人間観察日記

記憶列車

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1月15日

夕方頃、人間が目を覚ました。
目を覚ました人間は、ぼんやりとした視線で室内を見渡していた。
その魂が抜け落ちた表情に、遂に気が狂ってしまったのではないかと焦りを覚えたが、間もなく人間は泣き出した。ただ静かに声を殺して、身体を震わせながら涙を流していた。無理もない。飼い主からの虐待を受け、大切な人間を亡くし、自分自身の意思もなく異種族の私に引き取られてしまったのだから。
私はどうしていいのか分からず、ベッドの隣に腰掛けたまま涙を流す人間をただ見つめていた。
人間の流す涙は透明で、何処か儚げで美しかった。

泣き疲れたのか、人間はまたうとうとしてしまっていた。しかし、栄養不足が心配なので、私は寝かせるより先に食事を摂らせることにした。昨日通販で購入した人間食の本が届いたので、シチューと言うものを作ってみたのだ。このシチューという食べ物は人間専用なので私は味見ができないのだが。
人間は片腕を無くしているので、とりあえず私がスプーンで掬って人間にあたえてみた。
美味しい!という感動的な顔はしていなかったような気がする。それでも、続けて掬ってあたえるとパクパク食べていた。人間が口をもぐもぐさせる様子は、純粋に可愛らしいと思う。
人間は水分すらも不足してしまうということなので、人間用に消毒された水も飲ませておいた。
私達にとって食事という行為は一種の娯楽に近いものであるので、食事が必須の人間はまあ不便だなと思う。睡眠も同様だ。

ベッドの上での食事を終えると、人間はじっと私を見つめてきた。眉は少し下がっており、瞬きを繰り返していた。不安げな視線だった。
私はあなたを攻撃しませんよ、という意思を伝える為に、人間の頭をよしよしと撫でてみた。
驚いてはいたようだが、怯える様子はなくおとなしく撫でられていた。

それから夜になって、人間はまた寝た。
本当によく寝る生き物だ。
まあ、人間が寝ている間にこの日記を書けということなのだろう。

早く、彼に名前をつけたい。
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みんなの感想(1件)

夜雨狼牙
2017.01.27 夜雨狼牙

日記で読みやすくて面白いです。(^ ^)頑張ってください\(^o^)/

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