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第6話:ヒロインとの遭遇
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とりあえず、地下五階まで進んだ。出会ったモンスターは状態異常を駆使してできるだけ倒して、突き進んだ。
さすがにダンジョンの道はうろ覚えだったので、ちょっと迷ったが、何とかなった。
メイクベダンジョンは五階ごとにセーブポイントがあって町まで帰れる機能までついている。じっくり攻略して欲しいという、メーカー側の計らいだ。とても助かる。
実をいうと、五階につく直前はちょっと危なかった。敵は強くなる上に、回復アイテムは尽き掛け。レベルが上がったからか、不意打ちを受ける回数は減ったけれど、そもそも紙装甲の魔法職にとって一撃が重すぎる。
最後の方なんて、スリープを使って逃げの一手だった。MP回復アイテムが切れたんで。
あれは危なかった。ペース配分はもっとちゃんと考えよう。あと、ダンジョン脱出アイテムもだ。実は今回買い忘れてて冷や汗が出た。必ず一個は持って、準備の時には指さし確認しよう。
多くの経験と教訓と共に町に帰ったオレは、まっすぐ冒険者ギルドを目指した。
相変わらず人通りがある道は、そろそろ日暮れを向かえそうだ。思ったよりも長く潜っていられた。最初の探索としては上出来だろう。
メイクベの町の中心部にある、木造の大きな建物の中に入り、まっすぐ受付に向かう。
中には冒険者達がいるが、一瞬こちらを見ただけで視線を外した。実は魔法屋に行く前に、ここに挨拶している。その時も「なんだ学園から来た新人か」と冷めた態度だったので、皆オレになんか興味がないのだろう。非常に助かる。
真っ直ぐ受付に向かって、ちょっと疲れた感じのお姉さんに話しかける。
「あの、ダンジョンで手に入れた魔石を引き取って貰いたいんですけれど」
「はい。あら、今朝魔法屋について聞かれた学生さんの……マイス君だったかしら?」
「名前はあってるけれど、元学生ですよ。これ、お願いします」
この受付さんには挨拶した時に魔法屋を紹介してもらった。ゲームだとコマンド一つで移動できたけど、現実になるとどこに行けばいいかわからなくて、いきなり困ってたところ助かった。
「はいはい……これ、本当にあなたが?」
オレが冒険者ポーチから魔石がみっちり詰まった袋を取り出して置くと、お姉さんの目が点になった。
「ええ、色々と頑張りまして」
「やっぱり学園出てると違うのねぇ。結構大きい魔石もあるじゃない。ちょっと待っててね」
そう言って、お姉さんは受付から離れた。
冒険者ギルドでは魔石を鑑定して引き取っている。どうやら特殊な技術であるらしく、独占商売だ。魔石は利用価値が高い資源であるため、それを社会に供給して利益を上げて、ギルドを運営しているという寸法らしい。
「お待たせしました。二万シルバーになります。ほんとに凄いわね。一月暮らせるわよ」
「頑張りましたから」
お姉さんはまだ驚いている。必死になって命をかけてるんだから、沢山報酬が貰えるくらいはいいと思う。それに、二万シルバーは生活にはいいけど、装備品を更新するにはかなり足りない。回復アイテムと脱出アイテムを買って、あとは貯蓄だ。
「……そうだ、自分がどんな魔法を使えるようになったかわかる方法ってありますか?」
「学園の授業じゃ教えてくれないのかな? 魔法屋さんで見てくれるわよ」
「すいません、あんまり真面目に授業受けてなかったんで」
「それでこの結果なら大したものよ。頑張ってね」
知識の不足は落第生ということで何とか誤魔化した。信じてくれたかは微妙だ。
今の話だと、またあの魔法屋にいかなきゃいけないのか……。レベルアップしてるだろうから、能力の確認はしたいし、新しい魔法も欲しい。メイクベは町が小さいから、他に魔法屋はないって言ってたな……。
ちょっと重い気分になりながら、オレは受付を離れ、ギルドの外に出た。
ここは町の中心部、石畳の道沿いはそれなりに賑やかで、店は多い。もう夕食の時間だ。初の冒険が無事に終わったことを祝って、美味いものでも食べよう。しまったな、どうせならお姉さんにお勧めの店でも聞けば良かった。
我ながら厚かましいことを考えながら歩き出した時だった。
「おい、今日の動きはなんだ。あれじゃあ、俺達が死んじまうだろうが」
「え、でも、この前は回復優先って……」
「状況見ろよ! もうモンスターは死ぬ寸前だっただろうが! あそこは武器を強化するんだよ!」
「……わかりました」
「なんだぁ、その目は。嫌ならやめてもいいんだぜ、俺達と組むのをよ」
「それは……すいません。以後、気を付けます」
「わかりゃあいいんだ。明日は気を付けろよ」
側で聞いているだけで気分の悪くなるやり取りが目に入った。
男二人に女一人。大柄な二十代くらいの男達が若い女の子を一方的に責めている構図だ。それも理不尽な感じに。
見ていて胸くそ悪くなるような出来事である。
荒っぽい仕事とはいえ、ああまでパワハラ全開なのはどうかと思う。それと、回復は大事だ。あと一歩で倒せるなら無理に強化魔法なんかいらないだろうに。
なんとも言えないものを見てしまい、立ち止まっているオレ。
一人取り残された女の子は、大きく溜息を吐いていた。着ているローブから察するに、回復職だろう。粗末に扱われて可哀想に。
「……はぁ。嫌になるな」
小さな呟きを残して、女の子がこちらを振り返る。
「もしかして、フォミナ・エシーネか?」
その顔を見て、思わず声が出ていた。
「? あ……もしかして……えっと……すいません。学園の同級生ですよね。顔は見たことあるんですけど、名前を思い出せなくて」
驚きつつも頭を下げる女の子を見て、オレは静かに納得した。
所詮はサブキャラ。こんなものだ。
ともかく、オレは思いがけず、ゲームのヒロインの一人に遭遇してしまったのである。
さすがにダンジョンの道はうろ覚えだったので、ちょっと迷ったが、何とかなった。
メイクベダンジョンは五階ごとにセーブポイントがあって町まで帰れる機能までついている。じっくり攻略して欲しいという、メーカー側の計らいだ。とても助かる。
実をいうと、五階につく直前はちょっと危なかった。敵は強くなる上に、回復アイテムは尽き掛け。レベルが上がったからか、不意打ちを受ける回数は減ったけれど、そもそも紙装甲の魔法職にとって一撃が重すぎる。
最後の方なんて、スリープを使って逃げの一手だった。MP回復アイテムが切れたんで。
あれは危なかった。ペース配分はもっとちゃんと考えよう。あと、ダンジョン脱出アイテムもだ。実は今回買い忘れてて冷や汗が出た。必ず一個は持って、準備の時には指さし確認しよう。
多くの経験と教訓と共に町に帰ったオレは、まっすぐ冒険者ギルドを目指した。
相変わらず人通りがある道は、そろそろ日暮れを向かえそうだ。思ったよりも長く潜っていられた。最初の探索としては上出来だろう。
メイクベの町の中心部にある、木造の大きな建物の中に入り、まっすぐ受付に向かう。
中には冒険者達がいるが、一瞬こちらを見ただけで視線を外した。実は魔法屋に行く前に、ここに挨拶している。その時も「なんだ学園から来た新人か」と冷めた態度だったので、皆オレになんか興味がないのだろう。非常に助かる。
真っ直ぐ受付に向かって、ちょっと疲れた感じのお姉さんに話しかける。
「あの、ダンジョンで手に入れた魔石を引き取って貰いたいんですけれど」
「はい。あら、今朝魔法屋について聞かれた学生さんの……マイス君だったかしら?」
「名前はあってるけれど、元学生ですよ。これ、お願いします」
この受付さんには挨拶した時に魔法屋を紹介してもらった。ゲームだとコマンド一つで移動できたけど、現実になるとどこに行けばいいかわからなくて、いきなり困ってたところ助かった。
「はいはい……これ、本当にあなたが?」
オレが冒険者ポーチから魔石がみっちり詰まった袋を取り出して置くと、お姉さんの目が点になった。
「ええ、色々と頑張りまして」
「やっぱり学園出てると違うのねぇ。結構大きい魔石もあるじゃない。ちょっと待っててね」
そう言って、お姉さんは受付から離れた。
冒険者ギルドでは魔石を鑑定して引き取っている。どうやら特殊な技術であるらしく、独占商売だ。魔石は利用価値が高い資源であるため、それを社会に供給して利益を上げて、ギルドを運営しているという寸法らしい。
「お待たせしました。二万シルバーになります。ほんとに凄いわね。一月暮らせるわよ」
「頑張りましたから」
お姉さんはまだ驚いている。必死になって命をかけてるんだから、沢山報酬が貰えるくらいはいいと思う。それに、二万シルバーは生活にはいいけど、装備品を更新するにはかなり足りない。回復アイテムと脱出アイテムを買って、あとは貯蓄だ。
「……そうだ、自分がどんな魔法を使えるようになったかわかる方法ってありますか?」
「学園の授業じゃ教えてくれないのかな? 魔法屋さんで見てくれるわよ」
「すいません、あんまり真面目に授業受けてなかったんで」
「それでこの結果なら大したものよ。頑張ってね」
知識の不足は落第生ということで何とか誤魔化した。信じてくれたかは微妙だ。
今の話だと、またあの魔法屋にいかなきゃいけないのか……。レベルアップしてるだろうから、能力の確認はしたいし、新しい魔法も欲しい。メイクベは町が小さいから、他に魔法屋はないって言ってたな……。
ちょっと重い気分になりながら、オレは受付を離れ、ギルドの外に出た。
ここは町の中心部、石畳の道沿いはそれなりに賑やかで、店は多い。もう夕食の時間だ。初の冒険が無事に終わったことを祝って、美味いものでも食べよう。しまったな、どうせならお姉さんにお勧めの店でも聞けば良かった。
我ながら厚かましいことを考えながら歩き出した時だった。
「おい、今日の動きはなんだ。あれじゃあ、俺達が死んじまうだろうが」
「え、でも、この前は回復優先って……」
「状況見ろよ! もうモンスターは死ぬ寸前だっただろうが! あそこは武器を強化するんだよ!」
「……わかりました」
「なんだぁ、その目は。嫌ならやめてもいいんだぜ、俺達と組むのをよ」
「それは……すいません。以後、気を付けます」
「わかりゃあいいんだ。明日は気を付けろよ」
側で聞いているだけで気分の悪くなるやり取りが目に入った。
男二人に女一人。大柄な二十代くらいの男達が若い女の子を一方的に責めている構図だ。それも理不尽な感じに。
見ていて胸くそ悪くなるような出来事である。
荒っぽい仕事とはいえ、ああまでパワハラ全開なのはどうかと思う。それと、回復は大事だ。あと一歩で倒せるなら無理に強化魔法なんかいらないだろうに。
なんとも言えないものを見てしまい、立ち止まっているオレ。
一人取り残された女の子は、大きく溜息を吐いていた。着ているローブから察するに、回復職だろう。粗末に扱われて可哀想に。
「……はぁ。嫌になるな」
小さな呟きを残して、女の子がこちらを振り返る。
「もしかして、フォミナ・エシーネか?」
その顔を見て、思わず声が出ていた。
「? あ……もしかして……えっと……すいません。学園の同級生ですよね。顔は見たことあるんですけど、名前を思い出せなくて」
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所詮はサブキャラ。こんなものだ。
ともかく、オレは思いがけず、ゲームのヒロインの一人に遭遇してしまったのである。
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