ゲームの世界に転生したら、いきなり全滅ルートに突入した件〜攻略知識を活かして、なんとかして生き延びる〜

みなかみしょう

文字の大きさ
19 / 51

第19話:クラム様とお話

しおりを挟む
 流血の神殿、三階から上がれる最上階。最後のフロアはまるごとクラム様の生活スペースになっている。白く冷たい石造りの応接に、泊まるものがいるのかわからない来客用の寝室、主に風景が飾られた絵画の部屋など、贅沢な作りの部屋が多く用意されている。各所にはクラム様に吸血された下僕が配置され、常に清潔に保たれているのも特徴だ。

 その中でもオレ達は応接に通された。応接といっても、玉座に腰掛けるクラムに向かって話す、謁見の間みたいな部屋である。
 
「セバス、茶の用意をしてやってくれ。久しぶりの客人だ」
「かしこまりました。クラム様」

 最上階に上がるなり横にやってきた、紳士然とした顔色の悪い男性が恭しく頭を下げて、退出する。彼はクラム様の世話係だ。たしか話すと意外と気さくで親切な男だったはず。

「では、茶の用意ができるまで、お前達の話を聞くとしよう。さあ、話すがいい」

 玉座に膝を立ててだらしなく座ると、クラム様が悠然と言い放った。際どい格好で際どいポーズを取るのが好きな人だ。一瞬目を取られかけたが、ここは緊張感を持たねば。

「話すと言っても……」
「クラム様は外に出ないから本当に何でもいいから聞きたいだけなんだ。オレ達の学園の話からでも上手く話せれば楽しんでくれるはず」
「わかっているではないか。マイスの言った通り、あまり外にでなくて世事に疎いから何でも珍しく聞こえる。悪い聞き手ではないぞ」
「フォミナ、学園のこと話せるか? オレよりは上手く説明できると思うんだけど。できるだけフォローするから」
「じゃあ、私達が冒険者になる前のことを……」

 状況に困惑しつつも、フォミナは学園時代のことを話し始めた。オレもゲーム記憶を頼りにできるだけ助けよう。

「なるほど。今の学校は貴族と庶民が混ざり合って通っておるのか、面白い。身分差があれば、色々と軋轢があるだろうに。わざわざ面倒なことをするとはのう」
「学園内で格差はありますが、たまにそういう垣根を越える人もいます」
「なるほど。いつの時代も変わり者はいるものだ。それよりも学園祭とやらが面白そうだのう。妾も見にいきたい」
「許可さえあれば誰でも入れるはずですよ。クラム様ならどうにかできるのでは?」
「ううむ、この体の事情さえなければ……」

 一時間後、クラム様はフォミナの話す「ゆるふわ日常系学園生活」の虜になっていた。なんか、ゲーム以上にまったり過ごしていたらしい、この子。

 最初は玉座にいたクラム様だが、セバスがお茶と菓子の用意が済んだことを告げると、テーブルを持ってこさせてティーパーティーの様になった。今は目の前で楽しそうにしている。持ってるのが銀色の杯で、中に入ってるのが誰かの血液だけど。

「最初に妾の宮殿を荒らしているのを見たときは軽く仕置きをしてやろうかと思ったが、なかなか良いものに出会えたのう」
「そんな。楽しんでいただけてよかったです」

 胸をおさえながら心底安心した様子でフォミナが言った。危なかった、やっぱり最初の時はちょっと機嫌悪かったんだな。

「では、次はお前だな、マイス。お前の話を聞きたい。それも色々と。お前はなにをしている? 死霊が魔法で眠ったり麻痺したのは何の技術だ。ここに来たのもお前の判断だろう、目的はなんだ」
「えっと、それは……」

 正直、クラム様相手ならオレのことを全て話してもいいと思っている。そのくらいの度量があるし、自身が超常の存在だから、荒唐無稽な話を受け容れてくれる可能性が高い。

「口ごもるか……。ふむ、訳ありだろうとは思ったが。よし、都合良くしてやろう。セバス、フォミナの相手をせよ。妾はマイスと二人で話す」
「承知いたしました。クラム様」

 セバスが現れて丁寧なお辞儀をしたと思ったら、クラム様が満面の笑みでこちらを見ていった。

「では、行くとしようか。妾の部屋に」
「マイス君っ!」

 フォミナの焦りを帯びた叫びが聞こえたと思ったら、オレの意識は暗転した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...