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ほんとうの卒業
しおりを挟む―― キシダ、リホ。
大学4年間の集大成、卒業証書授与式で名前を呼ばれ、私は壇上に上がっていった。
見守る人々の中に、身内はいない。
経済的援助をずっとしてくれた叔母も、海外にいるため出席は叶わなかった。
それでも、愛にあふれるメールを今朝、受け取ったばかりだった。
向こうは真夜中だというのに。
成績優秀者として、この度表彰されることになったということに、彼女は心から喜んでくれた。
母の妹で、中学一年の時、母の緊急入院の際に会いに来てくれた叔母は、
「私にそっくりなんだね!」
そういって、優しく抱きしめてくれたのだった。
それからというもの、ふたりとも私の母からはまるで認められることはなかったのだけれども、ずっと私たちはお互いに支え合って暮らしてきた。
山田さんはどうなったかって?
前を向いて、と言ってくれた彼は、それからかなり苦労したのだと思う。
小6の私が突然消えた翌日、彼の部屋の玄関先にあったビニル袋、その中の缶ビール二缶が、彼のそれからの6年間を灰色に変えてしまった。
それが誰からの差し入れだったかは、もう私は追及することはない。
ようやく、私たちは卒業できたのだから。
「おめでとう」
講堂の片隅に控えていた、客員教授のひとりが立ち上がり私に近づく。
「やっと、正々堂々とお祝いできるね」
私は笑顔で答えた。
「ありがとうございます、山田先生」
彼は、以前みたいなくすぐったそうな笑顔で答える。
「だからそれ、偽名だって」
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