ってきたところに戻してき」
「アホな。拾ったんやないで、苦労して捕まえてきたんや」
「おまえ。拾う前から逃げられとるやんけ」
「こんな鈍臭いわしに捕まるなんて、これはきっと運命なんや。せやから、この子、今日から飼うで」
「あかん言うてるやろ」
「あかんて、おまえ、この子返してきたら、わし、人生で二度も『美智子』を失うことになるんやで? それでもええんか! そんなんセカンドレイプやないか!」
「おとん、セカンドレイプの使い方間違うてるで」
「ニャー」
「ほーれ見ろ。おまえが『返して来い!』なんていうから、二代目美智子が怯えとるやんか。かわいそうに。おーよしよし」
「二代目っていうなや! それに飼うってお世話は誰がするんや? うちは学校あるし、おまえも会社があるやろ?」
「それは大丈夫や」
「大丈夫ってどないすんのや?」
「育休を取る」
「アホな! おまえ、この間も『虫歯と対話をする』とか言って仕事休んどったやないか! あかんで! 流石にクビになんで、おとん!」
「大丈夫や。何を隠そう、わし、会社におってもおらんでも大して変わりはないって評判なんや。心配すなや」
「いや、その評判、もうすでに末期やないか! めちゃ心配になるやんか! ちょ、マジで頼むでおとん!」
「まあ、真美よ。ちょっと聞けや」
「なんや?」
「わしも男手ひとつでおまえを育ててきたんや。そら、母親がおらんくておまえに淋しい想いをさせたかも知らん。それはホンマにすまんと思ってる」
「うち、週一でおかんに会ってるから別にええで」
「そんなおまえも来年から……えっ? 週一? マジで? み、美智子はどこにおるんや?」
「ま、まあええがな。ほんで、何? 来年から何て?」
「くっ。おまえらわしに隠れて……。まあ、ええわ。おまえも来年は大学生や。ひょっとしたら一人暮らしをしたくなるかも知れん。せやけど、おまえは根は優しい娘や。この家にわしをひとり置いて出て行かれへんって思うかも分からんやんか」
「ま、多少はな」
「多少かいな。まあええわ。そんでな、そんな時猫がいてくれたらわしも淋しさを紛らわすことができるし、おまえも猫おるなら出てっても大丈夫か、って思うかもしれんやんか。まさに、ウィンウィンウィンやないか」
「ウィン一個多いで」
「せやからな、猫を飼うゆうのは、真美、おまえの為でもあるんやで」
「また理屈捏ねよってからに……ほんま屁理屈だけは達者やで……って、あれ? おとん。猫はどこに行ったん?」
「おろ? ホンマやな。さっきまでここにおったのに。美智子ー! 美智子ー! 出ておいでー。美智子ー! わしのかわいい美智子ちゃんやー、お風呂入れたるでー、出ておいでー」
「ちょ、おとん! やめえや! お勝手開けっ放しやのに、ご近所さんに丸聞こえやんか! おかん帰ってきた思われんで!」
「お勝手開けっ放しって! 真美! おまえなんでお勝手なん開けておくねん! ちょっ、お勝手行くで!」
「いや、さんまてけっこう煙が凄いやんか。せやから換気にとおもて……って勝手口か!」
「ほら、あそこや、真美見てみいや。こっから出て行ったんや! おまえが勝手口なんか開けておくからや! 美智子が側溝に入って逃げていきよるで! 美智子ー! 帰ってこーい! 美智子ー!」
「ちょ、おとんやめーや! 一度帰ってきたおかんがまた出てったって思われんで! もう、諦めや! おまえの人生、美智子に縁がなかったんやわ、きっと!」
「やかましいわ! 美智子ーー! 帰っておいでーーー! 美智子ーーー! カンバーーーーック! 美智子ーーーーーー!」
数日後
「ただいまー」
「おかえりー、おとん。今日も早いな。おまえ仕事大丈夫なんか?」
「ワン」
「ワンダフルな一日やったな、今日も。腹減ったな。今夜の飯はなんや? ワンタンメンか?」
「ワン」
「おまえ……」
「いや……三代目がな……どうしても付いてくるからな……その……」
「か・え・し・て・こ・い!」
了
「おかえり、おとん」
「ニャー」
「今日は早かったな。夜ごはんはさんま焼いたったでー、って、ニャー?」
「さよか、さんまか。おおきににゃ」
「ニャー」
「ちょい待てや、おとん。なんか猫の鳴き声がせえへんか?」
「なんや、別にせえへんけどにゃ。わしの名古屋弁と聞き違えしてにゃーか。わし、最近名古屋弁にはまってんねん、にゃー」
「おまえ、名古屋の人に怒られるで。『にゃー』つければ名古屋弁というわけやないからな」
「ニャー」
「ほら、やっぱ聞こえるやんけ! おまえ、さては……ちょっとそのカバン開けてみいや」
「い、嫌だにゃ。猫なんてどこにもいないんだにゃ。きっと真美ちゃんの聞き違えなんだにゃ!」
「影千代か! もはや名古屋弁のかけらもないやんけ! ちょいカバンかしてみいや! ほれ、やっぱり! おとん! これはなんや!」
「見たところ子猫のようですな。ご存知ないのでしょうか?」
「くっ! 開き直りやがったな。おまえ、あかんで。猫なんか飼ったら部屋めちゃめちゃになんで」
「猫やないで。『美智子』や」
「はあ? なんやて?」
「せやから、この子の名前やがな。『美智子』。今日から家族の一員や」
「『美智子』って出て行ったおかんと同じ名前やんか」
「せやで。あかんのか?」
「おまえ一度『美智子』に逃げられとるやんけ。そんな名前にしたらまた逃げられんで」
「くっ! 酷いことを言いよってからに……。ほんなら、この子は飼ってもええんやな!」
「なんでやねん。ほんならっておかしいやろ。あかん言うてるやん。拾ってきたところに戻してき」
「アホな。拾ったんやないで、苦労して捕まえてきたんや」
「おまえ。拾う前から逃げられとるやんけ」
「こんな鈍臭いわしに捕まるなんて、これはきっと運命なんや。せやから、この子、今日から飼うで」
「あかん言うてるやろ」
「あかんて、おまえ、この子返してきたら、わし、人生で二度も『美智子』を失うことになるんやで? それでもええんか! そんなんセカンドレイプやないか!」
「おとん、セカンドレイプの使い方間違うてるで」
「ニャー」
「ほーれ見ろ。おまえが『返して来い!』なんていうから、二代目美智子が怯えとるやんか。かわいそうに。おーよしよし」
「二代目っていうなや! それに飼うってお世話は誰がするんや? うちは学校あるし、おまえも会社があるやろ?」
「それは大丈夫や」
「大丈夫ってどないすんのや?」
「育休を取る」
「アホな! おまえ、この間も『虫歯と対話をする』とか言って仕事休んどったやないか! あかんで! 流石にクビになんで、おとん!」
「大丈夫や。何を隠そう、わし、会社におってもおらんでも大して変わりはないって評判なんや。心配すなや」
「いや、その評判、もうすでに末期やないか! めちゃ心配になるやんか! ちょ、マジで頼むでおとん!」
「まあ、真美よ。ちょっと聞けや」
「なんや?」
「わしも男手ひとつでおまえを育ててきたんや。そら、母親がおらんくておまえに淋しい想いをさせたかも知らん。それはホンマにすまんと思ってる」
「うち、週一でおかんに会ってるから別にええで」
「そんなおまえも来年から……えっ? 週一? マジで? み、美智子はどこにおるんや?」
「ま、まあええがな。ほんで、何? 来年から何て?」
「くっ。おまえらわしに隠れて……。まあ、ええわ。おまえも来年は大学生や。ひょっとしたら一人暮らしをしたくなるかも知れん。せやけど、おまえは根は優しい娘や。この家にわしをひとり置いて出て行かれへんって思うかも分からんやんか」
「ま、多少はな」
「多少かいな。まあええわ。そんでな、そんな時猫がいてくれたらわしも淋しさを紛らわすことができるし、おまえも猫おるなら出てっても大丈夫か、って思うかもしれんやんか。まさに、ウィンウィンウィンやないか」
「ウィン一個多いで」
「せやからな、猫を飼うゆうのは、真美、おまえの為でもあるんやで」
「また理屈捏ねよってからに……ほんま屁理屈だけは達者やで……って、あれ? おとん。猫はどこに行ったん?」
「おろ? ホンマやな。さっきまでここにおったのに。美智子ー! 美智子ー! 出ておいでー。美智子ー! わしのかわいい美智子ちゃんやー、お風呂入れたるでー、出ておいでー」
「ちょ、おとん! やめえや! お勝手開けっ放しやのに、ご近所さんに丸聞こえやんか! おかん帰ってきた思われんで!」
「お勝手開けっ放しって! 真美! おまえなんでお勝手なん開けておくねん! ちょっ、お勝手行くで!」
「いや、さんまてけっこう煙が凄いやんか。せやから換気にとおもて……って勝手口か!」
「ほら、あそこや、真美見てみいや。こっから出て行ったんや! おまえが勝手口なんか開けておくからや! 美智子が側溝に入って逃げていきよるで! 美智子ー! 帰ってこーい! 美智子ー!」
「ちょ、おとんやめーや! 一度帰ってきたおかんがまた出てったって思われんで! もう、諦めや! おまえの人生、美智子に縁がなかったんやわ、きっと!」
「やかましいわ! 美智子ーー! 帰っておいでーーー! 美智子ーーー! カンバーーーーック! 美智子ーーーーーー!」
数日後
「ただいまー」
「おかえりー、おとん。今日も早いな。おまえ仕事大丈夫なんか?」
「ワン」
「ワンダフルな一日やったな、今日も。腹減ったな。今夜の飯はなんや? ワンタンメンか?」
「ワン」
「おまえ……」
「いや……三代目がな……どうしても付いてくるからな……その……」
「か・え・し・て・こ・い!」
了
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