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第8話:地下十五階の決意
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ダンジョン攻略を開始してから十日、オレは地下十四階まで到達した。
初日に五階までいけたのを考えると随分遅く感じるが、下にいくほど敵が強くなることもあり、慎重に進むことにした影響だ。
戦争が始まって死ぬのは嫌だが、ダンジョン探索でそれより早くくたばっていては元も子もない。レベル上げと資金稼ぎも兼ねて、オレは意識してゆっくり先に進んだ。
「はぁい。毎日ありがとね、マイスちゃ~ん」
「どうも。回復と、魔力ポーション。それとこのリストのアイテム。それとエスケープの魔法陣も売ってください」
「はいはい。数はいつも通りでいいの? そのポーチ沢山入るなら、エスケープは余分に持っておいた方が安全よ?」
「じゃ、もう一個追加でお願いします」
すっかり顔なじみになったおばちゃんの薦めに素直に従うオレ。別ゲーで脱出アイテムを持ち込み忘れて困ったことが脳裏に去来したのだ。あれは途方に暮れる。予備があって悪いことはない。
「はいどうぞ。三万シルバーね」
「これで。あと、オレの使える魔法、増えてるか見てもらっていいですか?」
ポーション類を受け取りつつ、追加のお金を払うと、おばちゃんはいつもの水晶玉を出した。
指示されるまでも無く、オレはそれに手を触れる。
「む……残念。まだ新しい魔法は無理みたいね。そろそろ二次職にならないと駄目なんじゃないかしら? マイスちゃんならすぐだと思うけれど」
「二次職にならなきゃ追加は無理そうですか」
「ごめんねぇ。そこは決まりだから。他で色々とサービスしてあげるわぁ」
「そ、それはいつもお世話になってますから」
意味ありげな目線を向けてくるおばちゃんに、ちょっと恐怖を覚えたオレは、足早に店を出た。
昼の雑踏の中、ダンジョンへ向かう道を歩きながら、オレは考える。
ステータスを見る手段がないためはっきりしないが、そろそろオレは二次職になれる。
ゲーム的には二次職は四十レベル。三次職は八十レベルで転職可能だ。三次職はレベル以外にもイベントやアイテムで転職できるパターンもある。
この世界的には、三次職は達人の更に先の領域に至らなければ到達できない場所、ということになっている。実際、普通に戦ってそのレベルまで上げるのはかなり面倒なのでわからんでもない。
メイジの二次職はウィザード。使える魔法の種類が増えるので、是非ともなりたい。ただ、メイクベの町では二次職になれないので移動する必要がある。
とりあえず、メイクベダンジョンのボスを倒したら移動する。そんな目安がオレの中にはある。
地道な探索で使える魔法も増えた。今のオレは、幻覚、暗闇、沈黙など、更に多くの状態異常魔法を使える。攻撃魔法は火属性しか覚えられなかったけど。
昨日は十四階まで降りて、とりあえず撤退した。道順を覚えるのが目的だったので、今ならセーブポイントの十階から一気に下ることができる。十四階も、最下層への階段を見つけてある。
まず、今日は十五階まで降りて、隠し部屋に侵入。それから、当初の目的である封技石<貫通>を手に入れよう。そうすれば、最下層のボスも楽に倒せる。
そんな決意を固めつつ、オレはメイクベダンジョン前の転送陣から地下十階に向かった。
○○○
地下十四階に到達するなり、ハイ・トロルに襲われた。灰色をした石のような皮膚を持つ、太った巨体のモンスターだ。見た目通りのタフさと攻撃力が売りで、普通に相手をするには恐いやつである。
「グォォォォ!」
「パラライズ、ポイズン」
「…………グフォッ」
麻痺と毒を受けたハイ・トロルはその場に倒れて、全身に毒が回り絶命した。
後に残ったのは灰色の魔石。ありがたく頂戴する。
初日に比べれば、大分慣れた。装備品も少し追加している。右手に魔法の消費MPを押さえるアミュレット。首には先制率を下げる風のスカーフを巻いている。
レベルアップもあってか、不意打ちが減った。普通に遭遇すれば、今みたいに安定して対処できる。
今後の問題は魔法の種類や装備になる。その対策は、メイクベダンジョンを攻略してからやる予定だ。
予定通り十四階を順調に踏破し、ダンジョン最下層への階段のある部屋に入ると、見知った顔がいた。
「あら、フォミナ……さん?」
「マイスさん。こんにちは。一人でここまで来るなんてさすがですね」
そこにいたのはフォミナのパーティーだった。
「なんだ、おい。知り合いか? ソロじゃねぇか。俺達の邪魔しないように言っておけよ」
「無駄話しないで集中するんだぞ。今度こそ終わりにするんだからな」
オレの方をじろりと睨んで言う男達。明らかに歓迎されていない。
「あ、オレは様子見にきただけなんで、お邪魔しませんので安心してください」
そういうと、男達はオレに興味を失ったらしく視線を切った。
「行くぞ。フォミナ、おしゃべりは外に出てからにしろ」
「三度目の挑戦だ、集中しろよ」
「あ、ま、待ってください! それじゃ、また! マイスさん!」
さっさと先に行ってしまった男達に、フォミナは慌ててついていってしまった。
……三回目の挑戦か。そろそろかもな。
あの男二人はボスにやられ、フォミナだけ脱出する。そのシナリオは順調に進行しているようだ。
ともあれ、フォミナ達を先行させ、オレは階段でしばらく待ってから最下層に降りた。
ダンジョン最下層はシンプルな部屋だ。
奥にはボスへの巨大な扉が一つ。今は閉じられているが、向こう側ではフォミナ達が戦っているだろう。
正直、彼女のことは気になるが。まずは自分の目的が優先だ。
オレは階段から右側の壁沿いをゆっくりと歩き、石壁をつぶさに観察した。
「あった……なるほど。『しらべる』って感じだな」
じっと壁を見ていると、一カ所だけ窪んでいるところがあるのが見えた。
迷わずそこを押し込むと、重い感触と共に壁自体がゆっくりと消えて小さな金属の扉が現れた。
これこそが目的の隠し部屋だ。ついにここまで来た。
「……誰も来てませんように」
ドアを開け、中に入るとそこは二畳くらいの狭いスペース。
そして、中央には宝箱が鎮座していた。
「………」
はやる気持ちを抑え、ゆっくりと箱を開ける。
「……あった」
中に入っていたのは、透明で小さな球体。中に青白い光が瞬いている。
これこそが<貫通>の封技石。オレが生き残るための手段だ。
落ちついて冒険者ポーチに<貫通>の封技石を入れる。
さて、目的は果たした。このまま脱出しようか。まず、スキルを覚えさせて貰わなきゃな。
やり遂げた満足感と共に、小部屋を出たとき。ふと、ボス部屋の扉が目に入った。
「………揺れた?」
人が四人くらい並んで通れそうな扉が、一瞬揺れた。中で激しいボス戦が繰り広げられていることを考えると、不思議ではない。
ちょっと、様子を見てから帰ろうかな。
そんな思考が脳裏をよぎる。このまま放っておいても、フォミナは生き残れる。ムカつく仲間は死に、そのうち主人公に拾われて幸せになる可能性もある。
それでいいのだろうか?
主人公と出会うまで、フォミナは仲間を守れなかったことを悔やんで、抜け殻のようになる。人の良い彼女にとってはあんなのでも、仲間だったんだ。
自分の好きなキャラ……いや、女性にそんな思いをさせていいのか? 今なら、悲劇を防げるかもしれないのに。
それに、主人公だって現れるとは限らないじゃないか。その場合、フォミナはずっと失意のままだ。
一つ、思いついたことがあった。
「……防げるか。試す価値はあるかもな」
オレはこれから、自分の運命を相手に戦うことになる。ならここで、フォミナの仲間を死の運命から救えるか、試してみるのはアリな気がする。
せっかく手に入れた<貫通>はまだ使えないが、やりようはある。この十日間で色々と準備は整えた。
自分への言い訳、好奇心、検証。色んな感情が、オレにこの決断をさせた。
右手のルビーワンドを握り、オレはボスへの扉に手をかけた。
ゆっくりと開いた巨大な扉の向こう。
そこに広がっていたのは、パーティ全滅直前の光景だった。
初日に五階までいけたのを考えると随分遅く感じるが、下にいくほど敵が強くなることもあり、慎重に進むことにした影響だ。
戦争が始まって死ぬのは嫌だが、ダンジョン探索でそれより早くくたばっていては元も子もない。レベル上げと資金稼ぎも兼ねて、オレは意識してゆっくり先に進んだ。
「はぁい。毎日ありがとね、マイスちゃ~ん」
「どうも。回復と、魔力ポーション。それとこのリストのアイテム。それとエスケープの魔法陣も売ってください」
「はいはい。数はいつも通りでいいの? そのポーチ沢山入るなら、エスケープは余分に持っておいた方が安全よ?」
「じゃ、もう一個追加でお願いします」
すっかり顔なじみになったおばちゃんの薦めに素直に従うオレ。別ゲーで脱出アイテムを持ち込み忘れて困ったことが脳裏に去来したのだ。あれは途方に暮れる。予備があって悪いことはない。
「はいどうぞ。三万シルバーね」
「これで。あと、オレの使える魔法、増えてるか見てもらっていいですか?」
ポーション類を受け取りつつ、追加のお金を払うと、おばちゃんはいつもの水晶玉を出した。
指示されるまでも無く、オレはそれに手を触れる。
「む……残念。まだ新しい魔法は無理みたいね。そろそろ二次職にならないと駄目なんじゃないかしら? マイスちゃんならすぐだと思うけれど」
「二次職にならなきゃ追加は無理そうですか」
「ごめんねぇ。そこは決まりだから。他で色々とサービスしてあげるわぁ」
「そ、それはいつもお世話になってますから」
意味ありげな目線を向けてくるおばちゃんに、ちょっと恐怖を覚えたオレは、足早に店を出た。
昼の雑踏の中、ダンジョンへ向かう道を歩きながら、オレは考える。
ステータスを見る手段がないためはっきりしないが、そろそろオレは二次職になれる。
ゲーム的には二次職は四十レベル。三次職は八十レベルで転職可能だ。三次職はレベル以外にもイベントやアイテムで転職できるパターンもある。
この世界的には、三次職は達人の更に先の領域に至らなければ到達できない場所、ということになっている。実際、普通に戦ってそのレベルまで上げるのはかなり面倒なのでわからんでもない。
メイジの二次職はウィザード。使える魔法の種類が増えるので、是非ともなりたい。ただ、メイクベの町では二次職になれないので移動する必要がある。
とりあえず、メイクベダンジョンのボスを倒したら移動する。そんな目安がオレの中にはある。
地道な探索で使える魔法も増えた。今のオレは、幻覚、暗闇、沈黙など、更に多くの状態異常魔法を使える。攻撃魔法は火属性しか覚えられなかったけど。
昨日は十四階まで降りて、とりあえず撤退した。道順を覚えるのが目的だったので、今ならセーブポイントの十階から一気に下ることができる。十四階も、最下層への階段を見つけてある。
まず、今日は十五階まで降りて、隠し部屋に侵入。それから、当初の目的である封技石<貫通>を手に入れよう。そうすれば、最下層のボスも楽に倒せる。
そんな決意を固めつつ、オレはメイクベダンジョン前の転送陣から地下十階に向かった。
○○○
地下十四階に到達するなり、ハイ・トロルに襲われた。灰色をした石のような皮膚を持つ、太った巨体のモンスターだ。見た目通りのタフさと攻撃力が売りで、普通に相手をするには恐いやつである。
「グォォォォ!」
「パラライズ、ポイズン」
「…………グフォッ」
麻痺と毒を受けたハイ・トロルはその場に倒れて、全身に毒が回り絶命した。
後に残ったのは灰色の魔石。ありがたく頂戴する。
初日に比べれば、大分慣れた。装備品も少し追加している。右手に魔法の消費MPを押さえるアミュレット。首には先制率を下げる風のスカーフを巻いている。
レベルアップもあってか、不意打ちが減った。普通に遭遇すれば、今みたいに安定して対処できる。
今後の問題は魔法の種類や装備になる。その対策は、メイクベダンジョンを攻略してからやる予定だ。
予定通り十四階を順調に踏破し、ダンジョン最下層への階段のある部屋に入ると、見知った顔がいた。
「あら、フォミナ……さん?」
「マイスさん。こんにちは。一人でここまで来るなんてさすがですね」
そこにいたのはフォミナのパーティーだった。
「なんだ、おい。知り合いか? ソロじゃねぇか。俺達の邪魔しないように言っておけよ」
「無駄話しないで集中するんだぞ。今度こそ終わりにするんだからな」
オレの方をじろりと睨んで言う男達。明らかに歓迎されていない。
「あ、オレは様子見にきただけなんで、お邪魔しませんので安心してください」
そういうと、男達はオレに興味を失ったらしく視線を切った。
「行くぞ。フォミナ、おしゃべりは外に出てからにしろ」
「三度目の挑戦だ、集中しろよ」
「あ、ま、待ってください! それじゃ、また! マイスさん!」
さっさと先に行ってしまった男達に、フォミナは慌ててついていってしまった。
……三回目の挑戦か。そろそろかもな。
あの男二人はボスにやられ、フォミナだけ脱出する。そのシナリオは順調に進行しているようだ。
ともあれ、フォミナ達を先行させ、オレは階段でしばらく待ってから最下層に降りた。
ダンジョン最下層はシンプルな部屋だ。
奥にはボスへの巨大な扉が一つ。今は閉じられているが、向こう側ではフォミナ達が戦っているだろう。
正直、彼女のことは気になるが。まずは自分の目的が優先だ。
オレは階段から右側の壁沿いをゆっくりと歩き、石壁をつぶさに観察した。
「あった……なるほど。『しらべる』って感じだな」
じっと壁を見ていると、一カ所だけ窪んでいるところがあるのが見えた。
迷わずそこを押し込むと、重い感触と共に壁自体がゆっくりと消えて小さな金属の扉が現れた。
これこそが目的の隠し部屋だ。ついにここまで来た。
「……誰も来てませんように」
ドアを開け、中に入るとそこは二畳くらいの狭いスペース。
そして、中央には宝箱が鎮座していた。
「………」
はやる気持ちを抑え、ゆっくりと箱を開ける。
「……あった」
中に入っていたのは、透明で小さな球体。中に青白い光が瞬いている。
これこそが<貫通>の封技石。オレが生き残るための手段だ。
落ちついて冒険者ポーチに<貫通>の封技石を入れる。
さて、目的は果たした。このまま脱出しようか。まず、スキルを覚えさせて貰わなきゃな。
やり遂げた満足感と共に、小部屋を出たとき。ふと、ボス部屋の扉が目に入った。
「………揺れた?」
人が四人くらい並んで通れそうな扉が、一瞬揺れた。中で激しいボス戦が繰り広げられていることを考えると、不思議ではない。
ちょっと、様子を見てから帰ろうかな。
そんな思考が脳裏をよぎる。このまま放っておいても、フォミナは生き残れる。ムカつく仲間は死に、そのうち主人公に拾われて幸せになる可能性もある。
それでいいのだろうか?
主人公と出会うまで、フォミナは仲間を守れなかったことを悔やんで、抜け殻のようになる。人の良い彼女にとってはあんなのでも、仲間だったんだ。
自分の好きなキャラ……いや、女性にそんな思いをさせていいのか? 今なら、悲劇を防げるかもしれないのに。
それに、主人公だって現れるとは限らないじゃないか。その場合、フォミナはずっと失意のままだ。
一つ、思いついたことがあった。
「……防げるか。試す価値はあるかもな」
オレはこれから、自分の運命を相手に戦うことになる。ならここで、フォミナの仲間を死の運命から救えるか、試してみるのはアリな気がする。
せっかく手に入れた<貫通>はまだ使えないが、やりようはある。この十日間で色々と準備は整えた。
自分への言い訳、好奇心、検証。色んな感情が、オレにこの決断をさせた。
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